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第23話:ドラッカースタイル:成果編(2010/09/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆ドラッカーに思考体系

前回述べたように、著者は、ドラッカー思考の体系をプロジェクトマネジメントに適用する際に、

1.成果を上げる(成果を大きくするドラッカー思考)
2.価値をもたらす計画をたてる(戦略と計画に関するドラッカー思考)
3.顧客を中心に考える(顧客に関するドラッカー思考)
4.チームを動かす(チームのパフォーマンスを高めるドラッカー思考)
5.マネジメントを極める(プロジェクト品質を向上させるドラッカー思考)
6.イノベーションを実現する(技術を有効に活用するためのドラッカー思考)
7.プロフェッショナルになる(自己成長のためのドラッカー思考)

の7つに分けて考えている。

今回から何回かに分けて、ドラッカー思考をプロジェクトマネジメントに適用していくとどうなるかを考えて見よう。今回はまず一番目の成果についてである。


◆成果に対する基本認識

まず、ドラッカーの成果に対する基本的な認識から確認しておこう。基本認識は、「非営利組織の経営」にある以下の指摘によく表れている。

人は自らがもつものでしか仕事ができない。しかも、人に信頼され協力を得るには、自らが最高の成果を上げていくしかない【非営利組織の経営】

この指摘を頭のどこかにとどめながら以下の話を読んでほしい。

成果について考える際に、最初に考えなくてはならないのは「プロジェクトマネジメントの成果とは何かという議論」である。一般的に人を使って成果を上げることだというが、それは具体的にはどういうことかだと言ってもよい。この点に関して、ドラッカーは「マネジメント」で極めて重要な指摘をしている。

必要な仕事を決めるのは成果である。作業の組み立て、管理手段の設計、道具の使用を決めるのも成果である【マネジメント】

つまり、マネジャーにとっては、計画を作ったり、あるいは、管理の方法を決めたりすることも立派な「成果」である。プロジェクトマネジャーやプロジェクトスポンサーはまずこの認識を持つべきである。この点における不見識が、プロジェクトの失敗をもたらしているケースは少なくない。


◆貢献の重要性

その際に重要なことは「経営者の条件」で述べている「貢献」である。

成果をあげるには、自らの果たすべき貢献を考えなければならない。手元の仕事から顔をあげ、目標に目を向ける。組織の成果に影響を与える貢献とは何かを問う。そして責任を中心に据える【経営者の条件】

つまり、計画を作ったり、管理方法を決めるに当たって問題になるのは、それらの活動により、自らが、組織の目標に対してどのような貢献を果たすべきかが問題になる。
違う言い方をすれば、そのプロジェクトを実施することにより組織の成果に貢献するには、プロジェクトマネジャーはどのような計画と立て、どのような管理をすればよいかを考える必要がある。


◆三人の石切工の昔話

この点は置き去りにされていることが多い。未だに多い、計画軽視派の意見を聞いていると、手元の仕事だけを見て、目的を見ていないことが極めて多いのだ。そもそも、プロジェクトというのは手元の仕事なのか、もう少し、大きな仕事かという議論はある。この議論については、「マネジメント」に有名過ぎるくらい有名な言葉がある


三人の石切り工の昔話がある。彼らは何をしているのかと聞かれたとき、第一の男は、「これで暮らしを立てているのさ」と答えた。第二の男は、つちで打つ手を休めず、「国中でいちばん上手な石切りの仕事をしているのさ」と答えた。第三の男は、その目を輝かせ夢見心地で空を見あげながら「大寺院をつくっているのさ」と答えた【マネジメント】

プロジェクトにおいてもまったく同じで、ITプロジェクトであればテスターでも、「○○システムを作っているのさ」と答えて欲しいものだ。

ちなみに、この指摘に関して、著者は、寺院というのは用途や社会的意義が極めて明確なものであるので、こういう答えになっていると思っている。例えば、葡萄酒の製造工場を造っている現場で聞いたら、「葡萄酒工場を造っている」というだけではなく、そこでどんな葡萄酒を造ろうとしているいるのか、どういうやり方で葡萄酒を造ろうとしているのかなど、その工場にまつわることをきちんと答えれるようにしたいということである。

さて、話が多少脱線気味になったが、プロジェクトマネジャーは常に顔を上げて、プロジェクトの目的は何かということを常に意識しながら、プロジェクトがその目的に貢献できる方法を探していく必要がある。


◆計画や管理は「成果」である

そして、貢献するための手段として計画を管理手段を位置づけることによって、それらがプロジェクトを遂行するための「道具」ではなく、プロジェクトの成果になっていくということを決して忘れてはならない。

その中で「最高の成果」をあげることによって、初めて、メンバーに信頼され協力を得ることができる。つまり、いい加減な計画やいい加減な管理しかしないプロジェクトマネジャーは上位組織から信頼をされないだけではなく、メンバーからも信頼されないというわけだ。この基本を理解しないままに、この部分に承認とか非金銭報酬をもってきているプロジェクトマネジャーや組織を見かけるが、間違いである。これらが機能するのは、計画や管理をきちんと行った上での話である。

ちなみに、プロジェクトマネジメントでは計画や管理を「マネジメント成果物」と呼ぶことがあるが、これは非常に適切な見識だといえる。


◆プロジェクトマネジャーの育成のために、貢献への意識は不可欠

最後に、もう一つ。ドラッカーは成果を上げるための能力を「成果能力」と呼んでいる。成果能力はプロフェッショナルに不可欠な条件になるが、成果能力の育成ついて「経営者の条件」において

貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、チームワーク、自己啓発、人材育成という、成果をあげるうえで必要な基本的な能力を身につけることができる【経営者の条件】

と指摘している。プロジェクトマネジャーの育成を考えるに当たって、トレーニングやメンタリング、ジョブアサインなど、さまざまな方法を考えるのは大いに結構である。しかし、どのように貢献するかを考えさせないで、育成しようとするならば、それはプロジェクトマネジメント実務であっても、机上の空論であることを忘れてはならない。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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