第20回 iPhoneに見るイノベーションのむずかしさ(2013.09.11)
◆計画されたイノベーションの最終段階
アップルコンピュータの50%以上の売り上げを占める看板商品のiPhoneの新しいモデルiPhone5sが発表された。いろいろな意味で注目されたモデルだった。
ひとつはジョブズの計画した最後のモデルだということだ。ジョブズは、iPhone4sが発表された翌日に死去した。このとき、iPhone4sも含めて、向こう3世代のiPhoneのデザインはすでに終わっていると言われていた。これが正しければ、iPhone5sがジョブズが開発に関わった最後のモデルということになる。
一方で、今回のiPhone5sはみんながもろ手を挙げて素晴らしいという製品ではなかった。もちろん、iPhone自体はクールな商品だし、特に日本では圧倒的に市場の支持を得ている。今回の商品のレベルも期待外れといったレベルではない。
◆ラディカルイノベーションは初代iPhoneだけ
イノベーションには、ラディカルイノベーションとインクリメンタルイノベーションがあるが、アップルにユーザが求めるのはラディカルイノベーションである。しかし、アップルの戦略はそうではない。
iPhoneに関していえば、2007年に登場した最初のモデルでラディカルイノベーションを起こし、その後はインクリメンタルイノベーションを繰り返してきている。この間、iPadやiPad
mini、iCloudといった商品を出しているのでアップルというブランドとしてはどんどん革新的をし続けているように見えるが、iPhoneに関していえば決して最初の時点で計画されたインクリメンタルイノベーションのように思える。
おそらく、次のiPhone6がラディカルイノベーションになるものと思われる。ここで、初めてジョブズがいないアップルの真価が問われることになるだろう。
◆アップルのイノベーションシナリオ
もう一つ注目されるのは、インクリメンタルイノベーションの最後だと思われるモデルで、廉価版を出してきたことだ。これは素晴らしいシナリオである。2007年の発売から、商品力の推移、通信環境の発展、関連商品の開発、新興国市場の拡大などを折り込んだ、見事なシナリオである。
iPhone5sに陰りはみられるものの、製品力はまだまだ健在であるし、中国最大のキャリアであるチャイナ・モバイルの導入は不透明ながらも、おそらく廉価版はシェアを引き上げていくのであろう。また、今回、情報統制がこれまでになく緩かったのも、シナリオのうちなのかもしれない。
このように過去5年間のアップルを見ていると、まさに、アップルマジックとでも言いたくなるような結果を残している。
◆継続的なイノベーションのむずかしさ
iPhoneのようなイノベーションをすること自体が極めて困難だが、仮にイノベーションがうまく行ったとしてもその後、競争力を持ち続けることは容易なことではない。顧客な常に新しいものを求める。そして、ラディカルイノベーションが大きければ大きいほど、ユーザはラディカルなイノベーションを求める。一方で、ラディカルなイノベーションを持続的に行っていくというのはほとんど不可能に近い芸当だろう。
ラディカルイノベーションとインクリメンタルイノベーションを組み合わせて、常に顧客やユーザの期待にこたえ続けなくてはならない。これがイノベーションの真のむずかしさであり、イノベーションにマネジメントが必要な理由でもある。これを実現できている企業はそんなにはない。たとえば、P&Gや、IBM、インテルなど、世界中で数社であろう。
これをここまでのアップルは見事に成し遂げたわけだ。これがジョブズの神髄なのかもしれない。
◆「モダン、シンプル、タイムレス」を実現したアップル
奥山清行さんが、「100年の価値をデザインする」という本の中で、「モダン、シンプル、タイムレス」というデザインの原則を述べている。ユーザは常に新しいものを求める。その中で価値はタイムレスでなくてはならない。この一見矛盾する要求を両立させるのがシンプルである。この原則を見事の実現したのがアップルであり、iPhoneである。5年間、期待にこたえ続けてきたわけだ。
来年、iPhone6で実現されるであろうラディカルイノベーションが楽しみである。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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