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現状認識や価値創造において、大局と分析の軸も重要であり、コンセプトでは全体性があるとともに、やりたいことを明確にする

第9回 概念の世界と形象の世界(2)(2018.01.19)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか

第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ
第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか
第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法
第6回 コンセプトを作る
第7回 概念の世界と形象の世界でコンセプトの作成を考える
第8回 概念の世界と形象の世界(1)

第8回から続く)

現状認識や価値創造においてもう一つ重要な軸は大局と分析の軸です。この軸は

イメージで大雑把に物事を捉えた上で、そのイメージを定量的に説明することによりイメージを明確にする。これを繰り返しながら、イメージレベルの思考を行い、結論を出す

思考軸です。簡単にいえば、全体イメージの把握と定量的な説明を繰り返す思考軸といってもいいと思います。この思考軸を適切に活用することによって、全体性があるとともに、やりたいことを明確にしたコンセプトを作ることができます。

ITプロジェクトにおいて、プロジェクトが全体性を持ち、やりたいことを具体的に明確にするためには、以下の2つの条件があります。

(1)プロジェクトのさまざまな要素がいかに相互に依存しあっているか、また、その内のどれか1つが変化したとき、どのようにプロジェクト全体に影響が及ぶかを認識できること

(2)相互関係を認識し、どのような状況にあっても重要な要素を識別し、組織全体の利益を最適化するようにプロジェクトをマネジメントできる

この条件をクリアするには、大局と分析の思考軸を行き来する必要があるわけですが、この軸の大局的に考えるとはどういうことでしょうか。

よく「イメージ」で捉えるという言い方をしますが、その通りです。が、もう少し、丁寧に言い換えると、

・一言でいえば(概念的)
・関係性を一つの図にすれば(構造的)

といったことです。つまり、大局的に捉えることは、概念的かつ、構造的に捉えることに他なりません。

これに対して、分析的に考えるとは、上に述べた2つの条件を実践し、関係を明確にすることです。つまり、全体を構成する要素との関係を考え、明確にすることです。さらに、要素や関係が変わったときに全体にどのような影響が出てくるかを大局的に捉えるというのが、大局的/分析的の思考軸で行き来をすることになります。


◆事例プロジェクトでは、、、

もう一度、事例プロジェクトを考えてみます。

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ある通販会社で経営層から「ロイヤルカスタマー戦略のテコ入れによる収益向上┃
┃」という戦略が打ち出された。                      ┃
┃その実行の一環としてロイヤルカスタマーへの新たな働きかけをする、これまで┃
┃にはない仕組みの構築を課題としたプロジェクトを実施することになった。  ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

このプロジェクトで、まず、現状認識で考えなくてはならないのは、何を全体と考え、どのようなステークホルダーがいるかです。ロイヤルカスタマーとの関係を持つ、仕組みの構築の2つは確実に全体構想の中に入ってきますが、それだけでいいのでしょうか?

たとえば、仕組み構築においては商品の買い付けをすることは欠かせない要素かもしれません。あるいは、他社と競争することも全体構想の中に入ってくるかもしれません。このように、まず、全体をどうするかを決める必要があります。そして、その要素を取り仕切るステークホルダーは誰かと考えます。

と同時に、それを全体だと考えた場合に、どのように展開されそうかを考えます。それが分析の役割で、何度か、大局と分析を行き来して、最適な構成を決めるわけです。これが、コンセプト作成のプロセスでは、形象の世界で「事実の認識」を分析として行い、概念の世界で何かを「感じたり」、「洞察」を行うことに該当しています。

このように考えると、ステークホルダーは必ずしも利害関係が一致するわけではありません。たとえば、ロイヤルティの仕組みを作ることに関しては、IT部門はできるだけシンプルな仕組みがいいと考えますが、営業ができるだけ顧客の実態に合わせたものを欲しがるといった具合です。


◆大局把握から分析に

このとき、プロジェクトマネジャーはまず、自分なりの視点で大局的に把握する必要があります。

たとえば、

・営業、商品企画、IT、調達が関係者である
・営業はロイヤルカスタマーにできるだけいい顔をしたい
・ITは仕組みをシンプルにしたい
・商品企画は、できるだけ商品が絡む仕組みにしたくない
・・・

といったことを頭に思い浮かべてプロジェクトの全体像をイメージする必要があります。

ここで全体像をイメージするとは、たとえば、「社内では関係者が責任の押し付け合いをしている」といったような大局把握することです。大局を把握するというのは実は問題の本質を考えることでもあります。

そしてこのような大局把握をした上で、何が重要か、どこに着眼するかを洞察します。例えば社内の利害関係より顧客への対応が先決だと判断すれば、営業の関係者と相談をして、どのようなプロジェクトコンセプトで対応するかを考えるわけです。ここでも洞察が必要になります。そして顧客が何を望んでいるかを考えたところ、仮に購入金額に応じたロイヤリティだったとします。これが現状認識となります。

そこで、価値創造として、実際にどのようなロイヤルティを導入するかを分析していきます。その際には、仕組みのシンプルさや、商品に関係ない仕組みにするといったことで、全体最適な仕組みを考える必要があります。

大局/分析軸については大局的なことを否定する人は少ないのですが、逆に大局的だけで済ましてしまう人がよくいます。これは分析的にだけ考えることと較べてもよくないことです。よく木を見る人、森を見る人といいますが、両方とも見ないと適切な判断はできないのです。

特に、プロジェクトマネジャー的な立場になると一つ一つの事象を見ていたのでは追いつきませんので、大局的にイメージとして把握することが大切です。しかし、もっと大切なことは大局的に把握したことが妥当かどうかを分析的にチェックすることで、かつ、何が違和感があった場合にはイメージを修正していくことも重要です。

そのように大局と分析を行き来しなくては、上位者の思い込みのような問題を引き起こしてしまいますので注意する必要があります。


◆大局的/分析的思考の特徴

さて、以上述べたように大局と分析を行き来するわけですが、それぞれにどのような特徴があるのかを考えてみます。もっとも大きな特徴は、大局的な思考は分解せずに考えることに対して、分析的な思考は部分に分解して考えることです。ここで分解というのは構成要素ごとに考えることです。

二番目の特徴として、大局的な思考は傾向を把握することに適しているのに対して、分析的な思考は現象を捉えるのに適しているということです。たとえば、何か問題が起こった時にまず、全体的にどういう傾向があるのかを把握し、その上で個別の問題について考えるといった思考を行うことができます。

この延長線上にあるのが3番目の特徴で、大局的な思考をうまく使うことによって、個別の現象に振り回されず、バランスの取れた思考が可能になります。特に分析的な思考に偏り過ぎると、個別の現象に振り回されがちになりますので、注意する必要があります。

最後の特徴は、大局的な思考はすべての部分において正しいとは限らないということです。イメージ的に把握しているのですから、少なくとも特徴的な部分は正しいことが多いと思われますが、それ以外は注意を払いません。したがって、間違っていることもあります。なので、分析的な思考との行き来によって、考えていく必要があるのです。

┌─────────────┬─────────────┐
│大局的に考える      │分析的に考える      │
├─────────────┼─────────────┤
│分解せずに考える     │部分に分解して考える   │
│傾向を把握する      │現象を把握する      │
│個々に現象に振り回されない│個々の現象を重視する   │
│全ての部分において、   │部分においては、     │
│ 正しいとは限らない   │ 正しいことが多い    │
└─────────────┴─────────────┘

◆抽象/具象の思考軸との違い

よく抽象/具象とどう違うのかと聞かれることがあります。確かに、大局的に捉えると抽象的になりますし、分析的に考えると具象的に考えることになります。この問いに対する答えがある意味で、コンセプチュアル思考の本質でもあります。

大局的と抽象的な違いは本質の把握にあります。大局的な把握というのは本質を把握することに他なりません。言い換えると、本質は何かと考え、本質を中心に全体を見たものが大局です。これに対して、抽象は一般論として本質とはあまり関係がありません。ただし、コンセプチュアル思考では抽象化の手法の中に、単純化というのを入れています。これはほぼ、大局的な把握と同じようなものですが、抽象化はボトムアップで、大局はトップダウンだという違いがあります。

このように考えると、大局的に把握するとはトップダウンに本質を中心に全体を把握することだといえます。そのため、プロジェクトマネジャーのスキルとして大切なのです。

一方で分析は大局的に把握した本質を中心に、個別の要素の関係がどうなっているかを見ていくことです。この関係は分析が文字通りアナリシスであるに対して、大局的な把握はシンセシス(総合、統合)だということができるでしょう。その点で、大局的な把握はスキルによるものではなく、センスに依存する部分が大きいと考えられます。


◆おわりに

今回は、コンセプト作成のステップの中で、最初の2つである現状認識と、価値創造において重要になるコンセプチュアル思考の思考軸である抽象/具象、および、大局/分析の軸について説明しました。

次回からは、言語化、共感の2ステップについて考えてみたいと思います。

(続く)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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