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一つ一つを成功させようとするとリスクが取れなくなり、売れる商品は作れなくなる。失敗があることも折り込んだ計画を作り、その計画を実行していくことによって、結果として事業になればよい

第7回 イノベーションは管理できる(2013.05.24)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆イノベーションに取り組めない理由

このメルマガでは、前提としてイノベーションは組織が取り組むものだと考えている。しかし、現実にはそうではない。人材投資のところで触れたように、イノベーションのための人材を育てるという発想もなければ、イノベーションのマネジメントのための組織プロセスを構築するという発想もない。

イノベーションは「志ある社員」が会社のために頑張ってくれた結果であると考えている経営陣が圧倒的に多い。従って、今年度はイノベーションに取り組もうと言えば経営陣の役割は終わりで、後はマネジャーに任せる。マネジャーもその辺の体温はよく分かっているので、スルーパスして、結果として忙しいので新しいことを考えている余裕はなかったということになる。

一方で、成長戦略をとっている企業では、イノベーションは不可欠である。何度も繰り返しているように、売り上げを上げるには3つの方法しかない。

(1)既存の商品を改良したり、営業を強化する
(2)新しい商品を作る
(3)M&A

現金なもので少し景気が上向いてくると、(1)で成長を目論む企業が増えるが、市場そのものの成長が止まっている成熟した市場では(1)は(2)よりはるかに難しい。なので、結局、イノベーションに取り組むしかない。改めて自分たちの活動を振り返ってみてほしいのだが、実は忙しいというのは(1)で忙しい。市場が成熟していると成果が出にくくなるので、余計に忙しくなる。


◆出版産業の例

一つ例を挙げると、超・成熟産業の出版である。バブルがはじけた頃には年間の新刊点数は4万点程度だった。ところが、今では倍近くなっている。インターネットで誰でも情報発信できるようになったので、素晴らしい作家がたくさん発掘出来てこの数字になったわけではない。本が売れないので、売り上げを維持するために出版点数を増やしている。売り上げが増えていないので、出版社は社員を増やすわけにはいかない。出版点数が倍になったら、一人の編集者の仕事は倍になる。おまけに、売れない分、販促活動が重視され、編集者も従来にもまして販促活動に時間を割く。それでいいものができるはずがない。

本来すべきことは、出版点数を増やすことではなく、斬新な企画で売れる本を作ることである。本はいい本を作れば売れるとは限らないと編集者は必ずいうが、そんなことは当たり前だ。本が難しいのは、しょうもない本が爆発的に売れることがあるからだが、その点を除くとヒット商品を作る必要条件はいいものを作ることだ。

どの業界でも多かれ少なかれ、同じようなことが起こっている。ジリ貧になることが分かっていても、失敗するかもしれない新しいことに手をつけれない。そのときの経営者にとっては売り上げの維持の方が重要な課題だからだ。だから、出版と同じように、ヒット商品を作ってくれる社員が出てくるのを待つしかない。

組織としてイノベーションに取り組めない理由である。


◆イノベーションに関する誤解

しかし、このロジックには大きな誤解がある。最大の誤解は、イノベーションは失敗する可能性が高く、当面の売り上げに貢献しないという誤解である。その背景にあるのは、イノベーションは管理できない。言い換えると、開発テーマを認めてしまえば、後は成果が出てくるまで担当者に任せるしかないというさらなる誤解がある。それが、担当者のモチベーションを上げ、よい成果を得るための方法だと考えている節もある。
そうではない。イノベーションは管理できるし、管理しなくてはならない。イノベーションを管理するというのを情報システム開発のようなプロジェクトを管理することと同じだと捉えていることがそもそも、誤解のはじまりである。

イノベーションで管理しなくてはならないのは、個々のプロジェクトの成果ではない。個々のプロジェクトを見れば、成功率はせいぜい、数十%で、失敗の方が多い。これは仕方ないことだ。問題はある目的のイノベーション全体で投資に対して十分な成果を手にすることだ。


◆イノベーション管理の例

たとえば、新しい分野へ進出し、3年後に50億の事業を作ることが目的だとする。その事業のために商品をいくつも開発する。このときイノベーションとしてやるべきことは、一つ一つの商品を成功させることではなく、全体で50億の売り上げを作ることだ。極論すれば、一つの商品が当たって50億の事業になったでも成功である。

一つ一つを成功させようとするとリスクが取れなくなり、売れる商品は作れなくなる。失敗を折り込んだ計画を作り、その計画を実行していくことによって、結果として50億になればよいのだ。

このような組織プロセスを作ることが、組織としてイノベーションに取り組むことである。個人のひらめきやアイデアは大切であるが、組織としてはそれを実現する環境を作っていくことが重要なのだ。その際に重要なことは、個人の想いに引っ張られないことだ。個人のアイデアを大切にすることと、それを成功するまでやらせることは違う。実際にアイデアを実現するプロジェクトをやらせることでアイデアを大切にする。しかし、うまく行かなければすぐに中止し、新しいチャレンジさせる。そして、全体の期待値を常に目標レベルに維持する。

ここがイノベーションを管理する活動「イノベーションマネジメント」のポイントである。

◆社会的な影響がなければイノベーションではない

もう一つ理解しておく必要があるのは、イノベーションとは何かという話だ。改善とイノベーションはどう違うのかといった学者が興味を持つような話をしたいわけではない。イノベーションというのは、社会的な影響を与えることだ。ゆえに、画期的な商品やサービスを開発しても、売れなければイノベーションは起こらない。ちょっとした改良でもそれが売れ、売れることによって競合が追従すれば立派なイノベーションである。

冒頭に述べた既存商品の改良というのは、新規性の大きさではなく、影響度が小さいものである。たとえば、新しい技術を開発し、それを既存商品に適用することによって新しい機能が生まれ、消費者に受け入れられた。これはイノベーションである。しかし、その技術を既存商品に適用し、コスト削減をし、利益を大きくできた。これは改善にすぎない。

つまり、イノベーションを起こすことの必要条件の一つは売れることだという当たり前のことを理解しておく必要がある。イノベーションマネジメントのもう一つのポイントはここである。

ということで、ほぼ1年に亘ってイノベーションマネジメントの入門編

イノベーションを生み出すマネジメント

を連載してきた。
来月くらいから、イノベーションマネジメントの基礎編をお送りする。

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 2.コンセプチュアルなマネジメントのポイント
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  2.2 コンセプチュアルな組織活動のプラニング
  2.3 ステークホルダーへのコンセプチュアルな対応
  2.4 コンセプチュアルな人材育成
  2.5 コンセプチュアルな組織文化の構築
 3.コンセプチュアルなマネジメントの目標
 4.コンセプチュアルマネジメントでコンセプチュアルな組織を創る仕組みワークショップ
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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