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要求仕様を強引に決めるのではなく、新価値創造型のプロジェクトで解決しなくてはならない課題を解決する方法を考える

第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか(2017.09.01)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか

次のようなプロジェクトを考えてみよう。

ある通販会社で経営層から「ロイヤルカスタマー戦略のテコ入れによる収益向上」という戦略が打ち出された。その実行の一環としてロイヤルカスタマーへの新たな働きかけをする、これまでにはない仕組みの構築を課題としたプロジェクトを実施することになった。これまではロイヤルカスタマーに対する値引きは行っていたが、即日配送、特別な情報提供などできそうなことはいくらでもある。加えて、これまでには行われていない方法を取ることを前提にすれば、考える範囲はほぼ制約がない。一方でコストは決まっているので、その制約は守らなくてはならない。

このようなプロジェクトにおいて、いきなり、具体的にどのような仕組みを持たせるかを決めようとしても、新しい独自の仕組みを固定的に考えることは非常に難しく、試行錯誤してみなくては決まらない可能性が高い。また、強引に決めてもプロジェクトを進めていくうちに、実現できない、予算が足らないといった問題に直面することが多い。そもそも、ロイヤルカスタマーの定義は今のままでいいのかといった話にもなってくるだろう。

たとえば、注文の仕組みを変えて、ロイヤルカスタマーになれば他の人に商品を奨めた場合のロイヤリティが入る仕組みを取り入れようとした。ところが、ロイヤルカスタマーがそれなりに満足するにはどういう仕組みにすればよいかは実際にやってみないと分からない部分が多い。仕組みによって、システムの仕様だけではなく、範囲も変わってくるだろう。

このようにシステムとして開発すべき範囲や仕様を明確にした上で、システムを開発するという方法が通用しにくい「ITプロジェクト」が増えている。

にも関わらず、要求仕様を強引に決めようとする。
プロジェクトを進めていくうちに、結果として要求仕様は変化し、ステークホルダーの間でプロジェクトの目的に対する共通の認識がなく、また、チームにおいても指針がなく開発を進めていくケースが増えている。

従来のプロジェクトではプロジェクトの目的はシステム目的によってほぼ決まっていたし、システムの要求仕様もプロジェクトの初期で決まっていたので、あえてプロジェクトの目的を意識する必要はなかった。

ところが、問題としているタイプのITプロジェクトでは、プロジェクトの目的とシステムの目的は必ずしも一致しない。つまり、明確なゴールを設定しないままで、プロジェクトを開始することになる。

プロジェクトのゴールが明確になっていない状況でプロジェクトを進めると、プロジェクトは例外なく混乱する。これが、いま、ITプロジェクトが混乱しているもっとも大きな原因である。


◆ビジネスにおけるシステムの位置づけの変化とその対応

そもそも、ITプロジェクトは、かつてはITソリューションを実現するものであり、ビジネスの仕組みを支える土台であった。ところが、最近は、ビジネスソリューションの一部を構成し、ITシステムの一部がビジネスの仕組みそのものになってくるものが増えてきた。前者においてはITシステムはプロジェクトの初期の段階でその範囲や機能がある程度決まっているが、後者においてはITシステムとしてどのようなものが必要になるのかはプロジェクトの進行とともに決まってくるケースが多い。

特にプロジェクトで実現したいことが現状の延長線上にないイノベーション(新価値創造)を目的としたプロジェクトにおいては段階的に詳細化していくだけではなく、試行錯誤をしながら仕様を決めていかなくてはならないケースも増えている。

このため開発方法としても、従来のようなウォーターフォールだけではなく、アジャイルのような方法も注目されるようになってきた。

このような状況の中で、プロジェクトの進行そのものも考え直さなくてはならなくなってきている。従来は要求仕様をしっかりと定義できればよかったが、新価値創造型のプロジェクトにおいては要求仕様をプロジェクトの早期に決めることは難しいし、決めるのは遅い方がよい。

そこで、新価値創造のためにプロジェクトで解決しなくてはならない課題に対して、その課題を解決する方法を合理的に考え、実行していくことが必要になってきた。

(続く)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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