今回は、4番目のポイントである
(4)プロマネやエンジニアとしての過去の経験を活かす
について、振返りや、応用力など、いくつかの観点から考えてみたいと思う。
まずは、振返りと学習という観点から考えてみたい。
よく経験から学ぶというが、本当に経験から学べるのだろうか。
たとえば、2000年のIPMAのカンファレンスの論文で教訓がどの程度活用されているかを大規模な調査で調べた論文があるが、これによると
・教訓を誰かに伝える 50%
・教訓を活用する 25%
とある。つまり、教訓を実際に使っているプロジェクトは4つに1つに過ぎないというのだ。なぜか。
一つの原因は経験を情報としてそのまま取り扱っていることにあるように思う。つまり、必要なのは経験から学ぶことではなく、
経験を振り返ることで学ぶ
のだ。学ぶ鍵は振返りにある。プロジェクトマネジメントに関する学びも例外ではなく、そこにある。
では、振返りとは何か。
振返りとは経験した現象を分析、考察し、他の状況でも活用できる一般的な知見を得ることである。経験したことを列挙する(データ化する)ことではないので、注意しておいてほしい。
たとえば、こんな事例を考えてみよう。
ソフトウエア開発プロジェクトXで仕様追加が続発し、コストが厳しくなった。このため、外注の一部を当初予定していたベンダーAから、単価の安いベンダーBに切り替えた。その結果、品質の問題が生じ、結果的にスケジュールが遅れてしまった。
この経験を振り返るというのはどういうことだろうか。
・追加仕様が発生し、コストが厳しくなった
・ベンダーB社は単価は安いが品質に問題がある
・品質問題があるとスケジュールが遅れる
といったことを経験したことになる。ここで注意しなくてはならないことは、これらの問題は、あくまでもプロジェクトXで起こったことである。
そこでその点も含めて経験したことを分析し、みたところ以下のようなことが分かった。
仕様追加の原因は要件定義のスケジュール遅れによる見切り発車をしたことにある。要件定義の担当者Mは顧客側の担当者Nの様子から要件の取りまとめが不十分だと感じていた。しかし、納期を考えるとこれ以上要件定義を引き延ばすことはできないということで、プロジェクトマネジャーは一旦フィックスし、設計に入った。
設計の段階ではベンダーの変更は考えておらず、発注時点で多少の遅れはあったが、ベンダーAであれば対応してくれると考えていた。しかし、追加仕様が増えるにしたがって、手戻りも増え、収拾がつかなくなって、プロジェクトは赤字見通しになった。
その結果、最初に示したようなことが起こったわけだが、これから事象の関連付けをしながらいろいろなことが推測できる。たとえば
・要件確定を見切ると仕様追加が起こる
・仕様追加があると手戻りが発生し、品質問題が起こる
・単価の安いベンダーに発注しても必ずしもコストが安くなるとは限らない
・単価の安いベンダーは品質が悪い
・要件定義の担当者の判断は正しかった
といったことだ。
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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