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「発散」、「新しいアイデア」を生み出すプロセスでは「直観」が重要だが、論理的な根拠があってこそである

第10回 概念の世界と形象の世界(3)(2018.02.02)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか
第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ
第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか
第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法
第6回 コンセプトを作る
第7回 概念の世界と形象の世界でコンセプトの作成を考える
第8回 概念の世界と形象の世界(1)
第9回 概念の世界と形象の世界(2)

第9回から続く)

第7回から第9回はコンセプトを作る基本的なステップ「現状認識」、「価値創造」、「言語化」、「共感獲得」の4ステップの最初の2つのステップ「現状認識」、「価値創造」において、コンセプチュアル思考の大局的/分析的、抽象的/具象的の2軸をどのように使うかを解説しました。
本号からは、「価値創造」、「言語化」、「共感獲得」において残りの3軸である主観的/客観的、直観的/論理的、長期的/短期的について解説します。

価値創造では、発散させて、新しいアイデアを出していきます。これらの思考は抽象化された事実をベースに概念の世界(大局、直観、主観)で行いますが、併せて、発散では抽象的な事実の事例や事実を中心に形象の世界(具象、客観、論理)にも入っていきます。また、新しいアイデア出しは、概念の世界(大局、抽象、直観、主観、長期)で抽象的な思考を中心に行いますが、同時に、形象の世界(分析、具象、客観、論理、短期)で具体化を行い、抽象と具体を行き来しながらアイデアとして仕上げていきます。

そして、この「発散」、「新しいアイデア」を生み出すプロセスに注目しますと、ここに「直観」という思考があります。また、「新しいアイデア」のプロセスには、長期という思考もあります。

これまで、価値創造では大局的/分析的、抽象的/具象的の2軸が重要であると説明しましたが、さらにこれらのプロセスをうまく進めるために、直観的/論理的と長期的/短期的の2つの軸について考えてみたいと思います。


◆直観と直感

最初に、直観と論理の軸についてですが、この軸は

直観的に判断をした結果に対して論理的根拠を構成し、論理で得られた結果の妥当性を直感的に判断する。この繰り返しにより、不確実性のある中で合理性のある結論を得ることができる

という思考軸です。

コンセプト作成において直観を使うことについては賛否両論がありますが、ビジネスの複雑性や不確実性が高くなってきたため仮説なしには前に進むことができず、仮説立案を始めとして仮説検証の一連のプロセスの中で直観に対する関心が高まってきています。この傾向はコンセプト作成においても見られます。

その意味でも、コンセプト作成プロセスにおいて適切な直観と論理の使い方を理解しておくことの重要性は増していると言えます。

さて、本題に入る前に言葉の整理をしておきたいと思います。「ちょっかん」という言葉には「直感」と「直観」の2つの漢字があります。大辞泉では、直感とは

「推理・考察などによるのでなく、感覚によって物事をとらえること。」

と説明されており、また、直観とは

「推理を用いず、直接に対象をとらえること。」

と説明されています。「直感」は感覚的に物事を瞬時にとらえることですが、「直観」は推論を用いず直接に対象をとらえ、瞬時にその全体や本質をとらえる哲学用語として用いられてきました。

両方に共通しているのは、推論や考察をせずに、対象を捉える(認識すること)ですが、直感という場合には、感覚的に感じ取るようなニュアンスがあります。これに対して、直観は、経験(知識)に基づいて対象を捉えることです。


◆リフレクションを行い、ロジックを作る

直観というと直観した人の経験やキャリアを信じて、信じるという扱いをされることが多いですが、コンセプチュアル思考ではそのような考えには立ちません。

あくまでも直観も思考の一環だと考えます。つまり直観的に判断したら、今度は論理的な意味づけをします。後付けの論理という言葉がありますが、必ずしもそうではなくどちらかというとリフレクションに近い感覚だと捉えるといいでしょう。

リフレクションとは日々の業務や現場からいったん離れて自分の行動を「振返る」ことです。起こった出来事の本質を考え、その行動における自分のあり方を見つめ直します。それにより、今後同じような状況に直面したときに、よりよく対処するための知識や知恵を発見します。

リフレクション的に行うとは、なぜ、そのように直観したのかを少し客観性を持って考えていくわけです。直観には多分に感情が入りますので、一歩離れて客観的に考えてみることが大切です。すると、自分の直観したロジックが見えてきます。

ここで、いつもの事例プロジェクトを考えてみます。

ある通販会社で経営層から「ロイヤルカスタマー戦略のテコ入れによる収益向上」という戦略が打ち出された。その実行の一環としてロイヤルカスタマーへの新たな働きかけをする、これまでにはない仕組みの構築を課題としたプロジェクトを実施することになった。

さて、前回説明しましたように、価値創造の発散のプロセスで大局的/分析的な思考を行い、

・営業、商品企画、IT、調達が関係者である
・営業はロイヤルカスタマーにできるだけいい顔をしたい
・ITは仕組みをシンプルにしたい
・商品企画は、できるだけ商品が絡む仕組みにしたくない
・・・

といった事実(認識)から、「社内では関係者が責任の押し付け合いをしている」といった大局的な認識をするという話をしました。ここで、なぜ、「関係者に注目する」という分析的な視点としてが出てきたのでしょうか?

ここに直観が役立っています。つまり、直観的に組織ごとにどのような考えを持っているのかを知ることによって、全体の把握ができると考えます。そこで、営業、商品企画、IT、調達を関係者だと考えて、関係者に関する大局的な把握と分析的な把握を繰り返していくわけです。

その上で、これらに注目すればよい理由を論理的に考えていきます。たとえば、営業であれば、「ロイヤルカスタマーとの関係構築において営業の影響は大きいので、営業の考えを知ることが重要である」といったロジックがあると考えるわけです。


◆直観的/論理的の思考軸の特徴

このように直観的にものごとを捉えようとすると、直観と論理を自由に行き来しながら考えて行く必要があります。ここで、それぞれの思考にどのような特徴があるかを整理してみましょう。

まず、直観的に捉えることは総合的に捉えることです。この点においては、直観は大局に通じるものがあります。大局的な思考の場合、イメージでぱっと捉える部分を切り出せば直観的な思考と非常に似ています。

逆に論理的に捉えるというのは特定の部分、あるいは特定の前提の下で限定的に考えるということです。また、大局的な思考は本質を考え、本質を中心にして全体を捉えるものですので、その点でも本質を見て取る直観的な思考とは共通する部分があります。

さらに、直観的な思考は経験に基づく突発的なものであるのに対して、論理的な思考は計画的なものであり、客観性のあるものです。従って、直観的に考えたことをリフレクションによって論理づけするということの意味があります。

主観性という点でいえば、直観というのは意識しなくても感情が紛れ込む可能性があります。直観的に判断するというのは主観的に判断するのと同じ部分があります。これに対して論理には基本、感情は混ざりません。ただし、論理の前提に主観を交えた主観的な論理というのはあり得ますが、直観を説明する論理としては主観的な論理は好ましくないことに注意しておいてください。

最後にもっとも重要なことは、当たり前ですが直観というのは間違っていることもあるということです。これに対して論理は基本的に正しいものです。ただし、上に述べたようにあくまでも限定的なものですので、前提が変われば論理も変わり、その意味で論理で示されていることがすべてではありません。このような特徴をよく認識した上で、直観的な思考で得られた考えを、論理的に意味づけすることが重要です。

以上をまとめると以下のようになります。

┌─────────────┬──────────────┐
│直観的に考える      │論理的に考える       │
├─────────────┼──────────────┤
│総合的(イメージ的)である│限定的である        │
│迅速で、突発的である   │計画的である        │
│感情が含まれることがある │感情は含まれない      │
│正しいという保証はない  │正しいがそれがすべてではない│
└─────────────┴──────────────┘
(続く)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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