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第147話:テクノロジーを本質的に理解する(2019/03/11)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆伊藤穣一さんの指摘

日本のインターネットの元祖の一人で、MITのメディアラボの所長である伊藤穣一さんが「教養としてのテクノロジー」という書籍で面白い指摘をしている。

「技術的な仕組みの背景にある考え方、すなわち「フィロソフィー(哲学)」として理解することが不可欠になってきました。これまで「教養」と呼ばれてこたレベルで、テクノロジーについて本質的な理解が必要となったのです。「テクノロジーが変えつつある世界」をきちんとした視点を持って捉えることができなければ、いまの経済や社会を正確に語ることができません」(「教養としてのテクノロジー」、NHK出版新書、2018)

伊藤さんといえば、世界レベルで通用している日本人のインターネット知識人であり、世界のテクノロジーのトレンドを作っている一人で、その伊藤さんの指摘だけあって、非常に興味深い。

著書のタイトルからも分かるように、これは技術者の話ではなく、ビジネスマン、あるいは社会で活動している人すべてにおいてテクノロジーは教養になってきたという指摘である。実際に、ビジネスにおいては、事業に取り組むためにテクノロジーに関する知見は重要だと感じている人が増えている。テクノロジーを知らないとビジネスモデルも構築できないし、スピーディーに競争戦略もできないような時代になっているのだ。


◆テクノロジーの本質とは

一方で、エンジニア以外のビジネスマンがテクノロジーについて見識を持ってくださいと言われると、「無理だ」とか、「自分たちの役割ではない」と思うのが現実である。このギャップを埋めるキーワードが伊藤さんの言葉の中に含まれている。それは、「テクノロジーについて本質的な理解」という言葉だ。

本質は何かと辞書を引いてみると、

「あるものを成り立たせている特有の性質、それなしにはそのものが存在しえない性質、要素。根本の性質。本来の性質。」

といった説明がされている。つまり、テクノロジーの本質を理解するとは技術的な仕組みを理解することではない。その技術の根本的な性質を理解するということだ。


◆テクノロジーの本質を理解するとは

例を挙げて本質を理解することのイメージを明らかにしていこう。

アマゾンが展開していた「Dashボタン」という製品がある。アマゾンのユーザなら使っている人もいらっしゃるだろう。2015年に投入された製品で、洗剤やペットフードなど、特定の商品のロゴが描かれた「その商品専用」の注文機器だ。ボタンを押すと自動的にアマゾンに注文情報が送られ、商品が自宅に届く。「選んで買う」という通販の常識を覆した製品である。これが2019年で新規販売が終了になった。

詳しいことは分からないが製品の仕組みとしてはおそらくそんなに複雑なものではない。ハードは筐体とボタン、プロセッサと通信デバイスくらいで、それらを連携するソフトウエアが入った簡単なデジタル通信機器の類だと思われる。この製品(テクノロジー)の本質はどのような構成でどう作動しているかにあるわけではない

このテクノロジーの本質は、「いつもの“あれ”を注文する」というビジネスモデルである。「Dashボタン」をそのようなテクノロジーとしてみれば、その後、AIスピーカー「Alexa」を使ったショッピングという形で実現されており、「Alexa」に「ペーパータオルを買っておいて」と頼めば、いつものペーパータオルを注文してくれる。このような仕組みで全体の売り上げは数倍になったという。

このように考えると、「Dashボタン」という仕組みは終わったが、その本質はまったく別の形で実現され、成果をあげているのだ。テクノロジーの本質を知るというのは、「Dashボタン」の仕組みを知ることではなく、ビジネスモデルを知ることである。


◆現場指向の限界

話は脱線するが、最近、幼少期からのプログラミング教育が注目されるようになってきた。教える塾が増えているし、学校でも取り入れるところが出てきている。おそらく、4〜5年のうちに英語のような位置づけになるのだろう。

この教育のゴールはプログラマを育てることではない。プログラミングの本質を学ぶことである。言い換えるとプログラミングというのは「どのように、どのようなことが」できるのかを知ることである。

日本人は現場指向が強い。これはいいことなのだが、現場の知識だけではものごとの本質は分からない。その現場の概念的な理解をして初めて、本質を見つけることができる。

最近の風潮として、現場を極めるということができなくなってきた。昔は、現場を極めて、結果としてその技術の本質を見極めることができる人が多くいた。いわゆる職人だ。プログラミングにしても、このギャップをカバーするような教育が必要である。


◆エンジニアのテクノロジーへの向き合い方

話をもとに戻す。ここから考えたいのは実はエンジニア(技術者)のことである。伊藤さんの話を技術者に紹介すると、自分は専門が違うとか、技術はよく分かっているので大丈夫といった反応する人が多い。本当にそうなのだろうか。

単純に考えると、伊藤さんの指摘はエンジニアにとっては専門以外の分野テクノロジーの本質を掴むということに他ならない。例えば、経理の人が経理という専門以外に自社が関わっているテクノロジーの本質を知るというのとまったく同じだ。

つまり、専門知識として持たなくてはならない分野は当然あるが、それだけではなく、他の分野についても教養として知る必要があるのだ。

アマゾンの例でいえば、もちろん「Dashボタン」や「Alexa」といったハードウエアの仕組みを知るエンジニアが必要なことは言うまでもないが、これらを担当しないすべてのエンジニアもその背景、つまりそれらが何を目的としたテクノロジーかということに関しては明確な見識をもっておかなくてはならない。そうしないと、自分たちの分野と組み合わせて新しい製品やサービスを生み出すことはできないからだ。

逆にいえば、さまざまな分野のテクノロジーの本質を知り、自分たちの分野との組み合わせを考えることによってイノベーションを起こし、新しい商品を生み出していく。これこそが、エンジニアのテクノロジーに対する向き合い方だといえる。


◆本物の技術者になるには

現実には、エンジニアの多くは、技術的な仕組みを理解しているが、その背景にある考え方には興味がなく、理解できていない人が少なくない。技術者としてあるレベルまではこのスタンスでいけるが、本物の技術者にはなれない。

エンジニアというのは技術者に何らかのプラスアルファがある存在だ。ちょうど、マネジャーが管理者に部下の動機付けとか、いくつかの役割を果たすことが求められるのと同じような感じだ。そのプラスアルファの一つは、専門以外の分野のテクノロジーの本質であろう。

ちょっと脱線するが、技術者が便利使いされている組織がある。これは例外なく、仕組みしか理解できていない技術者しかいない組織だ。仕組みだけを深く理解していればいるほど、使い勝手がよい。

高度成長期にはこれでも技術者が強かった。ビジネスをしなくても技術的な進歩があれば、事業を成長できたからだ。その中で、自分たちの分野はもちろん、他の分野の本質を知る本物のエンジニアが出てきて、成長の方向性を決めていた。


◆本質の理解がイノベーションを生み出す

しかし、今はビジネスをしないと事業は成長できない。ビジネスをするには仕組みを理解するだけでは不十分である。その本質を理解しなくては同じようなものしか作り出せない。いわゆるイノベーションができない。イノベーションは本質の理解があって、それをこれまでと違った方法で具体化することだからだ。

よくイノベーションは既存の技術の組み合わせであるというが、これは製品(技術)の組み合わせではない。それぞれの分野のテクノロジーの本質を組み合わせて新しいコンセプトを創り、製品やサービスに具体化していく。例えば、Alexaというのは「いつもの“あれ”を注文する」という本質と「人のしゃべっていることを理解し実行する」という本質を組み合わせでできたまったく新しいサービスである。

これからのエンジニアは誰もがこのような思考ができるようになる必要がある。


◆マネジメントに関して

最後にマネジメントについても述べておきたい。

プロジェクトマネジメントにおいてはマネジメントに対する本質的な理解が必要である。プロジェクトに限らず、あらゆる分野でマネジメントの達人になるためには「マネジメント」に対する本質的な理解が不可欠である。プロジェクトマネジメントの話をすると、組織のマネジメントやチームのマネジメントとどう違うのかという疑問を投げられることがあるが、本質について語っている部分においては同じだ。

言い換えると「考え方」という部分においては同じで、具体的なマネジメント行動を起こす対象がプロジェクトなのか、チームなのか、マネジメントなのかという違いである。これはテクノロジー以前からあった課題で、マネジメントにおいては教養としてマネジメントの本質の理解が不可欠である。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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