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第169話:能動的なレジリエンスを呼び起こす(2020/05/11)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆はじめに

コロナウィルスもだんだん、性格が分かりつつあるが、2か月くらい前には非常に不気味なもので、いつまで影響が続くか分からないような感じだった。そのころに、どういうスタンスを取ろうかと考えているときに、ふと思いだしたのがレジリエンスだった。

それで、何本かレジリエンスに関する記事を書いたのだが、それに対して反応はレジリエンスって、結局、置かれた境遇を如何に乗り切るかということだろうという反応が多かった。これは「もとに戻る」のがレジリエンスだという思い込みがあるからだ。

レジリエンスという英語の意味には、回復、復元、再起といった意味以外に、跳ね返り、弾力という言葉がある。レジリエンスに取り組む分野にもよるのだろうが、少なくともビジネスにおけるレジリエンスは跳ね返りや弾力といった意味の方が強い。

そこで、今回のPMスタイル考は、跳ね返りや弾力をイメージしたビジネスのレジリエンスという概念について思うところを述べてみたい。キーワードは倍返しだ。


◆倍返しだ!

PMスタイル考で一度だけ、レジリエンスに関する記事を書いたことがある。2013年の12月に書いた

イノベーターのレジリエンス

という記事だ。

実は、記事を書いた2013年は、史上2位の視聴率を記録した連ドラ「半沢直樹」が放映された年だ。今年、「半沢直樹2」が4月から放映されるというので楽しみにしていたのだが、残念ながらコロナでつくることができず、延期になっているようだ。

なぜ、こんな話をしたかというと、半沢直樹の

「やられたらやり返す、倍返しだ!」

という発想について触れたかったからだ。

ご存知の方も多いと思うが、「半沢直樹」は銀行で繰り広げられる勧善懲悪のドラマである。主人公の半沢直樹が、上部の不正融資の責任を押し付けられ、跳ね返し、苦境を乗り越えていく。そして、その際の決め台詞が、「やられたらやり返す、倍返しだ!」だったのだ。

レジリエンスというと、元の状態に戻ることが目的だと考える人が多い。しかし、跳ね返りや弾力という意味のレジリエンスはそれだけでは不十分で、新しい価値を生み出すことによって本当の意味でのレジリエンスになる。つまり、倍返しというのはレジリエンスのあるべき姿なのだ。


◆コロナのあと(アフターコロナ)

コロナの後、世界がどうなるかという議論は盛んにおこなわれるようになっている。方向はよく分からないが、変わることは間違いないだろう。それもパラダイムチェンジというような根本的な価値観の変化が起こることが予測される。現時点で何となくだが予想されるのは、生活様式が変わることだ。生活様式が変われば、社会やビジネスの要求も変わるだろうし、働き方も変わるだろう。

コロナに限らず、システム全体が大きなダメージを受けたときに、ダメージからの立ち直り方として元に戻るというのは考えにくい。これはビジネスも例外ではなく、今回のコロナは明らかに世界の経済システム全体にダメージを与えている。

そしてその変化の中では、これまで積み上げてきたものが役に立たなくなるものがある。もちろん、役に立つものもあるが、何が役に立つかは回復が始まってみないと分からない。自分が強みと思っているものが、まったく役に立たなくなる可能性もある。

問題はビジネスにおける倍返しイメージだが、それまでより大きな価値を生み出すことだが、価値観そのものが変わっていることに注意する必要がある。例えば、高収入を上げるためにさまざまな努力をしていた人が、経済システムの崩壊でそれを失ったときに、ダメージから回復して同じレベルの収入を上げたときに、周囲がどう評価するか、あるいは自分自身がどう感じるかは微妙である。この点はこの記事では議論しない。倍返しとは価値を倍にすることだと単純に考えておく。

いずれにしてもそのように変化を乗り越えていくために重要なことは、適応することだ。とにかく適応力を高めるしかない。適応力が低いと折角戻したのにそれはもう価値がないものだったということもあり得る。逆に適応力が高いと、戻るだけではなく、より高い次のポジションに行くこと、すなわち倍返しが可能になる。


◆レジリエンスとは

この適応力こそがレジリエンスである。ビジネスの世界ではレジリエンスは

困難な状況にもかかわらず、うまく適応できる力

と定義される。もう少し、詳しく見て行こう。

神戸大学の金井壽宏名誉教授は、「ポジティブ心理学のワークショップ記録書籍「人勢塾」」という書籍の中で、レジリエンスを以下のように説明している。

「レジリエンスとはネガティブな逆境、葛藤あるいはポジティブであるが進歩、責任の増大など圧倒されてしまいそうな状況に、立ち向かい、克服し、元の状態にまで跳びはねていく力。さらに、そのような状況に偶然遭遇するだけでなく、自らの選択で、安定して快適なゾーンを後にして、なにか新しくて未知なことに乗り出し、途中であきらめずにそれを成し遂げる力を指す。」

適応力を増すために、ウィズコロナの時期においては、レジリエンスを高める必要があるのだが、そこで注意したいのはレジリエンスには2つの種類があることだ。


◆受動的なレジリエンス

金井先生の説明が非常に興味深いのは、前半は受動的な態度で遭遇した逆境において、逆境をばねにしてより復元していく力であるのに対して、後半は能動的な態度であることだ。簡単にいえば、現状に耐え、元の状態に戻し、倍返しする半沢直樹のイメージそのものなのだ。

ビジネスにおける復元に求められるのは、復元の過程において社会や顧客から出てくるだろう無理難題に対して、それをやらなくてはならないことをばねにしてやり遂げることだ。つまり、受動的なレジリエンスである。

もちろん、このような復旧は個人だけでは実現できない。受動的なレジリエンスにおいては能動的にチームや組織のフォローやサポートを受けられることが一つのポイントになるだろう。


◆能動的なレジリエンス

跳ね返るという意味のレジリエンスにおいては受動的なレジリエンスより、能動的なレジリエンスが重要な意味を持つ。つまり、自分から快適ゾーンを出て、なにか新しくて未知なことに乗り出し、途中であきらめずにそれを成し遂げることが重要だ。しかし、現実にこれが難しい。

大手企業のマネジャーをつかまえて、なぜ新しいことをやらないのかと聞くと帰ってくる答えは

・時間がない
・自分の仕事ではない
・自分の範囲では必要性を感じない

のうちの一つ、あるいは複数だ。もっともらしいことを言っているようだが、この3つは今、安定して快適なゾーンにいて、その快適さを奪われたくないと言っているに過ぎない。しかし、このような快適ゾーンはシステム全体が崩壊するときには存在しえない。ひょっとするとどこかに快適ゾーンはあるのかもしれないが、価値観が変わればゾーンの位置も変わるし、トランジションしているフェーズではたぶん分からない。この点をよく認識しておく必要がある。

能動的レジリエンスにおいてももちろん、チームや組織のサポートは必要である。受動的なレジリエンスとの違いは、そのようなサポートを引き出すのも能動的なレジリエンスの一部であることだ。


◆能動的なレジリエンスを呼び起こすには

多くのビジネスパースンは受動的なレジリエンスは高い。苦境に陥っても知恵を使って脱出し、元の状況に戻すことは得意な人が多いし、結果としてより高みに上ることもある。

問題は自らの選択で安定して快適なゾーンからできることである。この原動力になるのは、「成長したい」という想いであろう。現実問題として、大手企業の部課長の人と話をすると、会社も自分も今のままでいいとは思っていない人が多い。

では、能動的なレジリエンスを高めるにはどうしたらよいか。それは

(1)ポジティブな未来志向を持つ
(2)新しいものに興味や関心を持つ
(3)感情の調整にうまくなる
(4)忍耐強く、成し遂げる

の4つに尽きる。この4つは、実は結構、両立するのが難しい特性である。一人で頑張るよりも、それぞれの特性を持つリーダーを巻き込んでいくのが現実的だろう。


◆参考資料

金井 壽宏編著『「人勢塾」 ポジティブ心理学が人と組織を鍛える』、小学館(2010)


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 1.コンセプチュアルではない組織の問題点
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  ・チームレベルの問題点
  ・組織レベルの問題点
 2.コンセプチュアルなマネジメントのポイント
  2.1 質問型の組織を創る
  2.2 コンセプチュアルな組織活動のプラニング
  2.3 ステークホルダーへのコンセプチュアルな対応
  2.4 コンセプチュアルな人材育成
  2.5 コンセプチュアルな組織文化の構築
 3.コンセプチュアルなマネジメントの目標
 4.コンセプチュアルマネジメントでコンセプチュアルな組織を創る仕組みワークショップ
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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