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コンセプトとは包括的にやりたいことであり、プロジェクト課題の本質を見極めた具体概念を構成する

第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか(2017.10.03)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


第2回から続く)
◆なぜ、コンセプト力が必要なのか

さて、コンセプトを考えるには、コンセプト力が必要である。
コンセプト力は、コンセプチュアルスキル、概念化スキルなど、いろいろな言い方があるが、これまでのコンセプトの説明から分かるように、本質を表す全体を考えるスキルのことである。

コンセプト力は、60年以上前にロバート・カッツというハーバード大学の教授が提唱した概念であり、コンセプチュアルスキルという名称で提唱された。カッツ教授は工場において作業長(チームリーダー)の中で工場長(マネジャー)になれる人となれない人がいることに着目し、その違いを分析した。

そこで、発見したのが、
マネジャーの能力には業務スキルである「テクニカルスキル」、
人間関係を構成する「ヒューマンスキル」

以外に第3のスキルとして事業や企業を総合的にとらえることのできるスキルがあるということだった。
もう少し具体的に言えば、

「組織の諸機能がいかに相互に依存しあっているか、また、その内のどれか1つが変化したとき、どのように全体に影響が及ぶかを認識するスキル」

のことである。このスキルが高い人はできるマネジャーになることができることを発見し、「コンセプチュアルスキル」と呼んだ。

コンセプチュアルスキルにより、相互関係を認識し、どのような状況にあっても重要な要素を識別することができれば、マネジャーは組織全体をより良くするように行動することができると指摘した。

プロジェクト課題を解決するコンセプトを考え、プロジェクトに展開することは、プロジェクトに関連する人やモノ、組織などの相互関係を認識し、重要な要素を識別することにより、プロジェクトをうまく進めることを意味しており、コンセプチュアルスキル(コンセプト力)そのものであるといえる。

◆良いコンセプトとは

では、コンセプト力があるとどのようなコンセプトを作ることができるのだろうか?
著者は以下の4つがプロジェクト課題解決のコンセプトの良さに結びつくと考えている。

(1)やりたいことが明確である
まず、最初に上げられるのはプロジェクトとしてやりたいことが反映されていることだ。ステークホルダーが協力したいと思う、プロジェクトチームメンバーがやりたいと思うことも重要だが、彼らをその気にさせるには、まず、自分自身がワクワクできることが重要であり、かつ、すべてであるといってもよい。
その意味で、プロジェクトマネジャー自身がやりたいことが明確であり、これがコンセプトに盛り込まれていることは非常に重要である。

(2)実現性があること
二つ目は実現性があることだ。いくらワクワクしても、全くできないことにはチームメンバーもついてこないし、ステークホルダーの協力を得ることも難しい。
実現性を確保するためには、コンセプトを具体概念として表現できることが重要である。実際には、コンセプトとして抽象概念だけを書いたようなものを見かけることがあるが、これはあまりよいコンセプトとは言えない。

(3)新価値創造のプロセスがイメージできること
三つめはプロジェクトとしてのイメージできることだ。
具体概念の要素を組み合わせることによって、頭の中で新価値創造のプロセスをイメージできることが重要である。

(4)全体性があること
四つ目は全体性があることだ。
「コンセプトとは包括的にやりたいこと」であるからといっても、抽象的ではだめである。あくまでも具体概念であり、具体概念として構成されていると同時に、全体が一目で分かることが重要である。


◆コンセプト力を高める5つの要素

最後に、コンセプト力を高めるにはどうすればよいかについて議論しておきたい。これまでの議論で、コンセプト力を高めるためには、プロジェクト課題の本質を見極めた具体概念を構成できることが必要だということはお分かりいただけたと思う。しかし、このような思考をすることは、普通の人にとってはなかなか難しいことである。

そこで、著者はこのような思考をするためのツールとしてコンセプチュアル思考を提唱している。詳しくは次回以降に説明するが、まず、今回はイメージを示しておきたい。

コンセプチュアル思考は、現実の世界を概念の世界と形象の世界に分け、その間を行き来する思考軸を持つことによって、思考を深める思考法である。

ここで、概念とはある事物の概括的で大まかな意味内容のことであり、目に見えないもの、概念化されたものを概念と呼んでいる。言わば、抽象的、大局的、直観的、主観的、長期的である。

形象とは、表に現れているかたち、姿、形態のことである。また、感覚でとらえたものや心に浮かぶ概念、観念などを具象化することである。
目に見えるもの、具象化されたものを形象と呼んでいる。言わば、具象的、分析的、論理的、客観的、短期的である。

具体的には、思考軸として

・大局的/分析的
・抽象的/具象的
・主観的/客観的
・直観的/論理的
・長期的/短期的

の5つの軸を考える。それぞれの軸は以下の思考を行うためのものである。

(1)抽象的/具象的
現実の現象を抽象化し、抽象的に思考(問題解決や意思決定)を行い、その結果を複数の具体的な事象や行動に落とし込むことにより、現象からは直接得にくい結論を得ることができる。

(2)主観的/客観的
自身の価値感に基づき思考を行い、その結果について第三者的な視点から妥当性を検証・調整する。この繰り返しにより、誰もが共感できる結論を得ることができる。

(3)直観的/論理的
直観的に判断をした結果に対して論理的根拠を構成し、論理で得られた結果の妥当性を直観的に判断する。この繰り返しにより、不確実性のある中で合理性のある結論を得ることができる。

(4)大局的/分析的
イメージで大雑把に物事を捉えた上で、そのイメージを定量的に説明することによりイメージを明確にする。これを繰り返しながら、イメージレベルの思考を行い、結論を出すことができる。

(5)長期的/短期的
長期スパンの思考と短期スパンの思考を相互に繰り返し、それぞれの結果を統合し、短長期のいずれにおいても最適な結論を得ることができる。

実際には、概念と形象の行き来はこの5つの軸を統合して行うが、その方法については別途説明する予定である。


参考資料
ロバート・L・カッツ「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」 Harvard Business Review(1955)

谷島 宣之「技術に強く人にも強いプロが身に付けるべき第三の力」、日経ITpro、(2014/04/22)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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