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イノベーションのジレンマとは、既存企業が顧客の要望に沿うように製品の高機能化を進めていく中で、ローエンド市場に新規参入した企業に、市場を奪われるという現象である。顧客の要望に応えることが必要、高機能が高付加価値を生み出す、ハイエンドの製品を作っている方が企業としての格が高いとおもわれていたから発生した

第98回 アップルのイノベーションのジレンマ(2016.09.21)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆The Innovator's Dilemma

今回はイノベーションのジレンマの話をしたい。

ダイヤモンドハーバードビジネスレビューの2016年9月号でイノベーションのジレンマの特集を組んだ。

ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2016年9月号

イノベーションのジレンマが提唱されたのは20年前であるが、この20年間に間にもっとも影響を与えた経営理論だといえる。

理論を提供したのはハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授である。最初に書籍化されたのは、この本だ。

Clayton M. Christensen
The Innovator's Dilemma: When New Technologies CauseGreat Firms to Fail」、McGraw-Hill(1997)

(日本語版)
クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ 増補改訂版」、翔泳社(2001)


◆イノベーションのジレンマとは

簡単にいえば、イノベーションのジレンマは既存企業が顧客の要望に沿うように製品の高機能化を進めていく中で、ローエンド市場に新規参入した企業に、市場を奪われるという現象である。

上に紹介した本の中で、紹介されている事例として、ハードディスクにおけるイノベーションのジレンマがある。ハードディスクでは8インチから5.25インチ,そして3.5インチへの推移し、そのハードディスクを主に使うメインフレーム、ミニコンピュータ、パーソナルコンピュータの推移を関係付けてハードディスクメーカは対応した。

8インチから5.25インチに移るときに、5.25インチは価格が高く、密度も小さかったため、顧客は8インチでの高密度化を望み、5.25インチに移行することは望まなかった。

また市場的にも5.25インチは小さく、そこで大手のハードディスクメーカは顧客の要望に対応し、5.25インチに対応したのは数社だったが、やがて、コンピュータがメインフレームからミニコン(ワークステーション)に移行していく。これとともに、5.25インチが主流になり、8インチに注力していたほどんどハードディスクメーカは潰れた。

この現象をクリステンセン教授は、高機能化を進めて行く中で、ローエンドの市場に対応できず、市場を奪われたと分析し、イノベーションのジレンマと呼んだ。

この事例が非常にインパクトがあるものであり、非常に説得力を持って受け入れられた。


◆なぜ、イノベーションのジレンマが起こるのか

この話には、いくつかのポイントがある。

一つは顧客の要望に応えることが必要だと考えられていたこと。二つ目は高機能が高付加価値を生み出すと思われていた。三つめはハイエンドの製品を作っている方が企業としての格が高いと考えられていたことだ。

これらのポイントが相まって起こるのがイノベーションのジレンマである。


◆iPhoneはイノベーションのジレンマか

さて、イノベーションのジレンマの話が長くなったが、先日、アップルが新しいスマホ iPhone7 を発売した。日本では、ついにSuicaを搭載したことで話題になっている。この機種を見たときに、イノベーションのジレンマを思い浮かべた。

新しいことはほどんどなく、現行の製品をベースに高機能化に徹している。そして低価格化をしている。かつ、Suicaという従来は有りえなかった日本という有力顧客の要求に応えている。

どういうイノベーションの方向性があるかわからないし、単に、iPhone8 までのつなぎの機種かもしれないが、このままでいけばイノベーションのジレンマに陥っているのではないかと思う。

そうならないことを願う。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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