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第4話:プロジェクトマネジメントとプロジェクトマネジャーの混同(2009.11.10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロジェクトマネジャーの力量に問題がある?!

ある企業の事業部長が著者にこういいました。

プロジェクトがうまくいかないのはプロジェクトマネジャーの力量に問題があるからだ。

どう思いますか。「PMOは何をしているんだ」、「そんなプロジェクトマネジャーを選んだ組織にも問題がある」といった異論も出てきそうです。

◆ある課長の悲哀

ここで大きく脱線します。実話です。

ある通信メーカの法人営業課の課長は3年前に官公庁営業課の主任から法人営業課の課長にめでたく昇進しました。

ところが、課長になって1年もすると、優柔不断だという評価が定着してきました。実際に、重要案件で課長の決断が遅れて商機を逃すことも複数ありました。部下からも「官庁営業の感覚でやっていて、民間企業のスピードについて行っていない」と陰口をきかれ、信頼も薄らいできました。本人はパンク寸前でした。

その課長にいろいろと話を聞いてみると、どうも課長の決断が遅いのは、相談をした部長の指示が遅いことに原因があるようです。さらに部長にその話をぶつけると、部長が判断に迷うのは、実は経営陣の策定する戦略があまり現実的ではないことにあるというのです。そこで役員の一人と話をすると、戦略がそのようになってしまうのは、その部長を始めとする現場とのコミュニケーションの問題があるという認識でした。

しかし、表だっては誰もそんなことはいわず、「あの課長はだめだ。上司をうまく使えないし、部下からの信望もない」という評判だけが一人歩きしています。

これをどのように理解すればよいのでしょうか?おそらく最大の問題は部長にあると思われます。しかし、そのことよりもっと重要なことは、課長から役員までみんなでマネジメントを行っているということを認識していないことです。

この問題の一つの本質はこの点にあります。


◆マネジメントの問題とマネジャーの問題の混同

実はこの問題にはもう一つの本質があります。それは、マネジメントとマネジャーを混乱していることです。つまり、マネジメントという「システム」の問題であるのに、マネジャーという「人」の問題にしてしまっていることです。これは日本企業では昔からある風潮です。

日本人はシステム思考を嫌い、問題があるときはスケープゴートを作り、それで問題を済ませてしまう風潮があります。このケースでは、課長がスケープゴートになっているのは明らかです。スケープゴートを作ることの問題は、その問題の解決のレバレッジポイントはスケープゴートの力の及ぶところにないことです。

つまり、このケースでいくら、課長が頑張ってみても、問題を本質的に解消することはできないと思われます。


◆プロジェクトにおける問題

さて、プロジェクトに目を移すと、同じ問題が起こっています。まずは、プロジェクトマネジメントは、役員からプロジェクトマネジャーまで全員で力を合わせて行う仕事であることを認識していないことです。そして、冒頭の事業部長の発言のように、すべてを人の問題だとしてしまっているからです。

日本には、「最後は人だ」という言い方があります。みんながよく使うフレーズですが、大いに誤解されているフレーズでもあります。最後は人という意味は、ハードウェア、ソフトウェア、それでもだめなら最後はヒューマンウェアという意味です。最後は、担当者が頑張るという意味ではありません。スケープゴートを作るのは、「あるべき姿」としてこの発想があるからだといえます。

しかし、課長の例を考えればすぐわかるように、組織内で純粋な人の問題としてとらえてよいのは、役員だけです。もっといえば、CEOだけだといってもよいでしょう。あとは、マネジメントというシステムの問題であり、そのシステムに内在するソフトウェアやヒューマンウェアの問題なのです。

プロジェクトマネジメントでも全く同じことがいえます。たとえば、プロジェクトリソース配置の遅延によるスケジュール遅延の問題を考えてみて下さい。現象の発生場所はプロジェクトなので、プロジェクトで何とかしてくださいという問題ではありません。

(プロジェクト)マネジメントとして、複数のプロジェクトの進行管理をしながら、すべてのプロジェクトへの影響が最小になるようにリソースの配置を行うというマネジメント課題があります。さらに、プロジェクト側のマネジメント課題としては、「与えられたリソースから最大のパフォーマンスを引き出す」、「チームとして分担の組み替えなどを行い、チームのパフォーマンスを最大化する」といった課題があり、すべてが「統合」されたときに、初めてプロジェクトマネジメントが機能するわけです。プロジェクトマネジャーだけの責任であろうはずがありません。

◆「動かない」マネジャー

この話をいろいろな企業でしてきました。その反応を押し並べていえば、「まだまだ、プロジェクト「マネジャー」が不十分、まだ自分たちの出番ではない」という反応です。実際にそのような言い方をするわけではありませんが、そういう趣旨のことをいう人が多いのです。

ここにもう一つ、新たな問題が見えてきます。それは、プロジェクトの上位マネジャーは「動かない」という問題です。日本の組織には

 マネジャーは(プロジェクトマネジャーより)偉い
   →偉い人は失敗してはならない
     →自分では動かない

という不文律(ロジック)があります。マネジャーの80%はプレイングマネジャー(担当課長、担当部長)だといわれています。実は管理職においては、今でもこのロジックは必要なのですが、プレイングマネジャーの中にこの不文律に従う人が多いのが、一つ大きな問題になっています。

たとえば、複数のプロジェクトをプレイングマネジャーとして束ねている人がいるとします。この人は、プロジェクトマネジャーのときには、マネジャーの動きが悪いとさんざんいっていましたが、自身がプレイングマネジャーになってみるとプロジェクトマネジャーから頼まれても動かないというケースが珍しくないのです。この背景に上のロジックがあることは明らかです。


◆正解のない問題には優秀なマネジメントが必要

マネジャーになるまでの苦労を考えれば気持ちはわかります。ただ、これまでと違うところは、経営環境の変化の早さです。これまで「偉かった」理由は、いざとなれば経験によって部下が困っている問題を解決できたことに尽きます。ところが今は逆にむしろ、経験が足を引っ張るケースがあります。いわゆる「正解のない問題」への対処です。

正解のない問題には、優秀なリーダーやマネジャーが必要だと考えられていますが、半分は当たっていて、半分は当たっていません。当たっている部分はリーダーシップが不可欠ですので、その意味で優秀なマネジャーが必要です。しかし、それだけで問題が解決できるわけではなく、そのリーダーシップのもとに、スピードのある仮説検証サイクルが回ることが必要です。つまり、マネジメントが必要なのです。

プロジェクトというのはまさに正解のない問題です。というか、正解がないのでプロジェクトとしてやると考えた方がよいでしょう。その中では、プロジェクトマネジャーや上位マネジャーのリーダーシップのもとに、すべての関係者が、謙虚に、失敗を恐れず、マネジメントの中での自分の役割を果たす必要があります。

つまり、冒頭の事業部長は

プロジェクトがうまくいかないのはプロジェクトマネジメントに問題があるからだ。

というべきなのです。そして、自身がまず、動くべきだと言えます。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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