◆与えられた仕事を行う理由を徹底的に考えて下さい
もう20年以上前の話になりますが、大学を卒業して三菱重工業という機械メーカに入社したときに入所式でこんなことを言われた方がいらっしゃいました。
上司から仕事を命じられたら、なぜその仕事をやらなくてはならないのかを徹底的に考えて下さい。分からなければ命じた上司に聞いてください。理解してから取りかかってください。理解するのに時間がかかっても構いません。結局それが近道になります。そして、理解できたら、その仕事を通じて自分として達成したい課題を一つ必ず見つけて取り組んでください。その課題が本来やらなくてはならない仕事の中にあるようなら、我が社の将来はありません。
実は三菱重工にいたときにはなんとも思わなかったのですが、その後、コンサルタントとして独立し、いろいろな会社をみているうちに、如何にすごいことを言っているかが理解できるようになってきました。多くの企業では、「そんな余計なことを考えなくてよい、言われたことを如何に高い品質で実現するかだけを考えろ」と指導されていたのです。
◆最初に勤めた会社でプロジェクトマネジメントを学ぶ
僕はセミナーなどでどのようにしてプロジェクトマネジメントを習得したのかと質問されると、必ず、「大学を卒業して、最初に勤めた三菱重工という会社で教えられた仕事の仕方が、世の中に出てみるとプロジェクトマネジメントと呼んでいるものだった」と答えることにしています。
実は、仕事上、1980年代にはPMI(R)の存在を知っていましたし、プロジェクトマネジメントはどのようにやるのかをそれなりに知っていました。が、そのような机上の知識ではなく、実際に
・仕事の目的の理解と自分なりの解釈
・課題の設定
の2つを徹底的に行い、その上で仕事をしていくということを現場で教わったのが、今の仕事をしている基盤になっています。
なぜ、それがプロジェクトマネジメントかと思われる方もいらっしゃると思います。その理由を説明してみたいと思います。
◆マネジメントバイプロジェクトとマネジメントバイオペレーション
今の時代、どのような企業にも戦略があります。これは前提として考えたいと思います。戦略を実行する手段として、マネジメントバイオペレーション、マネジメントバイプロジェクトの2つがあります。前者は業務を定型化し、管理していく方法です。後者は業務をプロジェクトとしてプランを作り、管理していく方法です。
マネジメントバイオペレーションでは、仕事の目的や方法はすでに決まったものがありますので、マネジメントは、財務目標(バジェット)に対してどのように業務量を確保するかが主眼になります。特に、生産性の向上が求められます。
これに対してマネジメントバイプロジェクトでは、決まっているのは財務目標だけで、個々の仕事でマネジメントは仕事の目的、やり方など、すべてを決める必要があります。
つまり、個々の仕事(プロジェクト)のマネジメントとしては
(1)目的の決定
(2)課題の設定
を行うことが必要です。おおざっぱにいえば、(1)がプロジェクトデザイン、(2)がプロジェクト計画です。
これ以外は不要というわけではありませんが、計画を作ってしまえは、プロジェクトでも定型業務でも管理の方法は同じだということです。
ただし、ここでもう一つ本質的な違いがあるのは、課題設定の確かさです。定型業務では過去の経験に基づき、決められたオペレーションを行えば、その仕事の目的は達成できるようになっているはずです。ところがプロジェクト業務の場合には、課題設定が目的達成に対して妥当かどうかは、はっきり分かりません。この困難を克服するために、行うマネジメントが、リスクマネジメントであり、コミュニケーションマネジメントであり、また、問題が起こったときの統合マネジメントです。
つまり、課題を設定するというのは、目的達成のために行うことですので、スタティックなマネジメントではなく、仮説検証サイクルを回していくマネジメントになります。そのように考えると、プロジェクトマネジメントのもっとも大きなフレームワークはこの2つで構成されていることがわかります。
以上が、プロジェクトマネジメントはこの2つの仕事であると考えている理由です。
◆いくつかの誤解
この議論そのものはシンプルな議論ですが、実際には混乱しています。最後にその理由を考えてみたいと思います。
一つ目は組織にまつわる理由です。マネジメントバイオペレーションはライン組織で行うことが一般的です。マネジメントバイプロジェクトは、ケースバイケースです。ライン組織で行うこともあれば、組織横断的に行うこともあります。
ところが多くのライン組織は、ライン組織は定型業務を行うものだと考え、プロジェクト型の業務運営を過渡的なものだと考えている気配があります。そのため、プロジェクト業務を定型化し、付加価値を削いでしまっているケースが目立ちます。典型的なやり方は、リスクの過剰管理です。
もうひとつは、実際には、マネジメントバイオペレーションで行うべき業務に対してプロジェクトマネジメントを適用しようとしているケースがあります。SIプロジェクトはこのケースが多いように感じています。こちらは収益の機会損失を生み出しています。
プロジェクトガバナンスの健全化のためには、今一度、このような根本的なフレームワークを見直す必要があるのではないでしょうか?
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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