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第22回 プロジェクトというパラダイム(2009.05.18)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆パラダイムとはなにか

4月6日のメルマガの「感じるサプリ」で

私たちが何を知覚するかは、自分のパラダイムによって決定される

というジョエル・バーカーの言葉を紹介した。復習しておくと、ジョエル・バーカーによるとパラダイムとは(1)境界を明確にし、(2)成功するために、境界内でどう行動すればよいかをおしえてくれるものである。パラダイムの威力を示す例は、ジョエル・バーカーの本にいくつも取り上げられているが、わかりやすいのは、コンピュータの例だ。70年代まではコンピュータは、IBMを中心にハードウエアとソフトウエア(アプリケーション)を一体化したものを提供してきた。ところが、70年代の終盤に登場してきたアップルは諸般の事情によってハードウエアだけを提供し、ソフトウエアは外部のベンダーが提供できるようにし、また、ハードウエアそのものの拡張をユーザができるようにした。

IBMなどのコンピュータメーカはアップルを冷ややかな目で見ていたが、アップルのやり方が標準になるまでに10年もかかならなかった。コンピュータのパラダイムが変わった瞬間であった。

加えて言えば、このパラダイムの変化は、単にコンピュータの世界だけではなく、ソフトウエアとハードウエアの分離、ユーザによる商品のテーラリングという2大パラダイム変換をもたらした。


◆PMBOK(R)のパラダイム

さて、パラダイムの一般的な話はこれくらいにして、肝心のプロジェクトの話に入ろう。PMBOK(R)では、

(1)なんらかの新規性・未知がある
(2)決められた期間で成果物を生み出す
(3)すべてが決まってから始めるのではなく、走りながら決めて行く

という3つがプロジェクトのパラダイムの根幹にあり、このパラダイムを前提にして、プロジェクトをマネジメントするための方法を提案している。

おそらく、パラダイムの中核にあるのは、3番目の走りながら決めるというルールであり、このルールが必要な理由が(1)、(2)の前提であり、またこのルールを守るために必要なのが徹底的なドキュメント管理であり、また、リスク管理である。

これが常識的に考えられているプロジェクトというパラダイムであるが、このパラダイムはあくまでのオペレーションのマネジメントの手段として考えた場合に、プロジェクトとはこういうパラダイムになるということにほかならない。

オペレーションというのは、自発的に生起させるものではなく、発生するものであるという前提がある。わかりやすく言えば、与えられた仕事をどのようにこなすのかという議論に他ならない。

第20回の「プロジェクトの本質」という議論で、プロジェクトというのはそもそも、企業に競争力をもたらすものであるという議論をしたが、競争力という観点からすれば、オペレーションだけでは不十分である。

そうすると、

プロジェクトは発生するものである

という前提のパラダイムではプロジェクトには不十分であり、プロジェクトは生起させるものであるという前提の中でパラダイムを定義する必要が生じる。


◆プロジェクトは「創る」もの

そのような前提で何が変わるかというと、未知を作るというパラダイムである。これは、PMBOK(R)のパラダイムの(1)に変わるものである。

もっと単純にいえば、「与えられる」から、「創る」に発想を変えることである。これは、コペルニクス的転回といえるくらい、大きなパラダイム変換かもしれない。

プロジェクトが発生するもの、与えられるものである理由は、戦略(計画)の実行手段としてプロジェクトが位置づけられることによる。オペレーショナルなプロジェクトを創るということは、戦略目標をボトムアップで積み上げていくことに他ならない。

つまり、ピラミッド型の組織運営を逆ピラミッド型に変えるということである。ある意味で安直な考え方はサーバントリーダーシップのような考え方である。しかし、人間が構成するピラミッドであることを考えると、逆ピラミッドというのはトップから意識をすればできるほど単純なものではない。もちろん、トップのコミットメントは不可欠であるが、それ以上に重要なのが、ミドルマネジメントのミドルアップダウン
である。

続きは次回。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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