第5話:T型人材とΠ型人材のコアスキル(2013.11.04)
◆T型人材ではなく、Π型人材になれという教え
大学の同級生や新卒で就職した企業の同期がそろそろ、役職定年になっている。会うとまだあと10年と言う話しと同時に、やはり、人生を振り返って的な話になる。先日もあるIT企業で役員まで務めた友人Aと人生振返って的な話をしていた。そのときに、面白い議論になった。
大学(工学部システム工学科)を卒業するときに2つのことを言われた。ひとつは農耕民族ではなく、騎馬民族になれということ。もう一つは、T型人材ではなく、二つ以上の専門性を持つΠ型人材になれということだ。
面白い話しとは、後者に関わる話。それを紹介する前に、まずT型人材について少し論じておきたい。
システムエンジニアはT型の人材でなくてはならないというのはよく言われる。ひとつの柱になる専門の深いスキルと、複数の分野にまたがる浅く広い知識である。専門分野というのはどのようなものでもよい。たとえば、著者が卒業した大学だと、機械工学、流体工学、メカトロニクス、制御工学、情報工学、経営工学などの専門の先生がいた。これはいずれもシステムエンジニアとして柱になるスキルだ。
もちろん、工学である必要はない。これまで知り合った有能なシステムエンジニアで、文系の人は少なくないし、一番変わり種で司法試験を通っていてシステムエンジニアをやっているという人もいる。
◆T型人材になるために必要なスキル
では、T型になるには何が必要かということを考えておきたい。T型人材になろうとすると、いろいろなことを勉強して必要な分野の知識を身につけることが必要だと考えている人が多い。
分かりやすい例は、ITのアプリケーションの構築をしている人は、情報技術が柱で、構築する分野の浅いスキル(いわゆる業務知識)が必要になる。そこで、その分野の勉強をする。こうしてキャリアとともに広い範囲の知識を身につけていく。
ところが、それではTにはならない。横軸が点の並びだからだ。横軸を線にするにはどうすればよいか。
もうお分かりだと思うが、アナロジーを中心にした抽象化スキルが点を線にする。抽象化スキルがあれば、自分の専門分野とのアナロジーで適切に他の分野の把握をできる。
具体的に何ができればよいかというと、アナロジーで考えることができるところと、アナロジーは通用しないところの見極めである。この見極めができるということは、その分野について細かなところは分からないまでも、大局的な見極めができるということに他ならない。
よくプロジェクトマネジャーで分からないところは人脈を使って専門家を巻き込むという人がいるが、これがうまくいくのは大局が見えている場合の話で、専門家に丸投げしようとすると大抵失敗する。
要するにT型人材とは、横軸をしっかりと作り、そこにその分野の専門家を巻きこみ、プロジェクトが作れるスキルを持つ人のことだ。言い換えると、コンセプチュアルスキルの基本である、抽象化スキルとアナロジーである。
◆今の時代はΠ型スキルが必要
さて、問題はΠ型人材だ。Π型人材はいうまでもなくT型の縦軸、すなわち専門分野を一つ増やしたイメージだ。では、2つの専門を持つエンジニアはΠ型かだと言えるのか。Tと同じように、2つの専門を持っただけではΠ型とは言えない。
Aがいうには、今の時代はITベンダーは顧客から提案をすることを求められる。すると浅い業務知識では人を巻き込んで問題解決はできても、提案には対応できないという。彼がいうのは、コラボレーションの場を作っても提案は難しいだろうという。だから、Π型なのだと。
これはなかなか興味深い指摘である(というかわが意を得たり)。専門分野が一つと二つに本質的な違いを感じているようだ。それについて少し議論をしたが、単に業務分野に詳しいITエンジニアであれば良い提案ができるとは考えていないようで、その場では答えがでなかった。以下は、あとで考えたこと。
◆2つの専門分野を持つ意味はサイロを突き破るスキルを持つこと
問題は自身が2つの専門分野を持つ意味である。その理由は、深いレベルの多様性の実現にあるのではないかと思う。
T型というのは悪くいえば、サイロ型(縦割り)の組織構造を前提にしている。プロジェクトはこの問題に悩むケースが多いが、サイロ型の構造があるとどうしても全体の統合がうまくできないことが多い。
サイロを突き破る方法がないのだ(もちろん、チームマネジメントとしてそれを実現しようとする試みがあるのは知っているが、必ずしもうまく行っていないと思う)。
複数の分野の専門家を集めれば形の上では多様化されるが、結局、統合できないままで、軸となる考えにいくつかの別の視点を加えて進んでいくことが多い。その意味でAの言っていることは正しいように思う。情報技術と深いレベルでの業務スキルがなければ統合はできない。
◆統合するには洞察力が必要
分野は違うがAから聞いた話をそのまま書くわけには行かないので、例としてスマートフォンを考えてみると、アップルの作ったスマートフォンはITCの技術とデザインを統合することで新しいコンセプトを作った。ところが、日本のスマートフォンはITCの技術にいくつかの技術をくっつけているだけである。製品として統合されていない。
統合をどのようにして行うかと考えたときに、誰か洞察し、構想をする人が必要である。ここまでできればあとはコラボレーションの場を設定すればなんとかなるが、この部分だけはどうしようもない。アップルのスマートフォンでいえば、ジョブズである。
この統合するスキルというか、コンピテンシーこそがΠ型人材の本質であり、コンセプチュアルスキルである。そして、それは複数の専門を究めないと本質的に身につかないことだと思う。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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