☆これまでの記事
第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか
第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ
第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか
第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法
第6回 コンセプトを作る
第7回 概念の世界と形象の世界でコンセプトの作成を考える
(第7回から続く)
◆抽象と具象の行き来の方法
では、抽象と具象の行き来は具体的にはどのように考えて行えばよいのでしょうか?
抽象化の方法にはいくつかの方法があります。基本的な方法は以下の3つだと言われています。
・一般化
・単純化
・構造化
一つ目の「一般化」は、ひとつひとつの具体的な事象を、その上位概念になる一般的な事象で置き換えていくという抽象化です。たとえば、抽象化の例示としてよく使われる
犬→哺乳類→動物→生物
というのがそうです。
二つ目の「単純化」は、事象のうち、目的に関係する部分のみの特徴をとり出し、関係ない部分は無視するという方法です。本質を見出すのに適した抽象化だということができます。モデリングも単純化です。
三つ目の「構造化」は、具体的な事象間に存在する関係や構造を明らかにすることです。関係を明らかにするにあたって、全体のテーマに関連のありそうな事象を選ぶことになります。つまり、あまり関係なさそうな事象を捨て(捨象)、単純化もしていることになります。
例えば、下記の事例プロジェクトで単純化して抽象的に考えてみると、
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ある通販会社で経営層から「ロイヤルカスタマー戦略のテコ入れによる収益向上┃
┃」という戦略が打ち出された。 ┃
┃その実行の一環としてロイヤルカスタマーへの新たな働きかけをする、これまで┃
┃にはない仕組みの構築を課題としたプロジェクトを実施することになった。 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
目的である仕組みを作ることからは、現状には、
・ロイヤルカスタマーのランク分けが必要
・上位ランクでは優遇サービスの仕組みが必要
・一般ランクでは品揃えを強化する仕組みが重要
といった課題があると考えることができます。
◆抽象と具象の行き来の方法
抽象と具象の行き来をするには、抽象化するだけではなく、具象化する必要があります。たとえば、犬を抽象化すれば哺乳類ですが、哺乳類を具象化すると、犬だけとは限りません。猫も、猿も哺乳類です。つまり、具象化するポイントはいかに自由に考えるかにあり、そこでは想像力がものをいうわけです。
具象化の方法には、ブレーンストーミング、スキャンパー、アイデアボックスなどの方法があります。ブレーンストーミングは良く知られていますが、いろいろと難しいところもあり、難点をカバーするためにカードを使ってブレーンストーミングを行うブレーンライティングという方法もあります。
ブレーンライティング、スキャンパーについては、こちらのコラムも参照ください。
PMの道具箱 第4回 ブレインライティング
PMの道具箱 第70回 発散的思考法:スキャンパー法
スキャンパーはブレーンストーミングの中で使う質問パターンで、置き換え、組み合わせ、当てはめ、修正、別の使い道、削る、整理などからなります。アイデアボックスは、課題の特性を書き出し、特性の下に選択肢を埋めていくことにより、特性ごとに組み合わせるものを決める思考方法です。
アイデアボックスは、課題の特性を書き出し、特性の下に選択肢を埋め、特性ごとに組み合わせるものを決める方法です。
例えば、ドラマのプロットなどを決める際に、特性として、時代、場所、登場人物、出来事などを特性とし、その下の時代の欄には、現在、未来、江戸時代などを記載し、場所の欄には、東京、大阪、イタリアなどを記載し、登場人物の欄には若い女性、定年後の男性などを記載し、出来事の欄には、建築家になる、カフェを作るなどを記載し、それぞれの組み合わせで新しいアイデアを作っていく方法です。例えば、江戸時代、大阪にて、若い女性が、デザイナーを目指す。などです。
では、事例のプロジェクトで考えてみると、たとえば「一般ランクでは品揃えを強化する仕組みが重要」という課題を具体化すると、商品の品揃えに限らず、たとえば、優遇サービスのラインナップにも課題があると考えることができます。このようにして、実際には事実として目に見えていない具体的な課題も探していくことができ、発散ができるわけです。さらに、それが次のステップのコンセプトのアイデア出しの際に効いてきます。
現状認識では、抽象/具象の思考軸を以上のように使いますが、価値創造のプロセスにおいても同様です。発散において抽象的なレベルで発散させる一方で、具体的な事例を考慮することにより発散させることが必要ですし、アイデア出しにおいては抽象的なアイデアをめぐらしながら、具体的な例を考えることが必要であり、やはり抽象と具象の行き来が必要となります。
このように抽象/具象の軸を適切に使い、自由にアイデアを出すには、この軸がどのような特徴を持っているかを知っておく必要があります。そこで、抽象/具象の思考の特徴を整理しておきましょう。
◆抽象/具象思考の特徴
┌─────────────┬─────────────┐
│抽象的に考える │具象的に考える │
├─────────────┬─────────────┤
│分かりにくい │分かりやすい │
│応用が利く │応用が利かない │
│条件を落として考える │詳細な条件を加えて考える │
│分類して、まとめて対応する│一つ一つに個別に対応する │
│問題解決に適している │問題発見に適している │
└─────────────┴─────────────┘
まず、一番目の特徴は抽象的であることは分かりにくく、具象的であることは分かりやすいことです。これは、説明などにおいて具象的な思考が好まれる理由でもあります。
このことと表裏一体なのが二番目の特徴で、応用が効くか、効かないかということです。たとえば、壁を白いペンキで塗ってくれと指示されたら白いペンキで塗る以外の選択はありません。ところが、壁にペンキを塗ってくれといわれると何色にするかは塗る人の裁量に任されます。分かりやすくて応用が効かないのが具象、分かりにくいけど応用が効くのが抽象で、これをうまく使い分けることが自由に考えることができるポイントになります。
その背景にあるのが三番目の特徴で、具象は条件を詳細に考えますが、抽象は条件を落として考えます。ここで難しいのは抽象化するときに、どの条件を落として考えるかです。うまく条件を落とさないとうまく抽象化できません。
逆に条件を加えて具体化するときには、付け加える条件にセンスが問われます。
四番目の特徴は、あたり前ですが、具象的に考えると個別に対応する必要があることです。たとえば、問題解決ですと個別の問題に対応し、もぐらたたきのような対応になってしまうわけですが、抽象化して対応することは、分類し、同じようなものにまとめて対応することですので、問題を未然に防ぐことにつながっていきます。
(続く)
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