第8回 イノベーションにチームが必要な2つの理由(2013.05.28)
◆イノベーションに必要なもの
イノベーションにはいろいろなものが必要だ。ひらめきも必要なら、前回述べた管理も必要だ。セレンディピティのような偶然性も必要かもしれないし、それこそ、運も必要だろう。
話は脱線するが、イノベーションのためには失敗も必要だ。失敗が必要だと言うことを気楽に考えすぎている人がいる。特に、いま、失敗することが許されない仕事をしている人はことさら、失敗の必要性を説くが、失敗することはそんなに生易しいことではない。失敗すれば落ち込むし、モチベーションを維持することはたいへんだ。第4回でレジリエンスの話をしたが、レジリエンスは不可欠だ。
失敗しようと思えば、リスクをとる必要がある。これもイノベーションには不可欠な要素である。
◆グループとチーム
というようにいろいろと必要なものはあるのだが、一つ選ぶとすれば、「チーム」だと思う。そのまえに、概念を明確にしておく。チームと似て非なる概念にグループがある。グループは同じような人の集まりで、チームはいろいろな人の集まりである。
両者の違いを指摘したのは、チームマネジメントのグルであるジョン・カッツェンバックである。これについてはPM養成マガジンの戦略ノートに書いた記事があるので、参照してほしい。
【戦略ノート296】日本人は真のチームを作れない
◆日本人はグループを作りたがる
日本人は人を集めるときに、グループを作りたがる傾向がある。たとえば、方法が具体的に決まっていないプロジェクトであれば、専門性やスキルの同じ人を集めたがる。普通に考えれば、方法が決まっていないのだから専門性を多様にした方がいいに決まっているが、なかなかそうは考えない。決まっていないからこそ、同質性の高いメンバーでやった方がなんとかなると考えてしまう。
エンジニアリングプロジェクトのように、必要な専門性が決まっている場合には、過去に一緒に仕事をした経験のある人を好んで集める。専門性が決まっている場合にも、多様性というのは重要だ。たとえば、コミュニケーションの潤滑油になる人、顧客と話をするのがうまい人、観察力に飛んだ人、ムードメーカー、などいろいろな多様性があるが、そんなことは考えない。自分と似た人が好きな人が多いのだ。
日本でなかなかイノベーションができないのは、このような人の集まり方に原因があるような気がして仕方ない。同じ場所にいながらあまり干渉しないグループの方が心地よいのではないだろうか?
◆グループは深掘り、チームは組み合わせ
グループは改善のような深掘りをしていく仕事には向いている。同質性があることで、どんどん話が深まっていく。その意味で、ある種の技術イノベーションにはグループが向いている。事実、これまでそうやって技術開発をしてきた。
ところが、組み合わせをしていくイノベーションには多様性が必要である。専門性の境界を乗り越えたアイデアを組み合わせていくには、いろいろなアイデアを持つ人が、有機的に結合されることは必要だ。つまり、チームだ。
チームでなくてはイノベーションができないと思われる理由は、世の中のシステム化にある。イノベーションの対象は単体ではなく、システムになってきた。これはいろいろなレベルで起こっている。
たとえば、イノベーションのお手本のように扱われているiPhone。大きな要素としては、デザイン、ハード、ソフトとあるが、筐体、ハード、ソフトと別々に作って、一つの商品として収まるように摺り合わせをするような作り方では到底実現できない。たとえば、デザインとハードには密接な関係があるし、デザインとUIにも密接な関係がある。どういうデザインならどういうハード、どういうUIなどどういうデザインとハードといった組み合わせをしていくわけだ。これらの関係を作りこんでいかなくてはiPhoneはできない。これがシステムのイノベーションである。
また、最近、イノベーションとして注目されているのがエコシステムのイノベーションである。たとえば、ミシュランのPAXシステムというフラットタイヤ(パンクしないタイヤ)のイノベーションがあった。タイヤが変わることによって、クルマも変わるし、修理方法も変わる。
このイノベーションは結果的に失敗するのだが、チームの中に自動車メーカはいたが、修理工場の人がいなかった。開発の結果できたタイヤは修理の方法を大きく変えるものであり、修理工場がついていけなく、それがイノベーションの失敗の原因になった。エコシステムに影響のあるイノベーションでは、多くの視点が必要になる。これもシステムのイノベーションの一例である。
◆リスクに対処できてのチーム
> もう一つイノベーションにチームが必要な理由がある。それは、リスクへの対応である。言うまでもなくイノベーションにはたいへんなリスクがついて回る。3本の矢ではないが、グループは1本1本がバラバラであるので、弱い。すぐに折れてしまう。リスクに耐えるだけのチカラはない。
チームはそれぞれが相互に絡み合うので、リスクに強い。何か問題が発生しても、別の視点から問題解決のアイデアを出し、耐えることができる。イノベーション成功の確率を上げる上で、この違いは大きい。特に、ソフトウエア担当に頭の柔らかい人材を巻き込むとよい。
これは実務的な側面に限らない。真面目が取り柄のおとなしいエンジニアの集団の中に怖いもの知らずの学生インターンが入った商品開発のプロジェクトをやったことがある。彼は、言われた仕事(雑務)をやる傍ら、チームの雰囲気を盛り上げるように努力していた。
営業部門からの要求変更によりプロジェクトのスケジュールがピンチになったときに、みんな落ち込んで気力をなくしかけていたが、彼が学生との宴会をセットして見事にプロジェクトメンバーの気力は復活した。経験がないことも一つの多様性で、これが多様性のパワーである。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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