第6話:ロジカルシンキングの本質(2013.11.09)
◆日本におけるロジカルシンキングの原点
コンセプチュアルスキルの基本といえばロジックです。ところが、このロジックというのが非常にやっかいなシロモノなのです。今回から何回か、ロジックについて考えてみたいと思います。
日本でもいまではロジカルシンキングは新入社員教育にも含まれるようになっています。もっといえば、会社に入る前に身につけておくべきものだと思われています。ところが、この裾野の広がりが、あまり、よい結果をもたらしていないように思うわけです。
この辺から話を進めていきたいのですが、その前に少し、ここにいたった経緯的なものを見ておきたいと思います。日本のビジネスパースンをロジカルシンキングに注目させたのは2冊の本です。
ひとつは文字通り、ロジカルシンキングの本です。
照屋 華子、岡田 恵子
「ロジカル・シンキング─論理的な思考と構成のスキル (Bestsolution) 」、東洋経済新報社(2001)
当時、マッキンゼーに所属していた2人の才女が書いた本で、マッキンゼーのやり方を整理して書いた本だと言われています。そのあと出版された本はこの本に影響を受けていますし、研修もしかりで、いまロジカルシンキングというとこの本の内容に近いものをイメージする人が最も多いと思います。
もう一つは、時期的には照屋・岡田本より先に出版された本ですが、「ピラミッド原則」についてかかれた本です。
バーバラ・ミント(山崎 康司、グロービスマネジメントインスティテュート訳)
「考える技術・書く技術─問題解決力を伸ばすピラミッド原則」、ダイヤモンド社(1999)
です。こちらは論理構造に問題があるとよい文章を書けないということから、自らが考案した「ピラミッド原則」と呼ばれる考え方を提示し、物事を上手に論理立てて述べるテクニックを説明したものです。こちらは照屋・岡田さんのロジカルシンキングほど広まっていませんが、コンサルタントなど、問題解決をする仕事には必須のスキルだと言われています。
◆ロジカルシンキングの本質
これらの教えをベースにロジカルシンキングが普及していく中で、テクニック(ツール)にばかり関心がいき、本質的な問題が置き去りにされてしまいました。それは、ロジカルシンキングというのはできるだけ簡潔なモデルを作り、そのモデルに従って思考するための手法だということです。
これは何を意味するかというと、ロジカルシンキングの本質は「いかに適切な前提をおくか」にあるということです。たとえばこじつけの論理の例として、「風が吹けば桶屋が儲かる」というのがあります。
この前セミナーでこの話をしたら、大手企業で人材育成をされている方から、最近の新入社員は知らない人が多いという話をされていたので、書いて置きます。以下のようなロジックです。
大風で土ぼこりが立つ
→土ぼこりが目に入って、盲人が増える
→盲人は三味線を買う(当時の盲人が就ける職に由来)
→三味線に使う猫皮が必要になり、ネコが殺される
→ネコが減ればネズミが増える
→ネズミは桶を囓る
→桶の需要が増え桶屋が儲かる
なぜこんなおかしなことになるかというと可能性の低い論理を並べているからですが、そもそも論理の可能性が低いというのは、前提が不適切だということだ。たとえば、ネコが減ればネズミが増えるというのは、ネズミの数がネコの数に依存しているという前提になっているわけですが、こんなことはほぼあり得ないでしょう。食物事情だとか、天候だとかの方がはるかに大きい要因だと思われます。
◆なぜ、ロジカルシンキングは難しいか
話が脱線気味になりましたが、ロジカルシンキングでは、適切な前提を置くことによって可能性を狭め、早く答えを出すことを良しとします。前提の問題は桶屋の論理のように可能性が低いだけではなく、いろいろな形で出てきます。
まず、最初は言葉の問題です。たとえば、
顧客はよい品質を求める
→エンジンのバリ(材料を加工する際に発生する不要な突起)をとる
といった話になります。ロジックは間違っているわけではありません。これは品質と言う言葉の定義に問題があり、バリは品質上望ましくないと言う前提が置かれてしまっているわけです。
二つ目は解釈の問題です。
コップが空く
→継ぎ足す
というロジックは誰もが依存ないと思いますが、コップ半分のビールをみてどう感じるかは解釈の問題で、半分は「半分も残っている」という前提であれば継ぎ足さないわけです。つまり、解釈そのものが前提になっているわけです。
◆ロジカルシンキングは常に有効か?
このようにロジカルシンキングの本質は前提にあるわけですが、もう一つ、そもそも、ロジックはどんな場合にでも有効は考え方なのかという問題があります。たとえば、
大切な顧客である
→希望を優先的に叶える
というロジックがあります。このロジックも間違っていません。前提もおそらく間違っていません。でも、結果としてこのロジックは不幸をもたらします。もうお分かりだと思いますが、イノベーションのジレンマです。
これをどう考えればいいのでしょうか?この問題はしばらくペンディングしておき、次回はロジカルシンキングは上のような問題をどう解決しようとしているかについて述べたいと思います。その秘密はクリティカルシンキングやインテグレ─ティブシンキングにあります。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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