第40回 イノベーションを推進するフレーミング(2014.06.11)
◆イノベーションに必要なチーミング
エイミー・C・エドモンドソンの
「チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ」
を読んでいたら、イノベーションとフレーミングの関係の面白い調査の話が出てきたので、今回の戦略ノートはこの話題で。
この本は、従来のチームというのは固定化された集団だが、今、イノベーションや複雑性の高い仕事で必要とされているのは、動的な「活動」であるチーミングだということで書かれた本である。
◆フレーミングとは
そして、チーミングの中で非常に重要な役割を果たすのがフレーミングであるとしている。フレームとはある状況や事実に対する認識や信念のことで、フレーミングとはそれを決めることだ。
まず、フレーミングのイメージを明確にするためにいくつかの例を考えてみよう。
たとえば、今、当社では品質向上運動をしているとする。その中間報告のときに、あなたなら
・今月の不良品率は先月の10%から5%まで向上した
・今月の不良品率は先月の50%減になった
のいずれの表現するだろうか?
報告でどのような印象を与えたいかによって変わる。発破をかけて来月も頑張ってもらうには上の表現の方が効果的である。褒めて頑張ってもらうには下の方が効果的である。いずれにしても印象はまったく違う。
フレーミングを使った顧客心理を動かす方法でよく例に出てくるのは、
・1日1杯の珈琲を我慢してロレックス(高級品)を手にいれませんか
という広告である。また、ポジティブ心理学ではコップ半分に水を見て
・半分も残っている
・半分しか残っていない
と考えるかというフレーミングの例も有名である。
フレーミングとはこのように、ある状況や事実に対する認識や信念を決めることである。
◆新技術導入の際のフレーミング
さて、この本で紹介されているのは、低侵襲心臓手術(MICS)という新技術の導入で、これまでの常識とはかけ離れた心臓手術の方法だ。この手術を導入した16の病院の中から成功した2つと失敗した2つを抽出し、フレーミングの特徴を分析したところ、3つのフレーミングに特徴があった
一つ目はリーダーの役割で、チームリーダーである外科医が自らを相互依存するチームリーダーとしてフレーミングするか、一個人の専門家としてフレーミングするか。
二つ目はチームの役割で、権限を与えられたパートナーとしてフレーミングするか、技術に長けた補助スタッフとしてフレーミングするか。
三つ目はプロジェクトの目的で、向上心あふれるものとして伝えられるか、受け身で消極的なものとして伝えられるか
の3つだ。
成功した2つの病院では、外科医は自分をチームリーダーとしてフレーミングし、チームメンバーがいなければ手術は失敗するとし、プロジェクトの目的は患者の役に立つとか、野心的な目標を達成するチャレンジだと位置づけていた。
失敗した2つの病院は、外科医は熟練しており、自分の力で手術を成功することができると考え、チームメンバーの役割を重視していなかった。また、目的は技術力を示すとか、他の病院と差別化するといったものだった。
◆イノベーションを推進するフレーミング
この例からイノベーションでは、
・リーダーもメンバーもそれぞれがリーダーシップを持つ(当事者になる)
・チャレンジする
といったフレーミングが重要なことがよく分かる。
別の例を挙げると、失敗に対するフレーミングも大切である。「イノベーションでは失敗は当たり前、失敗から何を学ぶかが重要だ」といいながら、実は失敗に対するフレーミングというのは変わっていないケースが多い。
失敗を恐れないで進むためには、失敗の数をカウントして評価するといった方法で失敗に対するフレームを変えていくことが必要だが、たとえば、「失敗を恐れるな、問題が起こったときには速やかに相談してくれ」といった言動をするといくら口で失敗を許容するといってもフレームは変わらない。
特に日本ではイノベーションが起こらないとよく言われる。この現象を引き起こしているフレームは一つや二つではないので非常に手間がかかるが、イノベーションを活性化するには一つ一つフレームを変えていく必要がある。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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