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現状認識、価値創造、言語化、共感獲得の4ステップでコンセプトを作る

第6回 コンセプトを作る(2017.12.01)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか
第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ
第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか
第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法

第5回から続く)

◆はじめに

ここまで述べたように、プロジェクト課題の解決のためには、プロジェクト課題の本質を考え、その本質を解消するような解決策のコンセプトを考えたいわけだが、それでは、このようなコンセプトをどのように作っていけばよいのだろうか。

著者が使っている基本的なステップは、

(1)現状認識:事実の認識、洞察、感じる
(2)価値創造:発散させる、新しいアイデア
(3)言語化:何を誰にどのように提供するのかを明確化
(4)共感獲得:ステークホルダーに伝え、ステークホルダーを巻き込む

の4ステップである。

(1)現状認識
まずは、現状認識である。現状認識には、

・事実の認識
・洞察
・感じる

の3つがある。事実の認識は文字通り事実情報を集めることである。ここでどのような事実を現状だと考え、情報を取り込むかはあくまでも主観であることに注意をしておいてほしい。

洞察には、基本的には事実を組み合せて行う洞察で、将来的にどうなるかという洞察、見えていないところも含めて全体がどうだという洞察、時代やトレンドがどう変化するかという洞察などがある。また、人の真実に対する洞察も重要である。

また、この段階で感じたことを収集しておくかも重要である。

これらは客観的に行われると思われがちだが、事実の認識の範囲は主観的なものであるし、洞察については主観的な事実である。また、感じることは直観であるので、主観や直観を取り入れたものになる。

(2)価値創造
現状認識が終わったら、コンセプトのもとになる新しいアイデアを生み出す「価値創造」の段階に移るが、その前に認識した現状に対する情報をたとえば、ブレーンストーミングのような方法で一度、発散させておく。

その上で、新しいアイデアを考える。プロジェクトであればプロジェクトで行うプロジェクト課題解決の基本的な方向性である。コンセプトがよいかどうかはアイデアによって決まるといってもよいくらい重要なものだ。

アイデアを考える際に重要な視点が持続可能性である。つまり、アイデアが当面のものではなく、ビジネスモデルとして通用することだ。そのためには、そのアイデアによって、何がどう変わるかを明確にする必要がある。良いアイデアとは何かという議論にもなってくるが、コンセプトの通りに実現していった際に、持続的にビジネスモデルとして通用することが重要なのだ。

どうすればそのような判断ができるのだろうか。簡単にいえば、そのコンセプトが達成されたあかつきには、好循環が期待できるかどうかを考えればよい。これは、具体的な進め方(計画)を明確にするより重要である。

たとえば、「ロイヤルティ制度の導入」というアイデアであれば、「ロイヤルティにより、より多くの買い物をする」、「コミュニケーションが豊富になる」、「ロイヤリティが高まり、買い物の量が増える」といった好循環が生まれる可能性がある。

(3)言語化
アイデアができたら、文章化なり、表現をする。コンセプトはどのように書くのかということに関する明確な取り決めはない。むしろ、表現の仕方そのものにもコンセプトがあるのかもしれないし、以前説明したような良いコンセプトとしての条件を満たしていれば、どのような表現をしてもかまわない。シンプルにステートメントで書くこともあれば、1枚の図で描いても構わない。

著者は、「誰に、何を、どのような形で提供するか」をコンセプトとする表現を用いるようにしている。非常に汎用性が高い枠組みで、作りやすく、使いやすいからだ。以前、少し触れたが、プロジェクトで考えるべきコンセプトには、成果物であるシステムのコンセプト、プロジェクト自体をどのように進めるかというプロジェクトのコンセプトがある。ビジネスモデルによっては事業としてのコンセプトが必要なプロジェクトもあるだろう。

「誰に、何を、どのような形で提供するか」をコンセプトとすると、製品、プロジェクト、事業のコンセプトのいずれも自然に表現できるというメリットがあるのだ。

(4)共感獲得
そのようにしてコンセプトができれば、次に考えるべきことは共感性を持たせることだ。共感が生まれて初めてコンセプトと言える。

コンセプトは、プロジェクトのステークホルダーが関係するものである。これまで説明したようにコンセプトが考えられるタイミングはプロジェクトの開始前、あるいは初期である。したがって、メンバーは決まっていない場合も少なくない。逆にいえばコンセプトに共感できるメンバーを集めてプロジェクトを進めることもできる。

そのように考えると、コンセプトの共感性は、メンバーだけではなく、ステークホルダーまで考えたものである必要がある。


◆例

では、例のプロジェクトでどのようにコンセプトを作るかを確認してみよう。

まず、プロジェクト課題の本質を考える。第5回で示したように、例えば、本質は

「競合から守る」

ことだと考えた。

次に、この本質的なプロジェクト課題に対応する解決のアイデアを考える。

そのために、関連する情報を集める。競合にはどのような会社があるのか、競合のサービス状況などである。さらに、これらの情報から、「今後、どのような競争になるのか」、「新しい分野から競合は出てくることはないのか」、「これから販売行為がどのようになっていくのか」、「ユーザーのイメージ」といったことを洞察する。

これらの現状認識をベースに、「競合から守る」ためのアイデアを考える。そこで出てきたのが、「ロイヤルティ制度の導入」だった。

そこで、以下のようなコンセプトを作った。

誰に:ロイヤルカスタマー、オペレーション担当者
何を:ロイヤルティ制度の導入
どのように:制度に対するアイデアを社内で募集する
      プロジェクトで仕組みを開発する
      試行期間を設け、仕組みを確立する

そこで、このコンセプトに基づき、まず、テーマに関する主要ステークホルダーを検討し、コンセプトの理解を図るとともに、協力を依頼した。また、必要なメンバーを想定し、そのメンバーの上司にも協力を依頼し同様な働きかけをした。


◆終わりに
第4回~第6回では、プロジェクト課題の本質を考え、本質的な課題に対応する解決策のコンセプトを作る方法について述べた。ここで重要なことは、プロジェクト課題の本質も、本質を踏まえたコンセプトも正解があるわけではなく、主観的なものである。ところが、主観的にものごとを考えることが苦手な人が少なくない。よく日本人はコンセプトを作るのが下手だと言われるが、その一因は主観的な思考ができないことにあるように思う。面白いコンセプトができない理由も客観的に考えようとしすぎるからだ。

そこで次回からは、コンセプチュアル思考を使って、主観とうまく使い、コンセプトの質を上げることを考えたい。
(続く)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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