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第26話:ドラッカースタイル:チーム編(2010/10/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆ドラッカーの思考体系

今回は、ドラッカー思考の体系をプロジェクトマネジメントに適用する際の7つの視点

1.成果を上げる(成果を大きくするドラッカー思考)
2.価値をもたらす計画をたてる(戦略と計画に関するドラッカー思考)
3.顧客を中心に考える(顧客に関するドラッカー思考)
4.チームを動かす(チームのパフォーマンスを高めるドラッカー思考)
5.マネジメントを極める(プロジェクト品質を向上させるドラッカー思考)
6.イノベーションを実現する(技術を有効に活用するためのドラッカー思考)
7.プロフェッショナルになる(自己成長のためのドラッカー思考)

のうち、これまで1番目から3番目について説明してきた。今回は4番目のチームについてである。


◆貢献がチームワークを可能にする

まず、ドラッカーのチームマネジメントには大きな前提がある。それは、

組織はもはや権力によっては成立しない。信頼によって成立する。信頼とは好き嫌いではない。信じ合うことである。そのためには、たがいに理解しなければならない。
たがいの関係について、たがいに責任をもたなければならない。(明日を支配するもの)

という前提である。そして、たがいに理解し、たがいに責任をもつには、計画のところでも出てきた「貢献」が重要である。貢献についてドラッカーは以下の様にのべている。

果たすべき貢献を考えることによって、横へのコミュニケーションが可能になり、チームワークが可能になる。自らの生む出すものが成果に結びつくには誰にそれを利用してもらうべきかとの問いが、命令系統の上でも下でもない人たちの大切さを浮き彫りにする(経営者の条件)

つまり、「貢献を考えることがコミュニケーションを活性化し、チームワークを可能にする」と指摘している。この感覚はいろいろな意味でおもしろい。組織や社会における貢献はすべからくそうだといえなくもない。例えば、以下の2つの問いについて考えて見て欲しい。

あなたが依存しているのは誰か
あなたが影響を与えているのは誰か

この問いについて深く考えていくと、貢献により初めてチームワークが可能になることが容易に分かる。このことはドラッカーの指摘するとおり、命令系統とはまったく別のものである。つまり、チームなのだ。チームにおいては、チームリーダーも果たすべき貢献を考える。それは強力なリーダーシップであることもあれば、サーバントリーダーシップであることもあるだろう。


◆メンバーの強みを活かす

貢献するための鍵を握るのは、強みを活かすことである。弱みのないビジネスマンは稀である。そのときに、重要なことは弱みを改めることではなく、弱みを意味のないものにするような強みの活かし方をすることである。例えば、他社から転職してきた技術スキルの低いメンバーがいたとしよう。多くのリーダーは、そのメンバーの弱みを直して、その上でよいところを活かそうとする。そのために単純で付加価値の低い仕事を経験させ、技術を習得させようとするが、大抵の場合、これはうまく行かない。
技術スキルの低い人に単純な仕事をさせても興味を持ってするはずはなく、従って、技術を習得しようとは思わないからだ。

こういう指摘をすると、けしからんという話になるが、けしからんと言ってみても事実は変わらない。

では、どうするか。実際にあった話だが、そのメンバーの強みがコミュニケーションの上手さにあった。そこでプロジェクトリーダーはそのメンバーにメンバー間や顧客との間の意思疎通役やチームの盛り上げ役を頼んだ。実は多くのメンバーは技術をよく知らないものがそんなことができるはずはないと思っていたが、そのメンバーはファシリテーター役を見事にこなし、そのプロジェクトは極めてスムーズに進んだ。

この事例が興味深いのは、技術スキルの高い人であれば技術的知識を背景にしたコミュニケーションを行うが、それがすべてではないと言うことだ。これだけで十分に弱みは無意味なものになったのだが、さらに、そのような形でチームの混ざっている内に、門前の小僧習わぬ経を覚えるで、だんだん技術的な知識がついてきて、伝書鳩のついでに技術的な仕事も任されるようになり、そのプロジェクトが終わったころには一人前になっていた。

日本では昔からよくやられている人材育成の方法である。

ちょっと話が膨らんでしまったが、貢献と強みを活かして何をすべきか。これは明々白々である。


◆現在と将来を調和し、部分の和よりも大きな全体を生み出す

マネジメントたる者には二つの仕事がある。第一に、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出さなくてはならない。第二に、
ただちに必要とされているものと、遠い将来に必要とされるものを調和させることである(マネジメント)

つまり、1+1を2以上にするという話である。興味深いのは二番目のただちに必要とされているものと、遠い将来に必要とされるものを調和させるという指摘だ。上の強みを活かした事例をもう一度、思い出して欲しい。1+1を2以上にするのであれば、確かに単純労働をさせるというのは一つの方法である。しかし、技術スキルが低いからといって、単純なことばかりさせていたのでは、現在と将来は調和しない。技術スキルの低いメンバーをコミュニケータとして使ったのは、まさに現在と将来を調和させるための知恵だ。

これこそが、ドラッカーのチームマネジメントの本質だといえる。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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