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プロジェクトマネジメントの中で如何にパーパスを活用するかは、プロジェクトマネジャーのリーダーシップにかかっている

第7回 プロジェクトマネジャーがパーパス主導のリーダーになる(2020.02.04)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆はじめに

前回まででプロジェクトのパーパスの定義と、メンバーのパーパスとプロジェクトのパーパスの結び付けについて議論しました。これでパーパスでプロジェクトをマネジメントする準備は整ったわけですが、実際に重要なのは運用です。

つまり、プロジェクトマネジメントの中で如何にパーパスを活用するかですが、これはプロジェクトマネジャーのリーダーシップにかかってきます。今回はこの点について考えてみたいと思います。


◆パーパス主導のプロジェクトマネジメント

パーパスを活用したプロジェクトマネジメントのイメージを整理しておきますと、

(1)パーパスを決める
(2)個人のパーパスとプロジェクトのパーパスを結びつける
(3)パーパスを実現する目標を設定する
(4)目標を達成する計画を策定し、実行する

という流れになります。ここでマネジメントの対象になるのは、目標や計画になります。VUCAなプロジェクトでは、プロジェクトの環境の変化が頻繁に起こることが予想されますが、ここで重要なことは計画レベルの変更ではなく、目標の変更をすることです。

パーパスによるプロジェクトマネジメントでは、環境の変化(プロジェクトの主要ステークホルダーの変化、プロジェクト成果物の変化、プロジェクト成果の定義の変化など)の中でパーパスを実現することです。つまり、如何に目標を変更すれば、パーパスを実現できるのか、もう少し正確に言い換えると、パーパスの実現度合を低下させなくて済むのかを優先的に考えていくわけです。これがプロジェクトマネジャーの重要な役割になります。


◆パーパス主導でメンバーを動かす

難しいのは、メンバーは計画を変えたくないという現実があることです。パーパスによるプロジェクトマネジメントでは、プロジェクトでパーパスを実現するためにある意味で自発的に目標を変えていきます。これは計画の変更を意味します。

この壁を乗り越えて、パーパスによってプロジェクトを主導していくためにはどうすればよいのでしょうか?

メンバーがプロジェクトに参加している意味は、自身のパーパスの実現になるからです。プロジェクトマネジャーはここをきっかけにして、以下の2つの認識づくりをするとよいでしょう。

一つは、プロジェクトの環境が変わる中でパーパスの実現度を維持するためには目標を変える必要があることを徹底的に話し合うことです。

もう一つは、計画や目標が変わってもパーパスは変わらず、従って、メンバー個人がプロジェクトに参加する意義も変わらないことをパーパスの結び付けをした段階から常に意識させておくことが重要です。


◆成果物と成果は異なる

重要なことは、プロジェクトが動いているのは、決められた成果物を作るためではないという意識を徹底することです。そのためには、成果と成果物の違いをすべてのメンバーやステークホルダーに認識させることがポイントになります。

成果物と成果は以下のように定義できます。

・プロジェクト成果物
プロジェクト成果物は通常プロジェクト成果に含まれるが、プロジェクト成果の全体とは限らない。

・プロジェクト成果
プロジェクト成果はプロジェクト成果物に基づいて、組織の環境の中で、組織の知識により生み出され、さらに改善される。

例えば、目標として、〇〇の機能を持つ商品を作るというのがあれば、その商品が成果物になります。これに対して、成果は、パーパスをどれだけ実現できたかです。

例えば、スマートフォンの開発プロジェクトのパーパスが高齢者の要望をかなえることだったとします。これは、高齢者にとって使いやすく、魅力的な商品というプロジェクトの成果物によって実現できるでしょう。これに加えて初期目標にはなかったプロジェクトでサービス体制を作り上げ、高齢者向けのサポートを追加目標にすれば、パーパスの実現度合は上がることになります。

このようにプロジェクトで決められた成果物だけではなく、よりパーパスの実現度合を向上させるためには何ができるかを常に考え、目標を変更して実現していくことがパーパス主導ということになります。


◆パーパス主導の例

最後に第5回から例として取り上げているメーカの10年後に女性管理職の割合を40%にするというプログラム(プロジェクト)の例を取り上げて考えてみましょう。前回、示しましたように、このプロジェクトでは、プロジェクトのパーパスを
「女性の力を社会に役立てることができるマネジメントの定着」

としました。そして、プロジェクトの目的を

「組織の力を高めるプロジェクトマネジメント手法のデザインと定着化」

としました。

そして、その目標の初年度の実現目標として

(1)組織内のプロジェクトを分析し、プロジェクトを仕分けする
(2)組織に貢献できるプロジェクトマネジメントの在り方を検討する
(3)プロジェクトマネジメントのデザイン
(4)トライアルプロジェクトを決めて、デザインの評価をする

の4つを設定し、計画を作り、スケジュールや分担を決めました。

(1)は予定通りに終わりましたが、(2)で問題が起こりました。このメーカはこれまで機能性の高い製品を提供することを主な活動としていましたが、顧客のニーズの多様性が大きくなってきて、製品提供という形で対応することが難しくなってきていました。そこで、基本製品に加えて、カスタマイズのサービスを次年度より正式に行うことが決定しました。

これにより、プロジェクトも従来の製品開発だけではなく、カスタマイズの受託プロジェクトを行うことになりました。このような変化によって、求められるプロジェクトマネジメントも変わってくることが予想されます。

そこで、プロジェクトリーダーの佐藤さんは、いろいろと考え、既存の製品開発プロジェクトではなく、受託プロジェクトのマネジメントに焦点を当てることにしました。その方が、プロジェクトのパーパスの実現に近づくと思ったからです。

これによって、スコープをはじめ、スケジュール、ステークホルダーなどのマネジメント計画は大幅に変わってしまいます。

そこで、まず、プロジェクトで対話することにしました。対話のテーマは、

「組織の力を高めるために何をすべきか」

で、特にプロジェクトマネジメントの在り方に限定せずに対話をしてもらうことにしました。

結果として、新しい受託事業を成功させることだという結論に至りました。これにより、組織の力を高めるためのプロジェクトマネジメントとして、受託プロジェクトのためのプロジェクトマネジメントを考えるという佐藤リーダーの考えに落ち着き、そのあとは順調に進んでいきました。


◆VUCAプロジェクトは目標主導ではうまくいかない

プロジェクトマネジメントの基本は5W2Hをマネジメントすることですが、通常のプロジェクトではWHATが重視されます。言い換えるとこれは成果物です。

しかし、VUCA時代のプロジェクトは目標変更をしなくてはプロジェクトの成果が得られないことが多くなります。WHATを完璧にマネジメントしても、求められるものが変われば価値はなくなり、プロジェクトの成果は得られません。これはWHYを重視することを意味します。

VUCAのプロジェクトにおいては、成果物より成果を求めることを意識する必要があることをリーダーはよく認識し、パーパスにふさわしい判断をしていく必要があります。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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