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長期スパンの思考と短期スパンの思考を相互に繰り返した結果を統合し、短長期のいずれにおいても最適な結論を得ることができる

第11回 概念の世界と形象の世界(4)(2018.02.13)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか
第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ
第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか
第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法
第6回 コンセプトを作る
第7回 概念の世界と形象の世界でコンセプトの作成を考える
第8回 概念の世界と形象の世界(1)
第9回 概念の世界と形象の世界(2)
第10回 概念の世界と形象の世界(3)

第10回から続く)

◆長期的と短期的

次に、新しいアイデアの創造で重要になる軸は長期的と短期的の軸です。これは第3回で説明しましたように、

長期スパンの思考と短期スパンの思考を相互に繰り返し、それぞれの結果を統合し、短長期のいずれにおいても最適な結論を得ることができる

という軸です。


◆長期的/短期的の思考方法

では、この思考軸の思考方法をもう少し詳しく考えてみましょう。長期的/短期的の思考軸が活きてくる問題解決の場合には、まず短期で問題の拡大を防止し、次に根本的な対策を長期的な視点で行う二段階の対応が基本になります。

たとえば、赤字が出ている事業があれば、起死回生を狙って新製品を投入しても、赤字製品に足を引っ張られて失敗するのがオチです。まず、既存製品の赤字を食い止め、その上で、新しい製品を投入する必要があります。ただし、今はビジネスのスピードが速く、そんなやり方をしていると間に合わないということもあり、同時並行に進めることが多いですが。

事例プロジェクトでいえば、どのようなスパンで考えるかは難しい問題です。発散させた段階で短期を重視したアイデアと長期を重視したアイデアの両方が混ざっていることが想定されます。そこから生み出すアイデアとして、当面の状況を重視するのか、5年、10年先の状況を重視するのかという議論になるわけですが、両立させたいわけでそのようなアイデアを出したいと考えます。そのためには長期と短期の軸を行き来することが不可欠です。

行き来の方法はいくつかあります。一つは短期的な答えを考えた上で、それが長期になるとどうなるかを考えます。長期的に見たときにも、よい答えであれば問題ありませんが、何か長期的には問題があればその問題の解消を図り、逆にその答えが短期的にはどういう結果をもたらすかを評価します。

このように短期的にも長期的にも満足できる答えを探していきます。この際に、発想の飛躍が必要なことは言うまでもありませんが、そのためにはたとえば、長期のところでの問題解決に抽象と具象の軸を組み合せてみるとよいかもしれません。

もう一つの方法は、逆算をすることです。最近未来について考えることが注目されていますが、その中で未来からみたときに今どうあるべきかを考え、そのギャップを解消するという方法があります。この方法では、必ずしも目先の問題の解決に重きを置いていませんが、この中でギャップの具体的な解消案の中から、目先の問題について効果がある方法を選ぶという方法を取ることによって統合をしていくとよいでしょう。この方法も結局、長期と短期の軸の行き来をしていることになります。


◆統合する

バランスをとるもっともよい方法は長期/短期を統合し、両立するという方法です。統合するためには、時間全体を把握し、本質をとらえる必要があります。コンセプチュアル思考の枠組みで考えると大局的な思考が必要になります。

長期と短期の統合をする場合に重要になるのは、初期の段階でできるだけ情報を捨てないようにすることです。論理的に考えるというのは普遍的な答えを探しているように見えますが、実は、前提を置くことによって最初の段階で重要な要素を絞り込んでいます。このような絞り込みをせず、幅広く多様な要素に目配りし、その中から本質を見極めていくことが重要です。

その際には、まずは、多くの要素間にある複雑な関係性を深く掘り下げることが求められます。その上で、常に全体を意識して細部を検討する姿勢が重要です。そうすることによって、妥協しない最適な結論が見つかる可能性が高くなります。

たとえば、ロイヤルカスタマー向けのサービスを例にとれば、サービスとしてはさまざまなものが考えられます。そこで、実際のデザインにおいては短期的な視点で、今求められるサービスを絞り、そのサービスをどのように実現するかを考えるわけですが、統合をするためにはサービスの絞り込みをしません。そして、サービスとサービスの関係をどのように取るかをするかを考え、最後にロイヤルカスタマー向けサービスの全体のイメージを考えて、最適な絞り込みをするわけです。その一つの具体的な形が、例えば、「ロイヤルティ制度の導入」になるわけです。


◆長期的/短期的の軸の特徴

以上を踏まえて、長期的/短期的の軸の特徴を整理しておきましょう。

まず、利益の視点からですが、長期的な思考が重視するのは将来的な利益です。これに対して、短期的な思考で重視するのは目先の利益です。利益についてもう一つ言えることは、長期的な思考では目先の利益が保証されないということです。

これが長期的な思考を行う難しさになっています。逆に短期的な思考では、目先の利益を最大化するわけですので、非常に受け入れやすいわけです。また、短期的な思考では未来の利益がどのようになるかは全く保証されませんが、長期的な思考では未来の利益が保証されます。

ただし、ここに微妙な影を落とすのは、未来は不確実だということです。長期的には未来の最適化するわけですが、それは今考えている前提や未来シナリオのもとの話であって、それが正しいという保証はないわけです。現在の前提は変わりますし、想定しているシナリオそのものが変化してしまうことも珍しいことではないのが、今の複雑で不確実な時代です。

そこにさらに心理的な要因が絡んできます。事業に比べると短期なプロジェクトであっても、はやり数か月先の未来への不確実性を心配してしまい、逆に目先の確実な利益の確保に走ってしまいがちです。なかなか、思っているようなバランスはとれないものです。

この利益の不確実性の大小も長期的思考、短期的思考の特徴だと言えます。

極論すれば、目先の利益と将来的な利益を如何にバランスさせるかがこの思考軸を使いこなすポインだと言っても過言ではありません。

以上をまとめると以下のようになります。

┌─────────────┬─────────────┐
│長期的に考える      │短期的に考える      │
├─────────────┼─────────────┤
│未来における利益を重視する│目先の利益を重視する   │
│目先の利益は保証されない │目先の利益が最適化する  │
│未来の利益が最適化する  │未来の利益は保証されない │
│不確実性が大きい     │不確実性は小さい     │
└─────────────┴─────────────┘

(続く)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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