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イノベーションには「立ち止まる」ことが必要だが、立ち止まれば確実にパフォーマンスが落ち、成果が下がる。立ち止まって新しい方向を目指してみても成果が上がるとは限らず、そのうリスクを取れるかどうかである

第51回 イノベーションには「立ち止まる」ことが必要(2014.09.03)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆イノベーションには「立ち止まる」ことが必要

先日、ケヴィン・キャッシュマンの「優れたリーダーは、なぜ「立ち止まる」のか」(英治出版、2014)という本を読んでいて、その通りだなと思ったことがある。それは

心と体に睡眠が必要であるように、リーダーシップとイノベーションには「立ち止まる」ことが必要である。

具体的に「立ち止まる」ことが何を意味しているのかは本を読んでもらうとして、少し、これに関連して常日頃感じていることを書いて見たい。


◆イノベーションを考えている余裕がない

イノベーションに関して多くの人から悩みとして

イノベーションを考えている余裕がない

ということをよく耳にする。

第44回で書いた、ワクワクしないというのもある意味ではこのためである。イノベーションを考えろと言われると、仕事が一つ増えたとしか思えない。おまけに、それは経営層からの要望であり、業務的なプライオリティは低い。これを解消しようと思えば、第40回で述べたようにフレーミングを変えなくてはならない。

【イノベーション戦略ノート:044】なぜ、イノベーションはワクワクしないのか

【イノベーション戦略ノート:040】イノベーションを推進するフレーミング


◆なぜ、余裕がないのか

問題はなぜ余裕がないかである。この答えは明白で、日常業務が忙しいからに尽きるようでいて、実は結構、複雑な問題である。

多くの組織は「結果」を求めている。それは間違いではない。ところが、価値という点から考えると、同じ成果に対する価値は時間とともにどんどん下がる。

製品でも同じ製品を売り続ければ価値は下がる。もちろん、機能的な価値が下がるわけではないが、顧客の感じる価値は下がる。

同じ成果に対する価値が下がれば、より多くの成果を上げないと同じ結果は得られない。そうすると一つの成果を上げるためにかけることのできる時間は減るし、減らしたくなければ残業を増やすといったことをやっている。

たとえば、出版業界を考えてみると分かりやすい。出版不況が言われて久しいが、書籍の売り上げは減っているが、出版点数は増えている。編集者によっては月1冊といったペースで本づくりをしている。当然1冊の本にかけることができる時間は少なくなり、目新しさやクオリティを欠いた本をたくさん作ることになる。

当然、そんな本は売れないので、結果(売上)に結びつかない。すると、結果を出すためにはもっとたくさんの本を作らなくてはならない羽目になるという悪循環に陥ることになる。いわゆる、アクティブ・ノンアクションである。

メーカーで製品を作っていても似たようなものだ。これを持って、忙しくて、新しいことなんか考えられないといっているわけだ。


◆悪循環を止めるには立ち止まるしかないが、、、

これを抜け出すにはどうすればよいか。一度、立ち止まることだ。

ただし、立ち止まることには2つのリスクがある。一つは、効率重視で動いていれば、立ち止まれば確実にパフォーマンスが落ちる。たとえば、年間10冊の本を作るところを、立ち止まって年間5冊にすれば成果は半分になる。

ただし、5冊という半分の成果で10冊と同じだけの結果を出せばよいが、そこに2つ目のリスクがある。立ち止まって新しい方向を目指してみても、それが確実にヒットするという保証はないことだ。新しいことをするリスクである。


◆リスクを取る

つまり、リスクを取らなければ、悪循環から逃れられないわけだが、目の前のパフォーマンスに拘り、リスクを取ろうとしない。これが、イノベーションをできなくしている構造である。

言い換えるとイノベーションができないという問題の本質はパフォーマンスを落とすというリスクを取らないという問題に他ならないと言えよう。


【参考文献】
ケヴィン・キャッシュマン「優れたリーダーは、なぜ「立ち止まる」のか」、英治出版、2014

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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