第4話:コンフリクトを統合する(2013.10.26)
◆コンフリクトにどう対処するか
世の中は矛盾(コンフリクト)に満ちています。あなたのお客様も決して例外ではありません。時として、矛盾に満ち溢れたことを言ってきます。
たとえば、あなたの会社は顧客から技術力を買われて長く取引をしています。新しい技術の導入には理解を示し、多少割高になってもあなたの会社から新しい技術を導入した製品を購入してきました。そして、この顧客の存在はあなたの会社が業界で技術リーダーの立場を占めるのに存在してきました。
ところが最近役員が代わり、新しい役員は、コスト削減に強い関心を示す人でした。
ここで2つの考え方が生まれてきました。
ひとつは従来の顧客はあなたの会社の技術力を評価してくれているので、あなたの会社が技術革新を続けていけば、顧客との取引は長く続けることができるだろう。そして技術革新をすることは他の顧客への競争力にもなる。よって、技術革新こそ追求すべき目標だという考え方です。
もうひとつはここにきて出てきた考え方で、顧客はコスト削減を気にしているので、今の価格では顧客を失うことになる。この顧客だけはなく、多くの顧客がコスト削減を重視しているので、多くの顧客を失うことになる。よって、コスト削減に努め、価格競争力をつけるべきだという考え方です。
◆論理的に意思決定すると
新たな方針を決めなくてはなりませんが、
・技術革新を継続する
・コスト削減に努める
の2つの選択肢のいずれかを選び、方針を決めることになりますが、これでいいのでしょうか?コスト削減を選ぶと将来の競争力に不安を残すことになりますし、技術革新を選ぶと現在の競争力に不安を残すことになります。
こういう話は経営レベルに限らずよくあります。たとえばプロジェクトには常に、QCDのコンフリクトがついてまわり、プロジェクトマネジメントでこれを解消して目標を達成する必要があります。
このようなコンフリクトに対して、ロジカルシンキングでは妥協もやむなしというスタンスで優先順位をつけて意思決定をします。たとえば、プロジェクトの例ですと、品質とスケジュールは妥協しない代わりにコストがオーバーするのは目をつぶるとか、逆に、コストだけは守ってその中で最善のスケジュール、品質を目指すということもあります。
◆コンフリクトを統合する
このときに統合思考という考え方があります。簡単にいえば、コンフリクトがあるからといって諦めずに、最善(セカンドベスト)解ではなく、最適解を見つけるという考えたかです。
考えるというのはそういうことだと言うこともできるでしょう。
最初の技術革新か、コスト削減かという例であれば、考える方向は両立です。技術革新といっても、目的はいろいろとあります。そこで、コスト削減を実現できる技術革新はないかと考えます。言い換えれば、機能や性能を向上させつつも、原価を削減する方法はないかと探すわけです。
これを基本方針として、仕事やプロジェクトを進めていきます。
◆枠組みを変える<
この際に重要なことは、これまでの仕事の枠組みで考えていても、おそらく答えは見つかりません。その意味では割り切ってどちらかの選択肢を選ぶという考え方は間違いではありません。そこで、枠組みを変えるわけです。
そのためには、顧客の意図を十分に理解する必要があります。顧客は技術力を評価しているのですが、技術力とは何か、顧客が本当に評価しているものは何かということを理解しなくてはなりません。
仮に、技術力として評価していたのは、新しい技術を使った新しい機能の適切さだったとしましょう。すると、技術開発そのものはその分野に強いパートナー企業を作り、提携していくことにより、コストを抑えることが期待できます。もし、本当に技術そのものを何らか事情で新しいものにしていきたいのだとすれば、戦略的に新規技術の開発をして、他の顧客へのコスト配賦をすることによってこの顧客への配賦を押さえればコストを削減できるでしょう。
このようにコンフリクトが起こっている枠組みを変えることで、両立する答えを見つけることができるわけです。
◆幅広く多様な要素に目配りする
ここで注意すべきことは、意思決定の枠組みを変えるためには、意思決定の際に目配りする要素をできるだけ多様にとり、丁寧に扱うことです。通常、ロジカルシンキングに基づく意思決定の際には、考慮する要素はできるだけ減らします。冒頭の例で、技術革新と、コスト削減という選択肢になっているのは、単純化しているからです。上に述べましたように、技術力とは何かと考えると、もっといろいろな考慮すべき要素が出てくるはずです。あるいは、コスト削減というのは単なる経費の削減なのか、コストパフォーマンスの改善なのかという要素もあるでしょう。
こういう諸々の要素を切り落として、単純化するわけですが、統合するためにはすでに述べたとおり、これらの中に鍵になる要素があります。できるだけ要素を落とさずに、鍵になる要素を見つけていくことがポイントということになります。
特に、直感的に思い浮かぶ要素や、主観的な要素は客観化、論理化ということで落としてしまいますので、注意しておく必要があります。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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