第4回 イノベーションを担う人材のスキルとマインド(2013.04.30)
◆なぜ、人材育成をしないのか
第2話、第3話と企業文化の議論をしてきたが、今回は人材について考えてみたい。イノベーションの重要性を認識しつつも、他人事であるという話を繰り返ししたが、この傾向がもっとも顕著に表れるのが人材育成である。日本の企業はもともとマネジメント人材への投資をしない傾向があることを差し引いて考えても、イノベーションの分野での人材育成にはあまりにも無関心である。
原因は大きくわけると2つあり、一つは人材育成などしなくても(優秀な)誰かが業務の「片手間」にやってくれるだろうという期待である。また、イノベーションとは本質的に優秀な人材がいつのまにか実現してくれるもので、人材を育成して実現するようなものではないと思っている人も少なくない。
もう一つが、人材育成しようにも何をすればよいか分からないという一面がある。人材育成する場合、技術のようにスキルが明確なものは費用だけの問題である。また、マネジメントにおいてもプロジェクトマネジメントや品質マネジメント、セキュリティマネジメントなどはこの範疇に入る。目的が明確だからだ。
逆に、マネジャー育成のように目的があまり明確にできず、必要なものは人によって異なる分野もある。たた、組織上の役割は明確であるので、組織として最低必要限のスキルとマインドを教えるがあとは本人に任せる。
◆何を、どのように育成すればよいか分からない
イノベーションはマネジャー育成に近いが、組織として最低必要限なスキルが何かすらはっきりしていない。企業で事業部長クラスの人と話をしても、イノベーションは必要だと思うが、どのようにすればいいのか、どのようなスキルを持つ人材がいればいいのかは皆目見当がつかないというのが実態のようだ。
同時に多くの人がなんとなく気づいているのは、これまでのような管理スキルだけでは難しいだろうということだ。かといって、創造力とか言われてもその実態がはっきりしないし、スキルを身につけさせる方法もはっきりしない。
◆イノベーション人材に必要なスキル
PMstyleではイノベーション人材に必要な能力をイノベーション・リーダーシップと呼んでいる。イノベーションリーダーシップの議論は戦略ノートの中核の話題の一つになると思うが、まず、今回はフレームワークを提示してみたい。便宜上、イノベーション人材に必要な能力を、スキル、マインドに分けて考える。
まず、スキルから考えてみよう。スキルの中で重要だなと思うのは、「想像力」である。多くのイノベーション・リーダーに共通しているのは妄想だといってもよいような想像力である。ただし、この想像力にはイノベーションで達成したい目的があり、その意味で戦略的な想像力である。その点でそれ自体が目的になることが多いビジョンとは少し異なり、目的を達成するためのシナリオを自由奔放に作る力だといってもよい。
二番目はさまざまな人を巻き込んでいく力である。人を巻き込むことによってイノベーションの可能性は広がる。また、セレンディピティのような偶発性もあるのがイノベーションであるが、ビジネスとしてやっていく限り、やはり目的が中核になる。その意味で戦略的巻き込み力と命名している。
三つ目は、意外に思うかもしれないが、質問力である。多くのイノベーションは質問(問い)から起こっている。問いはイノベーションの推進力になる。
四つ目は、問題解決力。問いによってもたらされた問題を解決する力である。
五つ目は、チームによってブレークスルーを起こす力である。イノベーション実行の成功はチームによるブレークスルーにかかっているといっても過言ではない。それを引き起こす力がブレークスルー力である。
以上をまとめると次の5つがイノベーション人材に必要なスキルである。もちろん、イノベーションがイノベーションだけで実現できるわけではない。この連載で、パフォーマンスエンジンと呼ばれる既存の業務や組織との連携や統合が鍵を握っている。その意味で、イノベーティブ人材はコラボレーション力ではなく、意志決定や一般的なリーダーとして資質を持つことが不可欠である。総じていえば、コンセプチュアルスキルが必要である。
1.戦略的想像力(シナリオ思考力)
2.戦略的巻き込み力(コラボレーション力)
3.創造的質問力
4.創造的問題解決力
5.ブレークスルー力(チームによるブレークスルーを起こす力)
◆イノベーション人材に必要なマインド
それでは、次に必要なマインドについて考えてみよう。
マインドとしてまず挙げることができるのは、好奇心である。好奇心が想像力の導火線になる。なぜそうなっているのか、未来はどうなるのかなど、さまざまなことに興味を示すことこそ、イノベーションのスタートである。
二つ目は、アジリティである。イノベーションを起こすには、何かに気がついたらすぐに動くアジリティが不可欠である。また、うまく行かないときに早く撤退するアジリティも必要である。アジリティがなければ、チャンスを失ったり、立ち直れないような深い傷を負うことになりかねない。
三つ目は、レジリエンス。システムでもレジリエンスという概念があるが、もともとは心理学の言葉で、「精神的回復力」、「抵抗力」、「復元力」、「耐久力」、「弾力」などいろいろな言葉に訳される。この言葉をみればイノベーション人材にとって重要なことはよく分かるだろう。イノベーションに困難な状況はつきものである。レジリエンスがなくてはとてもやっていけない。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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