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行動観察では、ユーザの行動を観察しながら観察事実を蓄積・分析し、ウォンツを洞察する。洞察では、ウォンツに対する仮説を立て、その仮説を検証するためにさらに観察を続け、ウォンツと事実を行き来し、ウォンツを分析し、ニーズとソリューションを探し、イノベーションを起こしていく

第50回 ニーズとウォンツ(2014.08.27)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆ニーズに聞いても分からない

ニーズをウォンツは違うという話は30年前からある話だが、ここにきてまた、話題になることが多くなった。それは、デザインや行動観察に関心が高まってきたためだ。

昔からある話は、ニーズは顧客やユーザに尋ねるものではない。開発者が考えるものだ。という話。考える方法の一つに市場調査があった。市場調査をして、その結果からニーズを分析する。

ところが、特定の状況を除いて市場調査には極めて高い想像力が必要である。特定の状況と書いたのは、後追いをする状況である。後追いをする分には、先行の商品の機能やせいぜい改善的プラスアルファを調査範囲にしておけばよい。

ところがトップを走りだすとそうはいかない。ゼロから新しいものを考えることになる。すると、市場の調査の範囲も想像(創造?)しなくてはならなくなる。日本の多くの企業はまず、ここで躓いたように思う。

そこで、始めたのが顧客の声を聞くという話。市場ではなく、個々の顧客をインタビューなどで聞くようになった。

ここで問題になるのが何を聞くかである。ニーズを聞いても答えは返ってこない。たとえば、顧客にどんなクルマが欲しいですかと答えは返ってこない。当然のことだ。


◆ウォンツも顧客に聞いても分からない

そこで、ウォンツということになる。ウォンツは何が欲しいかとか、どういう機能が欲しいかと訊いても返ってこない。これはニーズだからだ。ウォンツを聞くには、「その商品を使って何をしたいか」を聞き出す必要がある。

ところが、この問いは簡単なようで難しい。何をしたいかを考えるためには、ある程度、その商品がどのようなものかを知っている必要がある。たとえば、海水浴場で何をしたいかと聞いても、音楽を聴くと答える人もいれば、酒を飲むと答える人もいる。これでは意味のある情報は得られない。

そこで、たとえば、海水浴場で情報機器で何をしたいですかといった質問になる。そうすると、情報機器で何ができるか分からないという話になってしまう。

ジョブズの名文句「ユーザは自分が何を欲しいか知らない」というのはこのあたりの状況から出ているのではないかと思う。


◆行動観察という救世主

そこで、注目されたのがデザイン思考と行動観察である。行動観察の原点は「エスノグラフィー」、つまり参加観察であるが、デザイン思考の中では観察の方に重点が置かれている。

行動観察では、ユーザの行動を観察しながら観察事実を蓄積する。そして、事実を分析し、ウォンツを洞察する。さらにウォンツを分析し、ニーズとソリューションを探す。こういう流れでイノベーションを起こしていく。

鍵を握るのは実際に観察した行動からウォンツを洞察するところと、ウォンツからニーズを探すところだ。


◆行動観察の難しさ

洞察には、ウォンツと事実の行き来が必要だ。行動を観察し、その行動の本質を考え、ウォンツに対する仮説を立て、その仮説を検証するためにさらに観察を続けていく。極めてダイナミックな思考である。

ウォンツを分析し、ニーズを抽出する際に重要になるのが、統合である。ウォンツに何らかの優先順位をつけて切り捨てていくのは簡単だが、それは観察をしている価値はない。また、もっと難しいのはウォンツが対立するようなケースもある。

たとえば、携帯型のオーディオではプレイリストの機能は不可欠だと考えるユーザと、面倒だと考えるユーザがいる。そこで、どちらかを捨てるのではなく、それぞれについて要求の本質は何かと考えたときに、飽きないように適度にランダムに音楽を聴きたいとニーズがあることに気がついて、アップルはシャッフルをコンセプトにしたiPodを作った。

このようにウォンツ、さらには行動の本質は何かと考え、ニーズを本質に統合していく。こういった思考が求められる。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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