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レジリエンスとは、困難な状況にもかかわらずうまく適応できる力、安定して快適なゾーンを出てなにか新しくて未知なことに乗り出し途中であきらめずにそれを成し遂げる力であり、イノベーションには後者の力が必要である

第21回 イノベーターのレジリエンス(2013.12.11)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆はじめに


20回で一度ストップしたイノベーション戦略ノートを再開する。2013年12月5日に「
ノベーション力を身につける
」というセミナーをやって、棚卸したネタが山ほどあるので、これから少しこのシリーズを書いて行こうと思っている。第1弾として書きたいのは、第4回で、概念の紹介をしたレジリエンスという話である。

【イノベーション戦略ノート:004】イノベーションを担う人材のスキルとマインド


◆イノベーションの現実

イノベーションに関する「組織の現実」を聞いていると、何かを提案して却下されたら、その件はそれで終わりというような感じの意見が目立つ。よく言えば潔いが、果たしてそんなものなのかとも思う。

イノベーションの本質をついた格言の一つは、「成功するまでやれば失敗はない」というものではないかと思う。こういうと、

組織はそんなに甘いものではない。一度失敗すれば次はない

という反論が飛んできそうだ。これも現実といえば聞こえがいいが、上位管理者と話をしてみるとそんなことはないという人が多い。失敗の仕方というか、失敗の後の態度によるというごく当たり前の考えの人が多い。すると、イノベーションの実行者は、ただ、単に一度打たれてへこたれているだけのようにも思える。


◆「やられたらやり返す」という発想

今年大ヒットしたテレビドラマ「半沢直樹」のキメ言葉に、流行語大賞をとった「やられたら必ずやり返す、倍返しだ」というのがある。「半沢直樹」は銀行の社内政治をテーマにしたドラマで、主人公である半沢直樹が策略を仕掛けられ、ピンチに陥るが、やり返し、相手の陰謀を覆すと言うドラマだ。

いわゆる勧善懲悪モノだが、勧善懲悪モノは必ず善がピンチに陥る。そして、そこから盛り返し、悪をやっつける。ドラマの起承転結上、そうなっているのだと思うが、そこには単なる仕返しを超えた行動がある。それが、レジリエンスという概念である。


◆レジリエンスとは

レジリエンスを一言でいえば、

困難な状況にもかかわらず、うまく適応できる力

であり、日本語では回復力とか、弾力性といった言葉があてられる。神戸大学の金井壽宏先生は、「ポジティブ心理学のワークショップ記録書籍「人勢塾」」の中で、以下のようにレジリエンスを説明されている。

レジリエンスとはネガティブな逆境、葛藤あるいはポジティブであるが進歩、責任の増大など圧倒されてしまいそうな状況に、立ち向かい、克服し、元の状態にまで跳びはねていく力、

さらに、そのような状況に偶然遭遇するだけでなく、自らの選択で、安定して快適なゾーンを後にして、なにか新しくて未知なことに乗り出し、途中であきらめずにそれを成し遂げる力を指す。

金井 壽宏編著『「人勢塾」 ポジティブ心理学が人と組織を鍛える』、小学館(2010)


◆受動的なレジリエンス

この定義が非常に興味深いのは、前半は受動的な態度で遭遇した逆境において、逆境をばねにしてより復元していく力であるのに対して、後半は能動的な態度であることだ。

組織におけるイノベーションに求められるのは、ひとつは組織の上位から無理難題を押し付けられたときに、それをばねにしてやり遂げること。つまり、受動的なレジリエンスである。

しかし、日本の組織ではその手の指示は言いっぱなしでフォローされないことが多く、それが本当の意味での逆境になるのは限られたケースである。


◆能動的なレジリエンス

むしろ、能動的なレジリエンスが重要な意味を持つ。大手企業のマネジャーをつかまえて、何で、新しいことをやらないのですかと聞くと帰ってくる答えは

・時間がない
・自分の仕事ではない
・自分の範囲では必要性を感じない

のうちの一つ、あるいは複数だ。もっともらしいことを言っているようだが、この3つは今、安定して快適なゾーンにいて、その快適さを奪われたくないと言っているに過ぎない。

確かに、昼間は部下の面倒をみて、自分のすべき仕事は夜やって、残業代もつかないと嘆くマネジャーは多いが、忙しくて充実し、安定した立場にあることは間違いない。上位者からうるさく言われながらも「こなして」いけば、自分の立場は保たれる。

能動的なレジリエンスはこれを否定し、

自らの選択で、安定して快適なゾーンを後にして、なにか新しくて未知なことに乗り出し、途中であきらめずにそれを成し遂げる

ことを求める。


◆起業家精神は有効か

イノベーションにおけるこのようなマインドは起業家精神と結び付けて語られることが多い。快適なゾーンから出て起業するという点においては確かにそうなのだが、起業してしまえば決して快適なゾーンにいるわけではない。不安定で、後戻りできず、ある意味で不快なゾーンにいる。そこから抜け出すことが、「新しくて未知なことに乗り出し、途中であきらめずにそれを成し遂げる」原動力になる。

そのように考えると、大企業のマネジャーに起業家精神を持てという指摘はある意味でナンセンスである。彼らにとってイノベーションは成長の一手段にすぎず、それだけが成長の手段ではないので、必ずしも踏み出す必要はないし、踏み出しても後戻りできる。


◆成長志向が能動的なレジリエンスを呼び起こす

彼らは受動的なレジリエンスは高い。苦境に陥っても知恵を使って脱出し、元の状況に戻すことは得意な人が多いし、結果としてより高みに上ることもある。

問題は自らの選択で安定して快適なゾーンからできることである。この原動力になるのは、「(キャリア)成長したい」という想いであろう。現実問題として、大手企業の部課長の人と話をすると、会社も自分も今のままでいいとは思っていない人が多い。

では、レジリエンスを高めるにはどうしたらよいか。

(1)ポジティブな未来志向を持つ
(2)新しいものに興味や関心を持つ
(3)感情の調整にうまくなる
(4)忍耐強く、成し遂げる

の4つにつきる。この4つは、実は結構、両立するのが難しい特性である。一人で頑張るよりも、それぞれの特性を持つリーダーを巻き込んでいくのが現実的だろう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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