第12回 縦のコミュニケーションと横のコミュニケーション(2010.08.24)
◆ドラッカーのコミュニケーションの四原則
まず、ドラッカー。コミュニケーションについても多くの指摘をしているが、その一つにコミュニケーションの4原則というのがある。これが実に有用である。
原理1:聞くものがいなければコミュニケーションは成立しない
原理2:知覚を期待しているもののみを知覚する
原理3:受け手に対して何かを要求する
原理4:コミュニケーションと情報は別物である
◆コミュニケーション活動であるもの、ないもの
この記事では、特に原理3、原理4を満たす活動をコミュニケーションという。つまり、
コミュニケーションとは思想、意見、情報を伝達しあい、心を通じ合わせるプロセスを通じて、相互に影響を与え、要求に応える活動
であると定義しておく。この点を最初に明確にしておく。言いかえると、
必要な情報だけ集める(情報を共有する)
情報だけ集めて、何もフィードバックしない
情報だけ集めて、何もアクションを起こさない
という活動はコミュニケーションとは呼ばない。これが今回のポイントである。
さて、コミュニケーションをこのように考えたときに、PM1.0は、調整、すりあわせなどという言い方をし、横方向のコミュニケーションを重視してきた。つまり、チームの内部、他部門などである。SIプロジェクトの顧客もここに位置づけられる。
縦方向については、情報共有という名のもとに、一方的な情報配布が行われてきた。
少し、辛辣な書き方をしているのは、それなりの思いがあるからだ。
多くの企業では、エグゼクティブスポンサーに情報は集まるが、それによってエグゼクティブスポンサーが何か自発的な活動を起こすことはない。エグゼクティブスポンサーというと役員のことが多いので、多少このようなスタンスは理解できなくはないが、ひどい会社ではスポンサーすらそうだ。原因は当事者意識の不足であり、良きに計らえというエンパワーメント、「困ったらいつでも相談してくれ、そのために必要な情報は常時あげておいてくれ」というリーダーシップの賜である。
◆忖度経営とコミュニケーション
それでもプロジェクトは回るのだ。言い方はよくないかもしれないが、現場への忖度経営なのだ。これはくせ者で、結果オーライということでもある。うまくいけば、「よく意を汲んでくれた」。うまくいかなければ、「そんなことを思っていたわけではない」の世界である。実際に、高度成長期は現場忖度経営で済んできた。しかし、成長が停滞すると現場では方向性が見えなくなってきた。そこで、戦略が必要だと言われるようになった。
戦略は策定するが、忖度であることはあまり変わらない。スポンサーが情報だけ集めて何もしないのには、現場の問題もある。現場が昔ながらの体質で、経営の介入を歓迎しないのだ。モチベーションが下がることを恐れたスポンサーは「できることや困ったことがあったら相談して」という「支援」に徹する。
◆PM2.0はコミュニケーションを積極的に行う
PM2.0は、縦のコミュニケーションをプロアクティブに行うマネジメントである。
このことの重要性はいうまでもない。例えば、ある企業は商品開発プロジェクトの平均期間が5ヶ月弱である。新規ラインナップに限れば9ヶ月。ブルーオーシャンでも内限り、5ヶ月の間、プロジェクトの環境が変化しないというのはありえないだろう。
SIでいえば、顧客のビジネス環境が変わるということだ。
であれば、縦のコミュニケーションを丁寧に行い、常にプロジェクトの目標を調整していく必要がある。
もう少し、突っ込んでいえば、スタンスに関わる問題でもある。PM1.0は、プロジェクトの目標はスタティックなものであるという前提に立っていた。したがって、できるだけ速やかに目標を達成する方法を決定することが重要だった。PMBOKなどの基本的な価値感である「プロアクティブ」はこのような前提での話である。
あるいは、目標は変わってもプロジェクトの目的は変化しないと考えてきた。だからこそ、現場における横のコミュニケーションだけで十分だったともいえる。
◆目標を動かすためのコミュニケーション
PM2.0では、目標は「動かす」ものだと考える。つまり、目標を動かすことによって、目的を達成する。目的こそが最終のゴールである。このように考えた場合、プロアクティブが重要な価値であることは変わらなくても、意味が多少変わる。目標を積極的に変えていくという意味でプロアクティブであることが求められる。
PM1.0のプロアクティブとPM2.0のプロアクティブはこのように異なるものであっても、「目的」を積極的な姿勢で達成することを目指すという点においては一緒である。
プロアクティブであるためには、プロアクティブなコミュニケーションが重要である点も同じだ。違いはPM1.0では、横のコミュニケーションが重要だったのに対して、PM2.0では、縦のコミュニケーションが横のコミュニケーションに同様なことである。
縦のコミュニケーションとは戦略的コミュニケーションに他ならない。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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