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現状ではなく、プロジェクトの目的から考えた目標を設定することにより、現状を打破するという視点で本質目標を設定する

第15回 本質目標と統合マネジメント(2018.04.17)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか
第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ
第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか
第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法
第6回 コンセプトを作る
第7回 概念の世界と形象の世界でコンセプトの作成を考える
第8回 概念の世界と形象の世界(1)
第9回 概念の世界と形象の世界(2)
第10回 概念の世界と形象の世界(3)
第11回 概念の世界と形象の世界(4)
第12回 概念の世界と形象の世界(5)
第13回 コンセプト作成を前提としたプロジェクトデザイン
第14回 コンセプトを考えながら、目的から目標を設定する

第14回から続く)

◆本質目標と定め方

目的と目標の関係についてもう少し体系的に説明しておきましょう。目的に対する目標には、本質的な目標と本質的ではない目標があります。ここで本質とは何かを考えてみると2つの意味があります。一つは課題解決のコンセプトにおいて本質、もう一つは目的に対する本質で、この両方が満たしているのが本質目標だと考えることができます。

たとえば、目標を

・挑戦的―平凡
・具体的ー抽象的

の軸で考えてみると、本質的な目標は下図のように右上の事象にあることが多いと思われます。つまり、挑戦的で具体的な目標です。

          挑戦的
           ↑
    ┌──────┼──────┐
    │ ビジョン │ 本質目標 │
抽象的←┼──────┼──────┼→具体的
    │ 価値観  │ 短期目標 │
    └──────┼──────┘
           ↓
          平凡

では、このような本質目標はどこから生まれてくるのでしょうか?以下のような3つの起点があると考えられます。

まずは、目的起点で、現状ではなく、プロジェクトの目的から考えた目標を設定することにより、現状を打破するという視点です。これはコンセプトを起点としていると考えてもよいでしょう。

二番目は将来起点で、将来に立って、最適な目標を考えることにより、現状を打破するという視点です。

三番目は顧客起点で、顧客の立場に立ち、抜本的な目標を設定することにより、現状を打破するという視点です。ITプロジェクトの起点としては最も多いのが顧客起点だと考えられますが、その中でも、目的起点でコンセプトを踏まえていることが求められます。


◆本質目標達成のアプローチ

このように本質目標を設定し、次に目標達成のアプローチを決めます。アプローチの表現方法もさまざまですが、ここではベースライン計画に着目します。ベースライン計画は、組織が承認した計画で、一般的には

・スコープベースライン
・タイムベースライン
・コストベースライン
・リソースベースライン
・品質ベースライン

を計画します。具体的な計画方法もさまざまですが、スコープベースラインをWBSで表現し、WBSのワークパッケージに粒度にあわせて、それ以外のベースラインの単位を設定するという方法が一般的です。たとえば、WBSを2週間くらいの単位で考えると、スケジュール、コスト、リソースのベースライン計画も2週間単位で考えるわけです。

その上で、ベースラインを達成するための計画を作ります。たとえば、

1.変更マネジメント計画
  ・本質目標を達成することを優先したマネジメント
2.コミュニケーションマネジメント計画
  ・ベースラインの共有のためのコミュニケーション
  ・リスクとリスクの状況の共有のためのコミュニケーション
  ・ステークホルダーを動かすためのコミュニケーション
3.リスクマネジメント計画
  ・ベースライン計画実行のリスクとその対策
4.調達マネジメント計画
  ・ベースラインを守るために必要な調達
5.人的資源マネジメント計画
  ・ベースライン実行のために必要なチームと人的資源
6.ステークホルダーマネジメント計画
  ・ベースラインを守るために鍵を握るステークホルダーとその対応

といったような計画を作るわけです。これがベースライン達成のアプローチとなります。

課題解決コンセプトは、ベースライン計画やベースライン達成のアプローチにも影響を与えます。ベースラインについては、コンセプトと整合しているかどうかが問題なります。これにはスコープベースラインにコンセプトを具体化することによって考えられるスコープが入っているといったことです。

そして、ベースライン達成アプローチについても、コンセプトを外れないように決めていく必要があります。


◆統合マネジメント

以上、課題解決のコンセプトに基づいて、プロジェクトをどのように進めていくかを説明してきましたが、最後に一つだけ覚えておいてほしいことがあります。それは統合マネジメントに対する考え方です。

プロジェクトの計画は5W2Hを明確にする形で作ります。ここでプロジェクトにおける5W2Hは

WHAT:テーマ名、対象、成果など
WHY:目的、プロジェクトの実施理由、提起問題や要求
WHO:ステークホルダー
WHERE:実施場所、対象範囲(スコープ)、前提/制約条件も含む
WHEN:開始日から納期まで一連のスケジュール 
HOW:方法、進め方、工法など
HOW MUCH:予算、投資額、経費、投資対効果など

を指しています。

この中で、通常はWHATを中心に考えます。つまり、まず、成果から決めて、その後で他の5W1Hを決めることが多いように思います。この方法では、プロジェクトマネジメントの本質である統合マネジメントから少し外れてしまうことがあります。

統合マネジメントをするには、WHATを特別扱いするのではなく、WHYから初めて、WHATとHOWを統合することが望ましいと考えられます。このようなマネジメントをするには、コンセプトに基づいたプロジェクトとしてプロジェクトマネジメントをしながら進めていくとスムーズに進めることができます。今回説明しましたプロジェクトデザインの方法はそのような発想になっているわけです。

◆おわりに

今回は作成した課題解決のコンセプトをどのようにプロジェクトデザインに展開していくかを説明しました。戦略→目的→目標→ベースライン計画→アプローチというプロジェクトガバナンスの基本的な話ですが、戦略と目的の間にプロジェクトコンセプトを作って活用することにより、芯が入ることがお分かりいただけたかと思います。

(続く)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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