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イノベーションの抑制を戦略として行われている企業でも、イノベーションの火種を持っておくことは重要であり、火種まで消えると組織が硬直してしまう

第22回 イノベーションを抑制する(2013.12.25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆イノベーションを抑える企業

イノベーションが必要だという主張に対して正面から否定することは難しい。なので、リスクがあるとか、足元を固める方が先決だといった話しになる。

しかし、もっと積極的な理由でイノベーションを抑えてしまうようなケースもないわけではない。たとえば、マクドナルドだ。

マクドナルドというと標準化というくらい高度な標準化を行っている企業だ。デイブ・グレイ、トーマス・ヴァンダー・ウォルが「コネクト」という本の中で、これまでのサービス業は企業が提供のルールを決めて顧客はそれに従ってサービスを受けていたが、今後のサービス業は企業と顧客が結びついて一緒に作り上げていく傾向が強くなっていくだろうという予測している。その中で、依然として企業がルールを決めて顧客を動かす特別な企業があるとし、その例として挙げられているのがマクドナルドだ。そのくらい、マクドナルドの標準化というのは進んでいる。

デイブ・グレイ、トーマス・ヴァンダー・ウォル(野村 恭彦監訳、牧野 聡訳)
コネクト ―企業と顧客が相互接続された未来の働き方」、オライリージャパン(2013)

標準化のメリットというか、目的はコストダウンすることである。そこにイノベーションを受け入れることは標準を崩すことであり、コストアップを意味する。そこで、マクドナルドはイノベーションを抑制している。


◆マクドナルドの商品開発

この連載で再三述べているように、現代のイノベーションは戦略の実行手段としての性格が強くなってきている。マクドナルドのイノベーションの抑制は、戦略として行われているのだ。その点において、必要性を感じながら回避している企業とは違う。

マクドナルドもイノベーションの効用を実感していないわけではない。現在主力製品になっている「エッグマックマフィン」は1960年代に、「フィレオフィッシュ」は1970年代にフランチャイズが持ち込んだイノベーションだ。

しかし、それがすぐに採用されることはない。量が確保され、グローバルな標準になって、コスト水準がクリアできてはじめて採用される。これがマクドナルドだ。

ちなみに、長い期間、フランチャイズからの提案は採用されていないが、マクドナルドのR&Dの拠点では毎年1800種の新商品が試されるそうだ。

ついでにいえば、マクドナルドのインドでは食習慣の違いからフィレオフィッシュ以外はグローバルメニューはないそうだ。しかし、それはインドに留まり、グローバル化されることはない。日本でも照り焼きとか、そういったメニューがあるが、マクドナルドの社長が交代し、米国から派遣された際にこの種のカスタムをできるだけ減らし、財務体質を変えると宣言していた。その後、マクドナルドにいくとなるほど、本来はこういう店だったのかと思えて面白い。


◆イノベーションの火種は残す

マクドナルドに限らず、イノベーションを戦略的に抑えなくてはならないというケースは意外と多いのではないかと思う。たとえば、製造業では製品開発をするときに、生産ラインの問題を無視して考えることは少ない。新しい製品によって既存の製品のコストが上がったり、場合によっては既存の製品と市場を食い合う可能性もある。こういったことは避けるのはイノベーションをしないいいわけでなく、戦略的な課題である。

また、流通の問題も考えなくてはならない。いわゆるパフォーマンスエンジンとうまく折り合いをつけない限り、イノベーションに取り組むことは難しいのだ。

冒頭に述べたようにイノベーションだというと正面からそれを否定することは難しい。なので大抵は歯に物の挟まったような言い方になる。その中で、イノベーションの火種を持っておくことは重要だ。火種まで消えると組織が硬直してしまう。マクドナルドがローカルなメニューまで抑制しないのはその重要性を知っているからだといえよう。


◆火種の残し方

火種の残し方はいろいろとある。古くからやられているのがスカンクワークスだ。

スカンクワークスはロッキード・マーチンの先進開発部門「ロッキード・マーチン先進開発計画」の通称である。第二次世界大戦のさなかに登場したドイツのジェット機に負けないようなジェット機の開発の依頼を受けたロッキードは、秘密保持と当時33歳の天才技術者への便宜を図るため、彼に2〜3人の設計者と30人の職工を与え、事実上の独立チーム結成した。その作業場所がプラスチック工場の傍で悪臭がひどく、この名前がついたと言われる。

このプロジェクトが多くの成果を挙げ、秘密ミッションではスカンクワークスという名称が一般的に使われるようになった(ただし、この名前はロッキード・マーチンにより商標登録されている)。

もう少し、曖昧にすると3Mが生み出したといわれる15%ルールになる。これは労働時間の15%を自由に使ってよいというルールだ。詳しくは戦略ノートの第13回を読んで欲しい。

【イノベーション戦略ノート:013】20%ドクトリン


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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