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第170話:VUCA時代のプロジェクト組織には自己組織化が不可欠だ(2020/06/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロジェクトの特徴

基本的なプロジェクトマネジメントの教科書を見ると、プロジェクトの特徴は

・有期性
・新規性
・段階的詳細化

の3つだとされている。これらの特徴を前提として、納期、予算、スコープをコントロールしながらプロジェクトを進めていくのがプロジェクトマネジメントである。

しかし、VUCA時代のプロジェクトにおいてはこの3つ以外の特徴として、

・自己組織化

というという特徴も考えなくてはプロジェクトとしての成果が生み出さすプロジェクトマネジメントが難しいような印象がある。

そこで、今回のPMスタイル考では、組織的な面を中心にプロジェクトの持つべき特徴を考えてみたい。そのための切り口として、最近、非常に注目度が高くなってきた自己組織化組織であるティール組織への進化を取り上げてみたい。


◆ティール組織とは

ティール組織を提唱している「Reinventing Organizations」においては位置づけとしてティールに至る組織の進化について丁寧に解説されている。これはプロジェクト組織の性格を考える上で極めて大きな示唆があるので、この進化も含めてティール組織の概要を説明することにする。

ティール組織は2014年にフレデリック・ラルーが書籍「Reinventing Organizations」において提唱した概念で、4年後の2018年に「ティール組織」(英治出版)として翻訳が出版され、多くの人が読み、一挙に知られるようになった。

ラルーがこの本を書いた動機は、

「旧来のマネジメント手法は成果が上がっており正解だと思われているが、実は組織に悪影響を与える可能性を孕んでいる」

と認識したからだ。このため、この本では過去に見られる組織を進化の順に5つのスタイルに分け、そのスタイルの進化を示すことによって組織のスタイルとマネジメントの関係を議論にしている。

ラルーが組織スタイルの進化を示すために用いているのは、ケン・ウィルバーが提唱したインテグラル理論における「意識のスペクトラム」であり、意識のスペクトラムにあわせて組織の進化を

レッド(衝動型)→アンバー(順応型)→ オレンジ(達成型) → グリーン(多元型) →ティール(進化型)

としている。この進化で5番目がティール組織になっている。

では、それぞれに、どのような組織なのかを説明していこう。注意しておいてほしいのは、組織としては後に行くほど進化しているが、それがよいかどうかはどういう目的の組織かによって変わってくることだ。プロジェクトにおいても同様で、その目的によって望ましいプロジェクトが異なる。その意味でラルーの認識は参考になる。


◆衝動型、順応型、達成型、多元型の組織スタイル

まず、衝動型(レッド)だが、「特定の個人の力で支配的にマネジメントする」ことにより、強力な上下関係が形成されることを特徴とする組織スタイルである。この組織は短期的な視点で動いており、どのようにして組織として生存していくかだけに焦点が当てられている。このスタイルの例として、ギャングやマフィアが挙げられる。

次に順応型(アンバー)だが、明確に役割が決められており、厳格にその役割を果たすことを求められる組織スタイルである。この組織では、中長期で計画を立てられるようになり、さらに、規模を拡大できる安定した組織構造を作れるようになっている。このスタイルの組織の例として、カトリック教会、軍隊、公立学校などがあげられる。

三番目は達成型だが、アンバー型の役割を、成果があるかないかという基準に置き換えたもので、これは環境の変化に適応するために発展したものだ。つまり、階層構造によるヒエラルキーが存在しながらも、成果を出せば昇進出来る組織スタイルだといえる。このために、常に、イノベーション、説明責任、実力主義が求められれる。このスタイルの組織が今のビジネス組織としては最も一般的であるし、プロジェクト組織においてももっとも基本だといえる。

四番目は多元型だ。多元型は達成型の問題である、物質主義、社会的不平等、コミュニティーの喪失といった問題を解消しようとした組織で、その人らしさを表現可能であり、主体性を発揮しやすく個人の多様性が尊重されやすいことが求められる組織スタイルである。

このため、公平、平等、調和、コミュニティー、協力、コンセンサスを創ろうとし、このため、権限移譲、価値観を重視する文化、心を揺さぶるパーパス、多数のステークホルダーの視点を生かすことなどが求められる。

この組織も一種の自律/自己組織型の組織である。スタイルで成功している企業には、サウスウエスト航空、ベン&ジェリーズといった経営学のケースによく登場してくる企業があることからも、先進的な組織だと言える。


◆ティール型組織

そして最後が進化型(ティール型)であり、「組織を一つの生命体」であることを特徴とする組織である。ティール組織は、組織に関わる全員のものであり「組織の目的」を実現すべく、メンバー同士で共鳴しながら行動をとる。

ティール組織には、

(1)セルフマネジメント
  指示に従うのではなく、1人ひとりが自分の判断で行動し、成果をあげていく
(2)ホールネス
  個人のありのまま(全体)を尊重し、受け入れることを重視する
(3)進化する目的
  会社のビジョンや事業、サービスは、社員の意思でどんどん進化する

の3つの要素が必要だとされる。


◆衝動型プロジェクトスタイル

さて、ラルーが示したように組織スタイルが進化するとすれば、プロジェクトはどのスタイルであることが望ましいのかが気になるが、既に述べたようにこれはプロジェクトの性格によって望ましいスタイルが変わってくる。

まず、衝動型のプロジェクトスタイルである。プロジェクトはプロジェクトマネジャー次第だという人もいるが、その人のイメージは、衝動型プロジェクトスタイルをイメージしていると想像される。このスタイルのプロジェクトは少なくなってきていると思われているが、衝動型でなくては成果が生まれないプロジェクトもあるのは事実だ。

例えば、会社のスタートアップでは衝動型のプロジェクトスタイルであることが望ましいことも多いし、商品の開発プロジェクトにおいても例えば、ジョブズのような衝動的なプロジェクト運営をすることが大きな成果を生み出すことも決して珍しいことではない。


◆順応型プロジェクトスタイルと達成型プロジェクトスタイル

プロジェクトで一番、多いのは順応型のスタイルである。プロジェクトという言い方をするときにこのスタイルのプロジェクトが最も多い。つまり、明確に役割が決められており、厳格にその役割を果たすことを求められる。そして、役割を決め、その役割を厳格に果たしていくことを求めるのがプロジェクトマネジメントである。特に大規模プロジェクトではこのスタイルの組織を作っていくことが圧倒的に多い。

さらにいえば、IT企業のように経営活動をプロジェクトで行い、プロジェクトで成果をあげれば評価されるような仕組みにしている企業も増えている。これはプロジェクトを達成型のスタイルにしているとみることができる。


◆権限移譲と多元型のプロジェクトスタイル

一般組織と同じようにプロジェクトにおいても、大きな隔たりがあるのは、達成型と多元型の間だろう。その原因になっているのは、権限移譲の難しさである。

プロジェクト自体が組織からの権限移譲だが、ここでプロジェクトマネジャーが計画を作り、すべてをコントロールしようとすれば順応型になるし、そこに成果評価を入れれば達成型になる。さらにメンバーの多様性を活かすためにメンバーに権限移譲すれば、多元型のプロジェクトになっていく。

例えば、WBSとOBSを決めて後はメンバーに任せるというスタイルで運営しているプロジェクトは、多元型スタイルだといえるだろう。これより一歩進んだのが、WBSが作れないようなVUCAなプロジェクトにおいてアジャイルを適用してプロジェクトを進めていくと、多元型になる(これを順応型や達成型でやろうとするとうまく行かない)。


◆ティール型プロジェクトスタイルとパーパスドリブン

それでは、ティール型プロジェクトとはどのようなものかということになる。進化型(ティール型)の組織の要件として、

(1)セルフマネジメント
 指示に従うのではなく、1人ひとりが自分の判断で行動し、成果をあげていく
(2)ホールネス
 個人のありのまま(全体)を尊重し、受け入れることを重視する
(3)進化する目的
 会社のビジョンや事業、サービスは、社員の意思でどんどん進化する

という要件を考えると、一つのパターンとしてあるのはパーパスの実現のために行うプロジェクトである。

パーパスドリブンなプロジェクトでは

「組織のパーパスを実現するためにプロジェクトのパーパスが決まる」

という形で(3)を実現する。そして

「パーパスを実現する方法を自分(たち)で決め、実行していく」

という形で(2)の「個人のありのまま(全体)を尊重し、受け入れる」を実現する。さらに、

「実行する中で発生する様々な問題を自身で解決していく」

ことによって、(1)を実現する。このようにティール型のプロジェクトになっていると考えることができる。


◆VUCA時代のプロジェクトスタイルとプロジェクトマネジャーの役割

このような方法でプロジェクトを進めて行く場合、プロジェクトマネジャーは要らなくなると思われるかもしれないが、それは誤解だ。パーパスに向き合い、パーパスの実現のためにさまざまな調整をしていくことがプロジェクトマネジャーの役割になるからだ。

VUCA時代のプロジェクトはティールなスタイルが必要になるプロジェクトが圧倒的に増えている。そこで、

「ティールなプロジェクトに、パーパスドリブンなコンセプチュアルなプロジェクトマネジメントを行う」

これこそが、VUCA時代のプロジェクトマネジメントの在り方だといえよう。

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   6.トラブルの本質を見極め、対応する
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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