◆伊藤穣一さんの名言
「イノベーションを増やしたいなら失敗のコストを下げなければならない」
これはMITメディアラボの伊藤穣一さんの指摘である。名言だし、極めて真っ当な指摘であるが、残念ながらこのような発想のマネジメントには日本ではなかなか、お目にかからない。
発想の近いマネジメント手法がないかというとそういうわけでもなく、たとえば、日本でも徐々に普及してきたリーン製品開発と呼ばれる手法の中に、セットベース開発という手法がある。
セットベース開発とは、構想段階で多くの代替案を並行検討し、徐々に絞り込み、最終的には一つの案に集約する開発方法である。普通に考えると、代替案の個数は開発コストに比例するが、セットベース開発では、初期の段階で代替案の検討を低コストで行う方法を検討し、その方法で検討を行う。さらに、採用されなかった代替案の検討で得られた情報は知識として共有され、他の開発に活かされる。この2つの工夫により、コストを抑えることができる。
見方によっては失敗した技術経験を知識化し、活用しており、これだとかなり大胆な製品仕様ができ、イノベーションに失敗を活かすには合理的な方法になっている。
◆イノベーションではフレーミングが問題
ただ、フレーミングとしては、リードタームを短縮する手法であり、結果的に失敗コストを削減することができても、失敗コストを削減するための方法ではない。また、結果としてイノベーションが速く生まれる可能性はあるが、早く失敗するという考え方を具現化するものでもない。
第42回でフレーミングの話をしたが、イノベーションのフレーミングではなく、あくまでもリードタイム短縮のフレームである。
【イノベーション戦略ノート:040】イノベーションを推進するフレーミング
このフレームの議論はとても大切で、いくら口で大胆な挑戦をしようといっても、それがマネジメントとして具現化されない限り、精神論に過ぎない。
では、マネジメントとして具現化するには何が必要か。その一つがコスト管理であり、かなり重要な要素である。
◆イノベーションのコスト管理
コスト管理の方法で合理性があるのは、20%ルールである。これだとある程度成功の見通しが立つまでコストを見通すがことができる。厳密にいえば、成功の見通しがつくのがいつになるかわからなので、コストの見通しはつかないのだが、経営上のコスト管理の単位である年度のコストは見通しがつくのであまり問題はない。
早く失敗して、早く成功するという考え方でイノベーションに取り組む方法として、リーンスタートアップという方法がある。これは新しいものを作るのに、顧客が判断できる単位でリリースしていき、顧客の反応が悪ければ仕様を変えるという方法で、できるだけ早く失敗をする。
この方法だとリーン製品開発と同じく、結果として失敗コストを抑えることができる。
ただし、リーンはイノベーションのコストを制約として考えているわけではない。成功することを前提として、成功すれば従来のコストより小さくなる、あるいは利益でコストはすべてカバーでき、利益は成功までの時間が短ければ短いほど大きくなるというフレームになっている。
◆失敗コストをフレームとすると
では、イノベーションのコストを制約として考えるとどういうフレームになるかと考えてみると伊藤穣一さんのいうようなフレームになる。一見、R&Dと同じようなフレームに見えるが、R&Dのフレームは成功の積み上げをしていくフレームである。
そもそも、R&Dは失敗より成功に注目して管理している。
このようなフレームで何らかの開発をやっている企業はないと言っているのはこの点である。帳簿上の話としては、区別のつかない話であるが、予算として失敗コストをつけるのと(成功)コストをつけるのは意味が違う。失敗コストをつけるというフレーミングこそ、イノベーションのフレーミングとして適している。
失敗コストを下げるためには、リーンやアジャイルのような手法を使うことができそうだが、リーンは上に述べたとおり、速い開発を目指すものであり、アジャイルは顧客の望む製品を目指すものである。失敗コストを下げるのに有効そうであるが、関係性は今のところはっきり分かっていない。
そこがイノベーションの難しさである。
【参考資料】
伊藤 穰一(狩野 綾子訳)「「ひらめき」を生む技術 (角川EPUB選書)」、KADOKAWA/
角川学芸出版(2013)
稲垣 公夫「開発戦略は「意思決定」を遅らせろ! ─トヨタが発想し、HPで導入、ハー
レーダビッドソンを伸ばした画期的メソッド「リーン製品開発」」、中経出版(2012)
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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