第55回 イノベーションにおけるマネジャーの役割(2014.10.01)
◆日常的光景
ある日、突然「何かイノベーションを起こしてくれ」と上司から言われた。実は前の経営会議で上司も役員から言われたことをそのままスルーしたのだ。
こういう状況で、うちの会社ではなかなかイノベーションが起こらないと嘆く管理職や、そんなことを言われても何をやっていいかわからないと思っている部下という光景をよく目にするようになってきた。やはり、イノベーションブームだろう。
さて、この光景の問題点はどこにあるのだろうか?上位者は部下や現場に問題があると考えるのが常なので、管理職は「部下の創造性に問題がある」と考える。部下は部下で、イノベーションはトップのコミットがなくては起こらないと熱く主張する。どちらの言い分が正しいのだろうか?
◆自由にやらせればイノベーションが起こるという思い込み
どちからの方を持つつもりはないが、公平な立場で一つ疑問に思うのは、「うちでも何かイノベーションをやってくれ」といって、本当にイノベーションが起こるのか?ということだ。この背景には、自由にやらせる方がいい成果が得られるという思い込みがあるが、イノベーションより日常業務だという価値観がある。
社長が「うちもそろそろ新しい機軸が欲しいね」というのは分かる。社長があまり細かくいうと、まったく自由度がなくなり、現場が余計な苦労をする。
問題はこれが、担当役員、事業部長から、マネジャーへの伝言ゲームになり、管理職は誰に担当させようということしか考えないことだ。
そして、決まれば、担当者に「君は明日から業務時間の半分は新しいことを考えることに使ってくれ。今やっている業務の調整はこちらでするから、希望を出してくれ」という通達が行く。
こうしてイノベーションは個人が行う仕事になり、失敗すればその人に創造性がないのだという話になる。まあ、これでも従事時間を認めてくれれば、ましな方だろう。
これではほとんどの場合は何も起こらない。そもそも、こんな状況で新しいことを考え、めどがついても事業化されることは奇跡に近いだろう。百歩譲って、一発当たることはあっても、継続的にイノベーションが生まれることはない。
◆イノベーションという課題をどう与えるべきか
どこに問題があるかというと課題の与え方である。
イノベーションが起こること自体は偶発性があるかもしれないが、イノベーションを起こしたい動機には戦略上の必然性がある。ここでいう戦略とは事業戦略で、事業上の必然性があるといってもいい。詳しくは、第16話を読んでほしい。
【イノベーション戦略ノート:016】戦略とイノベーションは同義である
つまり、イノベーションの課題は戦略上の必然性を踏まえて、方向性とともに与えられなくてはイノベーションは起こせない。
たとえば、「大人から子供まで1人1台のパソコン普及による新市場の開発」という戦略を掲げていたとしよう。この戦略に基づき、イノベーションを起こしたければ、たとえば、「常時持ち歩けるパソコンの開発」という方向性を添えて、新しいコンセプトを考えてくれという課題を出す。すると常に持ち歩いているものとパソコンの融合というアイデアから、携帯電話とパソコンを融合するというアイデアにたどり着くのはそんなに難しくない。こうしてスマートフォンが生まれるわけだ。
◆イノベーションにおいて重要なのはマネジャーの役割
実はこの中で一番、創造性が必要なのは、「大人から子供まで1人1台のパソコン普及による新市場の開発」という戦略を「常時持ち歩けるパソコンの開発」と展開する部分である。ここで、「一部屋に一台のパソコンを」とやってしまうと、そこで終わってしまうわけだ。
イノベーションが生まれないのは、この部分がうまく設定できないことが原因であることが多い。これを自由にやらせたいという理由でイノベーションを実行する人(イノベーター)に期待するのは酷であるし、非現実的でもある。イノベーターの立場からすると、何かいいアイデアを考えたときに、どう展開できるのかわからなければ一生懸命考えようとは思わないだろう。展開のよりどころは、戦略実行以外にはない。
つまり、イノベーションは戦略として取り組まれ、戦略イニシアチブとなる。そしてそのキーマンになるのは、イノベーターではなく、上位管理者であるマネジャーである。このことを忘れてはならない。
◆マネジャーの役割について知りたい方へ
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>著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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