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第22話:ドラッカースタイル(2010/08/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆「もしドラ」と「マネジメント」

昨年の12月に発売された岩崎 夏海さんの小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社)が半年強で100万部を売り上げました。創業100年近いダイヤモンド社初のミリオンセラーだそうです。

本が100万部売れると、必ずといってよいくらい社会現象になります。マネジメントという言葉が、ビジネスの場面以外で使われるようになってきただけでも凄いと思いませんか。

もしドラの100万部よりもっと凄いと思うのは、もしドラの中で主人公・川島みなみが読むドラッカーのマネジメント

ピーター・ドラッカー(上田 惇生編訳)「マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]」、ダイヤモンド社; エッセンシャル版(2001)

がこの間に30万部近く売れているという事実です。もしドラが出版されるまでの総数が10万強だったらしいので、すざましい勢いですね。「マネジメント」読まれた方はお分かりだと思いますが、この本、ビジネス書という範疇の本ではなく、専門書あるいは、思想書の範疇の本です。この本を読むだけで一苦労しますし、もしドラの作者・岩崎 夏海さんが何かの雑誌のインタビューで「マネジメント」が難解なので、もしドラができたようなことを言われていたくらいです。

前置きが長くなりました。言いたかったのはドラッカーの思想、思考には、どのくらいの魅力があるということです。


◆ドラッカースタイルはシンプルスタイル

なぜでしょうか?いろいろな意見があると思います。

著者が一つだけ理由を挙げるとすれば「シンプル」であるということです。ビジネスの現実はどんどん複雑になっていきます。これに対処するために、マネジメントもどんどん複雑になっていきます。同時に、どんどん本質から離れてしまいます。何のために何をやっているのか分からなくなります。見えなくなると、ますます複雑に「感じます」。そこで、「見える化」しようとします。しかし、多くの見える化はシンプルさをもたらしません。複雑さを助長するだけです。

プロジェクトで考えて見ましょう。商品やシステム、サービスの機能をどんどん複雑にしていきます。一方で時間の流れはどんどん速くなります。したがって、より複雑な成果をより短い時間で得なくてはならないという事態になります。プロジェクトが年々難しくなっている理由がこれであることは明らかです。

これに対して、マネジメントを精緻にすることで対応しようとします。精緻といえば聞こえがいいですが、見方を変えると複雑にしているわけですね。仕組みの半分は見える化とコミュニケーションの仕組みです。

コンサルタントとして、いろいろな会社の仕組みを見ている著者でも、1日くらいのミーティングでは理解できないような複雑な仕組みを作っている会社も少なくありません。率直にいえば、プロジェクトマネジャーが使いこなせるはずはありません。現に使いこなせません。

そこで、今度はプロジェクトマネジャーに使わせる、つまり、定着させるにはどうすればよいかという議論をはじめ、ますます、話をややこしくしていきます。

ドラッカーの教えはこのような風潮を正面から否定するものです。というより、ドラッカーの教え通りにやっていれば、こんなことにはならないでしょう。注目すべきところは、上の悪循環サイクルを見て頂くと分かりますが、経営意思決定から現場の意思決定まで経営全般に関わるものです。それも意思決定の不作為、あるいは関係者における部分最適な意思決定が引き起こしている現象だと言っても過言ではありません。


◆ドラッカースタイルの実現

これではまずいと気がつき始めた人たちもいます。その一つの対策として注目されるのが、TOC/CCPMの導入です。TOC/CCPMでは、経営活動がすべてつながっていることを逆手にとって、特定の部分に注目し、そこだけを見ることによって全体を最適を得ようとします。もちろん、マネジメントもたいへんシンプルになります。

ただし、TOC/CCPMをもっても変わらないのが、成果物の単純化、言いかえると要求に応える「要件」の単純化です。ここについても、トラッカーはいくつもの基本原則を示しています。共通しているのは、顧客を中心に考えることです。ただし、この考えはよく咀嚼する必要があります。顧客を中心に考えているから、機能やサービスが無制限に増えていくと考える人もいるからです。これは落とし穴です。

この落とし穴に落ちないようにするには、ビジネスとは何か、顧客のビジネスとは何か、顧客におけるマネジメントとは何か、戦略とは何かといったことをよく考える必要があります。この点についてもドラッカーは示唆に富んだ指摘をしています。

ドラッカーの思考は、鋭利なナイフのように、無駄をそぎ落としていきます。この無駄取りを突き詰めていけば、一方で経営組織のあり方、一方で個人のあり方の問題に行き着きます。ドラッカーはこれらをすべて関連づけてあるべき姿を示しています。

多くの人が仕事をもっとすっきりしたい、マネジメントをすっきりしたい、仕組みをもっとすっきりしたい、キャリアをもっとすっきりしたいと思っています。新旧入り交じり、どんどん複雑化していくからです。最近、断捨離というのが流行っていますが、これもやはり、すっきりしたいという世相を反映したものでしょう。

本来、戦略というのはそういうものです。特に、ブルーオーシャン戦略は、シンプルにすることにより、レッドオーシャンからブルーオーシャンへ移れると説きます。プロジェクトにおいても、プロジェクトマネジメントを戦略化することによってものごとをシンプルにしようとするわけです。今、戦略に関心が高まっているのも、まさにすっきりしたいからです。

このように、シンプルに考えたい、シンプルに行動したい、シンプルに生きたい、今だからドラッカーなのです。もしドラブームは、まさにその点で多くの人の琴線に触れたのではないでしょうか。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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