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第24話:ドラッカースタイル:顧客編(2010/09/27)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆ドラッカーの思考体系

今回は、ドラッカー思考の体系をプロジェクトマネジメントに適用する際の7つの視点

1.成果を上げる(成果を大きくするドラッカー思考)
2.価値をもたらす計画をたてる(戦略と計画に関するドラッカー思考)
3.顧客を中心に考える(顧客に関するドラッカー思考)
4.チームを動かす(チームのパフォーマンスを高めるドラッカー思考)
5.マネジメントを極める(プロジェクト品質を向上させるドラッカー思考)
6.イノベーションを実現する(技術を有効に活用するためのドラッカー思考)
7.プロフェッショナルになる(自己成長のためのドラッカー思考)

の3番目、「顧客を中心に考える」を考える。


◆ドラッカーの顧客に対する認識

ドラッカーのドラッカーたる所以は、「顧客」に対する認識である。ドラッカーの顧客に対する前提は、「創造する経営者」の中に出てくる

企業が売っていると考えているものを顧客が買っていることは稀である

という言葉であろう。意味深い言葉である。B2Cであれば、企業は商品を売っているが、顧客は便益や経験を買っていることが多い。B2Bであれば、企業は便益を売っているが、最終的な便益は顧客が決めていることが少なくない。この関係をしっかりと認識していないと、企業と顧客の関係はちぐはぐなものになる。

ドラッカーの顧客に対する考えの多くは、このギャップをどのように埋めるかということにある。

まず、最初に事業の観点からは、事業と顧客の間には

事業の目的は顧客の創造である(現代の経営)
事業が何かを決定するのは顧客である(現代の経営)

と述べている。


◆価値が鍵を握る

その上で、顧客との関係の中では「価値」に注目している。つまり、

企業が自ら生み出していると考えるものが、重要なのではない。とくに企業の将来や成功にとって重要ではない。顧客が買っていると考えるもの、価値と考えるものが重要である。それらのものが、事業が何であり、何を生み出すかを規定し、事業が成功するか否かを決定する(現代の経営)

と述べている。そして、顧客は価値を

自らが求めるもの、必要とするもの、期待するものにしか関心をよせない。顧客の関心はつねに、この製品あるいはこの企業は自分に何をしてくれるかである(断絶の時代)

と指摘する。さらに、顧客の特性として

顧客は合理的である。不合理であると考えるのは危険である。顧客の合理性がメーカの合理性と同じであると考えたり、同じでなければならないと考えるのと同じように危険である(創造する経営者)

という点を強調している。また、事業のステークホルダについて

最も重要な情報は、顧客ではなくノンカスタマについてのものである。変化が起こるのは、ノンカスタマの世界においてである(ネクスト・ソサエティ)

と指摘する。極めて重要な指摘である。


◆ITプロジェクトにおける顧客が買っているもの

このような指摘は、製品開発プロジェクトにおいてはまさに真っ正面から受け止めるべき指摘であるが、ITなどの特定の固定向けのプロジェクトにおいても大きな意味を持つ。ITプロジェクトに焦点を当てて、これを考えて見よう。

失敗するITプロジェクトの多くは、ベンダーが提供している(売っている)と思っているものと、顧客が買っていると思っているもののギャップにあることは明白である。上でも述べたように、製品を売っていると思ってのは企業だけで、顧客は製品を買っているとは思っていないことが多い。これと同じように、ITベンダーはシステムを売っている、あるいは、システムを作るサービスを売っていると考えているかもしれないが、顧客はそんなものを買っているわけではないと思っていることが多い。

では、顧客が買っているものは何か。抽象的にいえば「価値」であり、具体的にいえばシステムによってもたらされるメリットである。ベンダーが全くこのことに気がついていないわけではない。気がついているが、「顧客の要求にできる限り対応する」という間違った方法で対応しようとしていることが多い。この方法は顧客が自分たちの利益を出す方法を知っているという前提であれば間違いではないが、知っていないとすれば間違いである。知っている場合であれば、要求分析や要件定義の精緻化の議論であり、たとえば、そこにコーチングのような適用するのはパフォーマンス向上をもたらすだろう。しかし、知らなければこのようなアプローチは無力であり、そもそも、要件定義の精度を上げるというアプローチはナンセンスである。


◆ITベンダーのアプローチ

このギャップを埋めるのはそんなに容易なことではない。顧客の戦略に関わる問題だからだ。ある時期、ITベンダーはITコンサルティングと称して、コンサルティング機能を強化し、顧客の戦略策定に関わろうとした。もともと、戦略コンサルティングの機能を持っていた一部のコンサルティングファームを除くとこのアプローチはうまく行かなかった。ある意味であたり前である。

そこでその部分に手を出すことはあきらめ、上流強化として要求分析や要件定義の強化に取り組んでいる。このアプローチが成果が出ているかどうかは今のところ微妙である。原因は要求分析のスキルではなく、上に述べた顧客側が必要なものをどれだけ認識しているかという問題である。

だとすると、答えはそこにはないことになる。おそらく多くの人が考える答えは「アジャイル開発」であろう。アジャイル開発を適用する際にベンダーがよく認識をしておく必要があるのは、「顧客は合理的である」という前提に立つことだ。ジム・ハイスミスも「アジャイルプロジェクトマネジメント」の中で同様の指摘をしている。もし、この前提を取らなければ、アジャイル開発はプロトタイピングと同じく、開発側の合理性のための手段に過ぎないことになる。


◆顧客の合理性を理解する

ここで考えなくてはならないのは、顧客の合理性を理解する鍵が要求にはないということだ。顧客(や市場)をの間のインタフェースを(要求)仕様に置く時代はもう終わった。どんどん変わるし、顧客すらその変化についていけない状況が起こっている。仕様にインターフェースを置いても振り回されるだけだ。

鍵になるのは、価値である。仕様に代わり、価値をインターフェースとする。顧客がどのような価値を持っているかを理解し、合理性の理解をする。そして、その合理性を尊重、顧客価値を中心にプロジェクトを進めて行く。これが、これからのプロジェクトマネジメントのあり方だろう。

PMstyleでは、以上のような考え方に基づいたアジャイルプロジェクトマネジメントのフレームワーク、CDPM(Customer Driven Project Management)を提唱している。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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