◆ドラッカーの思考体系
今回は、ドラッカー思考の体系をプロジェクトマネジメントに適用する際の7つの視点
1.成果を上げる(成果を大きくするドラッカー思考)
2.価値をもたらす計画をたてる(戦略と計画に関するドラッカー思考)
3.顧客を中心に考える(顧客に関するドラッカー思考)
4.チームを動かす(チームのパフォーマンスを高めるドラッカー思考)
5.マネジメントを極める(プロジェクト品質を向上させるドラッカー思考)
6.イノベーションを実現する(技術を有効に活用するためのドラッカー思考)
と進んできたドラッカースタイルもいよいよ、最終回だ。最後は、プロジェクトマネジャー自身の問題に言及したい。テーマは
7.プロフェッショナルになる(自己成長のためのドラッカー思考)
である。実はドラッカー思考を一つに伝えると、極端な違和感を持つ人が少なからず存在する。特に、顧客中心やイノベーションなどでは目立つ。そのような人と話してみると感じるのがプロフェッショナル観の違いだ。彼らにしても何らかの意味でプロフェッショナルである。プロフェッショナルの定義は難しいが、少なくとも、「自分で稼ぐことができればそれでプロフェッショナルだ」という感覚を持つ人にはドラッカー思考は違和感が出てくるのではないかと思う。
◆ドラッカーのプロフェッショナル論の原点
そのような人も含めて、最後にドラッカーのプロフェッショナル論をお伝えしたい。
ドラッカーのプロフェッショナル論の原点は
一つは、人は、何によって人に知られたいかを自問しなければならないということである。二つ目は、その問いに対する答えは歳をとるにつれて変わっていかなければならないということである。成長に伴ってかわっていかなければならないのである。三つ目は、本当に知られるに値することは、人をすばらしい人に変えることであるということである(プロフェッショナルの条件)
というところにある。価値と成長、そして影響力である。プロフェッショナルになるには、この3つの要素を備える必要がある。一つ目の自分は何によって人に知られたいかというのは大抵の人は考えることである。日本的にいえば、何で食って行きたいかである。
プロジェクトマネジメントを一生懸命やっているIT業界や製造業では、プロフェッショナルを意識しはじめる時期は業務担当者としての時期であり、当然、そのときに担当している業務でプロフェッショナルになりたいと考える。例えば、システム設計であったり、営業であったり、マーケティングであったり、品質管理であったり、生産管理であったりする。ここは比較的、スムーズにいく。
問題は二番目である。何によって知られたいかは歳を取るにつれて変わっていくことだ。たとえば、あなたは「技術力」によって知られたいと考えているとしよう。あなたの技術力は経験とともに成長していく。このときに、いつまでも「技術力」で知られたいと思っていてよいのかという問題である。
この問題は二つの側面がある。一つはあなた自身の問題としてどうかという問題だ。これは主観的な問題であり、そう思うならそれで構わない。ただし、「知られたい人」からみた場合には、「成長していないように見える」ということを認識した上でそのような考えを持つ必要がある。知られる技術が高度化しても、技術は技術であり、ビジネスにおいてそれ自体が価値であることは珍しい。価値をもたらす手段に過ぎないということだ。
もっと現実的な問題は、組織にとっての問題である。あなたが技術に拘り続ける限り、後進の妨げになることがある。よく先輩の技術者が後輩の技術者に「技術的指導」と称して自分の考えを押しつけている光景をよく見かける。押しつけているかどうかをチェックしたければ、後輩が彼自身のやり方で成功したときに素直に喜べるかどうかを想像してみればよい。
この話は三つ目の指摘と関わってくる。自分と同じ技術を後輩に身につけさせることが、後輩を「すばらしい人」に変えることになるという問題だ。一昔前の技術進歩が比較的ゆっくりしていた時代ならそういう一面もあっただろう。しかし、今はそうではない。技術を伝えることによって仕事はスムーズにいくかもしれないが、人は育たないし、事業も育たない。
◆問題提起
であれば、どうすればよいのか。まず、知られたいことが歳とともに変えていく必要がある。その方向性は価値をもたらす方向である。価値を高めるために自分が何をすべきかを自問しなくてはならない。すると、自ずと答えは出てくる。「マネジメント」である。
ここで一つ問題提起をしておく。あなたがスーパーエンジニアで人の倍の仕事ができる。あなたがフル回転するのと、あなたの7割の仕事ができる人を2人育てるのでは、会社はどちらを評価するか、また、あなたの価値はどちらが高いと思うか。
◆プロフェッショナルを目指すために
さて、では、プロフェッショナルを目指すには何ができればよいのか。ドラッカーはこの問題について
驚くほど多くの人たちが、仕事にはいろいろな仕方があることを知らない。そのため得意ではない仕事の仕方をし、成果が上がらないという結果に陥っている(プロフェッショナルの条件)
という指摘をしている。
最近、プロジェクトマネジメント標準にゲートチェックという考えを導入して会社が増えてきた。ゲートを設定し、プロジェクトマネジメントがちゃんと行われているかどうかをチェックする活動である。ゲートでチェックする内容を見ていると、似て非なる目的があることに気付く。一つはプロジェクトマネジメント標準どおりに行っているかどうかをチェックするための管理型のチェックである。もう一つは標準のプロジェクトマネジメントのやり方にある程度の自由を与えるためのマネジメント型のチェックである。
前者のイメージは分かると思うが、後者のやり方は標準で定められている一つ一つのマネジメント活動の目的を考え、目的が達成されているかどうかをチェックするというやり方である。この2つのやり方は3年先には大きな成果の違いとなって現れると思う。これがドラッカーの指摘そのものである。
組織の立場からみれば、
組織が一人ひとりの人間に対して位置と役割を与えることを、当然のこととしなければならない。同時に、組織を自己実現と成長の機会とすることを、当然のこととしなくてはならない(断絶の時代)
ということを実現しているわけだ。個人の立場からみれば、組織で働いていることを自己実現と成長の機会とすることによって、プロフェッショナルへの道が拓けてくる。よく組織から独立することをプロフェッショナルになることだと勘違いしている人がいる。これはあまりにも近視眼的である。
仕事柄、一人でメシを食っているけど、プロフェッショナルとは言えないと思う人とよく出会う。プロフェッショナルな人とプロフェッショナルでない人の究極的な違いは何か。それは、プロフェッショナル倫理を持つかどうかだ。ドラッカーはプロフェッショナルの責任について「知りながら害をなすな」という指摘をしている。
◆本物と似非の違いはプロフェッショナル責任
プロフェッショナルの責任は、すでに2500年前、ギリシアの名医ヒポクラテスの誓いのなかに、はっきりと表現されている。「知りながら害をなすな」である。プロたるものは知りながら害をなすことはないと顧客から信じられなければならない。これを信じられなければ、何も信じられない(マネジメント)
要するに、独立して個人事業を営みながら「知りながら害をなす」人は極めて多い。著者も個人事業を営んでいるので、そうしたい気持ちは判らなくはない。ただ、「知りながら害をなす」人はプロフェッショナルとは言えないことを肝に銘じておく必要がある。
もちろん、独立した個人だけではない。企業で働くプロフェッショナルもそうである。
「知りながら害をなすな」
◆終わりに
というわけで、プロジェクトマネジャー編はこれでお終いです。
次回からはプロジェクトスポンサー編を開始します。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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