今回は、5番目のポイントである
(5)トラブル発生時の厳しい制約の中で、創造性に富んだリカバリーのアイデアを出す
について考えてみる。
本誌の有料版のPM養成マガジンプロフェッショナルで、2005年の秋からPMサプリというシリーズをはじめて、もう10年になる。このシリーズはPM力強化につながる読むサプリをコンセプトにこれまでに400話強を書いてきたが、その中で出てくる単語ベスト5の中に、プロジェクトとか、マネジメントとかと並んで出てくるのが「制約」という言葉である。
プロジェクトマネジメントのトライアングルが示すように、プロジェクトマネジメントはプロジェクトの制約を守りながらプロジェクトの成果を最大化するための活動である。
初期の計画においては、制約と目標を整合させ、目標を達成するための計画を作るので制約が問題になることはあまりない。
しかし、計画が変わっていく中で、制約の中に目標が入らなくなることがある。いわゆるトラブルである。たとえば、スコープが変わってしまい、残された期間と予算の範囲では実現が難しいといったケースだ。
もちろん、より大局的な判断として納期を延ばすとか、予算を増やすといった制約を緩めるケースもあるが、競争やROI、収益に大きな影響を与えるため難しいケースが少なくない。
このような場合、制約の範囲で収めなくてはならないことが多いが、そのままでは当然できず、何らかの工夫が必要になる。現実問題として工夫はスコープを変更することに向けられることが多いが、これに関してはコロンビア大学のジェイコブ・ゴールデンバーグ教授らが提唱する制約の中から答えを見つける方法論に「インサイドボックス」というのがある。この手法ではテクニックとして
(1)引き算
製品やサービスに欠かせないとみなされていた要素を取り除く
(2)分割
既存の構成要素を分割し、一部を分離して用いる
(3)掛け算
製品やサービスの一部の要素をコピーして増量し、その際にそれまで無意味だと思われていたような変更を加える
(4)一石二鳥
製品やサービスの一つの要素に、複数の機能を持たせる
(5)関数
それまで無関係だと思われていた複数の機能を連動させる
の5つを紹介している。
インサイドボックスはもともと制約下におけるイノベーションの方法論の一つとしてまとめられたものであり、プロジェクトのトラブルのような事態でそのまま使えるものではないが、スコープを削って、目的を達成することもできる。たとえば、引き算で有名なのはウォークマンである。ウォークマンは飛行機の中で楽しめるポータブルオーディオという目的に対して、スピーカと録音機能という2つのスコープを除いて実現した。
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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