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第148話:直感や主観こそがイノベーションを生み出す(2019/03/26)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆議論の背景

今回は、PMスタイル考でこれまで婉曲的に書いてきたが、あまり伝わっていないなと感じていることを書いてみたい。それは、客観性、論理性に「こだわっている限り」、人と同じことしかできず、新しいものは生まれないということだ。

まず、背景を整理しておこう。

日本では2000年前後にロジカルシンキングが注目され、急速に普及してきた。今ではビジネスマンの基礎的なスキルとして新入社員から習得させようとしている企業が多い。また、論理的にものごとを考える背景として、客観性も重視されるようになってきた。論理と主観をくっつけると屁理屈になるので当然だと思われるかもしれないが、あとで述べるようにここに一つ、落とし穴がある。

このような傾向の中で、論理的ではない考え、客観性のない考えはダメだと考えられるようになってきた。ある意味で妥当だといえるが、問題はそれによって起こっていることである。起こっていることは

「新しいアイデアは生まれなくなり、イノベーションで後れを取っている」

ことだ。


◆チームによる思考の有効性

この問題に対処するために位置付けられているのがチームによる思考である。いろいろな、考え方をする人が集まり、知恵を出し合い、組み合わせていく、いわゆるダイバーシティーで新しい考えやアイデアを生み出そうというアプローチがある。

しかし、このアプローチはうまくいっているケースもあれば、いっていないケースもある。時々観察する機会があるのだが、うまくいっているケースはメンバーにより本当の意味で自由な議論がされているチームである。つまり、自分の立場や専門に拘らず、自由にものごとを考え、意見を述べ、自由な方向性にまとめようとしているケースが多い。

これに対して、あまりうまくいかないケースは、専門性や立場を重視し、そこからものごとを考え、リーダー的な人が全体をまとめようとしているケースである。このようなアプローチをするのも分かるし、リーダーシップの問題などもあるが、結果として上手くいっているのはリーダーが卓越している場合がほとんどのように感じる。

では、なぜ、本当の意味で自由に思考し、発言できないのだろうか。


◆ロジカルシンキングの限界

ここで出てくるのがロジカルシンキングの限界である。ロジカルシンキングは不可欠であることは言うまでもない。しかし、ロジカルシンキングだけではだめだ。ここが今回のサプリのテーマである。冒頭に述べたように、新しいものが生み出せない。

繰り返しになるが、論理的にものごとを考えることが悪いわけではない。ビジネスであれ、マネジメントであれ、経営であれ、構想や計画や問題解決をするためには不可欠である。問題なのは、論理が大切なので「論理的な説明ができないものは駄目だと考えること」にある。

論理の対極にあるが直感である。最近、関心が高まってきているものに右脳思考があるが、右脳思考は直感で、左脳思考は論理だと考えておけばよい。マネジメントや経営、商品企画の意思決定の中には直感によるものは少なくない。例えば、ある商品を開発するときに、本当にその商品が売れるかどうかは直感だという人が多い。経営者がある事業を実施するかどうかという判断になってくるとまず直感だという人が少なくない。

ここで論理的に考えようとすると、ぱっとしない商品や事業になっていく。これをリスクの問題だと整理していることが多い。これがロジカルシンキングの限界だといってもよいだろう。


◆直感をそのまま信じてよいか

ただし、企画者が直感的に考えたもの、経営者が直感に判断したものであれば、従うべきかというとそんなことはない。ここが論理なのだ。スタートは直感であっても、その商品が売れることや、その事業が収益を上げることを論理的に説明できなくてはならない。

誤解している人が多いのは、論理は常に100%正しいと思っていることだ。そのように考えると、ある決定は論理的に正しいか、正しくないかになってくる。しかし、実施にはそうではない。

例えば、マネジメントでは生産性を向上することが課題になっている。これに対して、働き方改革と称して、「できるだけ残業をしないで個々人がパフォーマンスを発揮しやすい状況を維持すれば実現できる」(論理A)という論理がある。この論理が正しいか、正しくないかと尋ねられると多くの人は答えに困るのではないかと思う。

結果として、「一般論としては正しいけど、、、」、「うちの会社では正しくない」などといった限定をした答えになる。

これはロジカルシンキングでいえば、どういう前提で考えているかによる。前提として自分たちのチームで考えれば正しいけど、自分たちの部で考えれば正しくないといったことがありうる。


◆前提を明確にできない理由は客観的であること

論理というはこういうものだ。これをリスクだと整理するのは間違いである。前提を明確にしない限り、リスクというのはありえない。言い換えると、直感で決めたことを論理的に説明するということはほぼ、前提を明確にすることに等しい。ただし、ここでもう一つ問題がある。

生産性の例などがその典型だが、一見もっともらしいのだが、どの範囲で考えれば正しいのか分からないことがよくある。このような論理と直感の行き来を実践している人で、だから直感で何か考えることを止めてしまうという人も少なくない。

ここにもう一つの壁がある。それは前提は客観的なものでなくては論理ではないという思い込みである。論理的であることに縛られていると、客観的に考えるとどうなのだと考えてしまう。

実はこれが諸悪の根源である。


◆主観的であることがその人の存在価値

自分の考えをするのに客観的に考える必要は全くない。むしろ、主観的であることがその人の存在意義である。チームで思考をするところで述べたうまく行っているチームは、参加しているメンバーが主観的な思考は発言が許容されているチームである。

もちろん、最終的にチームで決定をするには全員が納得する必要があるので、とことん、意見をぶつけ合い、話し合う必要がある。これによって、チームに参加しているメンバーや関係者の間では正しいと思う意見を生み出す。これは「間主観性」と呼ばれるものだ。

つまり、ダイバーシティーが機能している場というのは、主観的な意見を言えて、間主観性を形成できるような場なのだ。このために邪魔になるのは、明示的な立場や専門性である。最終的にこれらを無視してよいという話ではない。商品を開発しようと思えば然るべき人の承認が必要だし、専門家がうまくいかないと真剣に考えていることはやはりうまくいかないだろう。


◆一旦、自分の立場を捨ててものごとを考える

だからといって、議論しなくてよいという話ではない。立場や専門性を一度捨てて、議論することによって新しい考えが産まれ、それぞれの立場や専門性の立場から納得ができるアイデアが生まれるかもしれない。

こういう意見をいうと、そんなことはやっている、だけど難しくてうまく行かないという反論をされることが少なくないが、実際にそういう場を見ているとほぼ例外なく、立場や専門性を前提にした議論をしているのだ。そういう前提で議論すればロジックの世界なので当然同じ答えしか出てこない。そして、どこか改善できないのかという話にしかならない。そして、イノベーションにもいろいろあるという話になる(まあ、それはそれで正しいのだが)。

前提を捨てて、議論すれば、必ず、新しいアイデアや方法が見つかる。そう信じてすることが、本当に新しい商品や事業を生み出すことができるだろう。このような思考プロセスを実現するのが「コンセプチュアル思考」である。


◆参考資料のご紹介

書籍にもそのようなテーストのものが増えてきている。

主観についてはビジネス書ではあまり見当たらないが、最近注目されるようになってきた美意識系の話などは主観を中心にしたものがある。代表的なのはこの本だ。

山口 周「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」」光文社(2017)

また、センスメイキング系も主観の話である。

クリスチャン・マスビアウ(斎藤栄一郎訳)「センスメイキング」、プレジデント社(2018)

哲学の分野では古くから、結構、多い。中でもお薦めはこの本だ。

ドナルド・デイヴィドソン「主観的、間主観的、客観的」、春秋社(2007)

直感の本はビジネス書の分野でも増えてきている。よく売れているものは

内田和成「右脳思考」、東洋経済新報社(2018)

佐宗 邦威「直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN」、ダイヤモンド社(2019)

野中 郁次郎、山口 一郎「直観の経営 「共感の哲学」で読み解く動態経営論」、KADOKAWA(2019)

などだ。

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   4.クリティカルシンキング応用(3)~ステークホルダーマネジメント
    【講義】ステークホルダーを多面的に分析する
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    【エクスサイズ】ステークホルダーの影響力を疑う
    【エクスサイズ】視点を変え、ステークホルダーの意識を変える
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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