☆これまでの記事
第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか
第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ
第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか
第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法
第6回 コンセプトを作る
(第6回から続く)
◆概念の世界と形象の世界でコンセプトの作成を考える
前回、著者がコンセプトを作るために使っている基本的なステップは
「(1)現状認識」
「(2)価値創造」
「(3)言語化」
「(4)共感獲得」
の4ステップであると説明しましたが、今回からは、それぞれについて5軸からなるコンセプチュアル思考がどのように役立つかについて説明したいと思います。
ここでは、第3回で説明したコンセプチュアル思考を行う際に設定する
「概念(大局、抽象、直観、主観、長期)」
「形象(分析、具象、論理、客観、短期)」
の枠組みを使います。
まず、「(1)現状認識」ですが、ここでは形象の世界で「事実の認識」を行い、認識された事実を元に、概念の世界で何かを「感じたり」、「洞察」をします。感じることは主観や直観が中心になります。また、洞察では事実から全体の範囲を決め、その範囲で抽象化することがポイントになりますので、大局、抽象が重要になります。
次に、「(1)現状認識」に基づいて、「(2)価値創造」するわけですが、基本は発散させて、新しいアイデアを出すことです。これらの思考は抽象化された事実をベースに概念の世界で行いますが、併せて、発散では抽象的な事実の事例や事実を中心に形象の世界にも入っていきます。また、新しいアイデア出しは、概念の世界で抽象的な思考を中心に行いますが、同時に、具体化を行い、抽象と具体を行き来しながらアイデアとして仕上げていきます。
さらに、「(3)言語化」してコンセプトにするわけですが、ここでも概念的なコンセプトを考えるだけではなく、コンセプトの具体的な例を考えることを併せて行い、抽象と具象を行き来しながらコンセプトとして固めていくことになります。
最後にステークホルダーへの「(4)共感獲得」です。ここでは、ステークホルダーへ伝えることとステークホルダーを巻き込むことがあります。伝える際には、全体をある程度抽象的なレベルで伝えた方がいいステークホルダーと、具体的なレベルで伝えた方がよいステークホルダーがいますので、区別しながら伝えていきます。ここでは、大局と分析、抽象と具象の行き来が中心になります。
さらに、主要なステークホルダーは巻き込みを行います。巻き込みは形象の世界で行った方がよいもので、概念の世界で伝えた人にも協力してほしい内容を具体的・分析的にして、巻き込んでいきます。共感の際に重要になるのは新しいアイデアを産む出す際に主観的に考えたことの客観性です。
このように、コンセプトの作成においては、第3回で簡単に紹介しました
・大局的/分析的
・抽象的/具象的
・主観的/客観的
・直感的/論理的
・長期的/短期的
の5つの軸を使ったコンセプチュアル思考による本質の見極め、洞察、応用などによって生まれるコンセプトの質が大きく変わってきます。コンセプチュアル思考を使ってコンセプト力を強化する、つまり、よりよいコンセプトを作り上げるには、各要素に対して、適切に軸を使うことがポイントになります。言い換えると、第3回で述べた良いコンセプトの条件である
(1)やりたいことが明確である
(2)実現性があること
(3)価値創造のプロセスがイメージできること
(4)全体性があること
の4つの条件を満たすコンセプトができるわけです。
◆思考態度について
そこで、この5つの軸についてどのようなものかを考えてみたいと思いますが、その前に一つ気に留めておきたいことがあります。われわれは、大局的に考えることが良いだとか、抽象的に考えることは良くない、主観的に考えることは良くないとか考えがちですが、これは必ずしも適切な思考態度だとは言えないということです。
たとえば、「具体的に考えよ」、「論理的に考えよ」という指示をするマネジャーがいますが、具体的に、論理的に考えていればよいというわけではありません。
なぜ、こういう指示をするのかといえば、部下が抽象的に考える傾向がある、直観的に考える傾向があるからです。つまり、抽象的にも具体的にも考える、直観的にも論理的にも考えることを求めているわけです。これが、コンセプチュアル思考で思考を5つの2極軸として捉えている理由です。
◆現状認識のポイントは事実を如何に抽象化するか
では、コンセプト作成プロセスにおける各思考軸の使い方の説明に入りましょう。まず、最初のプロセスである現状認識のポイントになるのは、抽象と具象の軸です。第3回で説明しましたようにこの軸は
現実の現象を抽象化し、抽象的に思考(問題解決や意思決定)を行い、その結果を複数の具体的な事象や行動に落とし込むことにより、現象からは直接得にくい結論を得ることができる
思考軸です。この軸を使い、現実に起こっていることを事実として認識します。その上で、それらの事実を抽象化し、独自の意味づけをするわけです。ここでは、主観が絡んできます。
もう一度、第1回で考えた事例プロジェクトを考えてみましょう。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ある通販会社で経営層から「ロイヤルカスタマー戦略のテコ入れによる収益向上┃
┃」という戦略が打ち出された。 ┃
┃その実行の一環としてロイヤルカスタマーへの新たな働きかけをする、これまで┃
┃にはない仕組みの構築を課題としたプロジェクトを実施することになった。 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
このプロジェクトのコンセプトを考えます。まず、現状認識のためロイヤルカスタマーの調査をしました。そこで事実として、
・ロイヤルカスタマーAは価格面での不満はないと思っている
・ロイヤルカスタマーBは大量購入者へのサービスが物足りないと思っている
・ロイヤルカスタマーCは優遇に不満はないが、商品の品揃えが不十分だと思っている
・ロイヤルカスタマーDは・・・
・・・
などの情報(事実)を得ることができました。これらの情報を整理し、洞察し、現状の本質的な課題を認識する必要があります。そのために、欠かせないのがこれらの情報から抽象化した課題を抽出することです。つまり、具象と抽象を行き来する必要があります。
(続く)
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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