第44回 なぜ、イノベーションはワクワクしないのか(2014.07.16)
◆イノベーションにワクワク感はない
4年くらい前に、「プロジェティスタ研究会」という研究会をやっていて、その研究会主催で「仕事をワクワクする」というテーマでワールドカフェを行ったことがある。ワクワクというのは、内発的な動機、ダニエル・ピンクのいうところのモチベーション3.0である。東京で2回、関西で1回行った。
そのときに印象に残ったのは、ワクワクする状況として、新しいことをやるとか、社会に貢献するといったワードが少なかったことだ。逆に
・主体的にできる
・成果が実感できる
といった発言が多かった。研究会としては、これを承認欲求であり、内発的動機ではないと判断した。
つい最近、ある場で同じような話を聞いた。「イノベーション」という言葉にはワクワク感を感じないという話だ。ずっと頭のどこかに引っかかっていた話だったので、やっぱりそうかというのが正直なところだった。
僕はもともと技術者なので、(いろいろなレベルがあるが)人がやってしまったことは興味がないとか、社会に役立たないことはやりたくないといった発想が強い。だから、イノベーションという言葉には社会に影響を与えるという意味でワクワク感を感じるし、感じない人の感覚は理解できない。
◆イノベーションがワクワクしない理由
もちろん、理屈ではそれなりに分かる。企業でイノベーションを起こそうという場合には、主体性が持てない場合が多い。社長がやれと言っているので何かやらなくてはならないという受動的なケース多い。
だからといって、目の前の仕事がなくなるわけではない。社長がなんと言おうと、自分の評価者の優先順位は目先の業績にある。だから、今期の予算を達成した上で、やってくれという話にしかならない。
評価されないからといって自分の好きなようにできるわけではない。予算がつけばラッキーで、当面はコストなので予算がつかないことすらある。新しい製品を作ろうとしても、自分たちだけで作れる訳ではなく、定常業務をやっている人の協力が不可欠で、これもいい顔をされない。
開発がうまくいけば、既存の事業との調整が必要になるので、既存事業をやっている人からは警戒される。自分が携わっている既存事業との調整が必要になる場合も少なくない。
こんな状況の中で、自分がやりたいわけでもないことをやることがワクワクするはずがないという話だ。だから関わらなくて済むというものでもないので、やらされ感が一層増すという構図なのだろう。
◆ワクワクしないとイノベーションはできない
上に述べた
・評価されない
・定常業務の方が優先される
・既存事業との調整が必要
といった問題はイノベーション云々とは関係なく大問題で、ましてやそこに、イノベーションの成果の不確実性が加わると内発的な動機がないと乗り越えることはできないだろう。
では、イノベーションをワクワクに変えるにはどうすればよいのだろうか?難しい問題だし、決定的な方法があるわけではないと思うが、最近感じていることを一つだけ書いておく。
◆知識がワクワク感を生む
理由はいろいろとあるのだろうけど、ビジネスに対する知識不足があるのではないかと思う。たとえば、自分の関わっているビジネスの戦略を作れない人にカイゼンはできてもイノベーションができるとは思えない(言葉の定義は察してほしい)。
自分の関わっているビジネスを徹底的に知ることだ。経験するという意味ではなく、知識を蓄積するという意味だ。国内の状況は意識をしなくても分かることが多いが、たとえば、どんなトレンドがあるが、海外の競合はどんなことをやっているか、自分たちのやっているビジネスの生まれた経緯や歴史などは意識しないと分からない。
自分が経験している範囲で知っていることからできることはたいていやっている。自分ができることをやる範囲を広げるには新しいことを知ることが必要だ。顧客についてもそうだ。顧客の現実だけではなく、顧客に関係する知識がとれだけあるかで、想像の範囲は大幅に変わってくる。
日本の企業は経験主義なのでこのような発想にはあまりならないが、目の前だけ見ていても想像力はうまれない。知識があってはじめて今いる枠を飛び越える想像力が働く。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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