◆経営はデザインそのものである
PMスタイル考で以前デザインについて書いたのが、2年くらい前です。
【PMスタイル考】第53話:プロジェクトのコンセプトとデザイン
この2年間の間に、デザイン思考という言葉がずいぶん普及してきて、同時にデザインが経営との関係で語られることが増えてきました。そこで、久しぶりにデザインについて考えてみたいと思います。
最近、タイトルが印象に残った本に、博報堂コンサルティングの書いた「経営はデザインそのものである」という本があります。内容はイマイチなのですが、意図は十分に共感できました。まさに、そういう時代なのだと思います。
◆デザインのさまざまな意味
デザインというのは多義な言葉です。まず、この点を整理しておきましょう。デザインという言葉のもっとも具体的な意味は、
設計を行う際の形態、特に図案や模様を計画、規定すること
と意味だと思われます。この場合、図案や模様は工学的なものだけではなく、芸術、美術的な意味も含んでいます。日本語でデザインという場合にはこの意味で使うことが多く、設計、意匠と呼ばれることもあります。たとえば、コップをデザインするとか、画面をデザインするという風に使うわけです(この定義は、計画という言葉にもいろいろな意味があるのでちょっと複雑です)。
もう少し、抽象的な意味としては
人間の行為をより良いかたちで適えるための「計画」
という定義もあります。この場合、人間の行為には一般的に目的があり、それを良い形で叶える計画がデザインだという考え方です。
たとえば、プログラムやプロジェクトをデザインするとは、プロジェクトの目的をよい形で適えるための計画を意味しています。
さらに抽象化すると、こんな定義もあります。
デザインとは、創造的な活動であり、その目的はモノやプロセス、サービス、サービスシステムのライフサイクル全体にわたる多面的なクオリティを確立すること
これは、国際工業デザイン協議会のデザインの定義ですが、こうなってくると、人間の行うほとんどの活動はデザインということになるのでしょう。
このようにデザインという言葉は多義的に使われます。英語のスピーチを聞いていて、「ほ~、これもデザインというか」と気づかされることがよくあります。実感としてその範囲がだんだん広がっているように感じます。
◆デザイン思考
このような中で出てきたのが、デザインファームを名乗る米国・IDEOによるデザイン思考という概念です。
デザイン思考で考えるデザインが上に紹介した定義と一線を画しているのは、問題解決の活動であることを明確にしたことです。デザインにより、問題の解決に役に立つ製品や行動を生み出すことがデザイン思考だというわけです。これは非常に受け入れやすい考え方です。
ただし、問題解決がデザインの定義だというのが限定的すぎるかもしれません。デザインが行われるのはイノベーションのように問題解決だけではなく、創造的な活動でもあるからです。たとえば、スマートフォンは何か問題解決をするために生み出されたというより、スマートフォンが新しいライフスタイルを作り上げたという方が適切です。
デザインが経営そのものだと考えられるようになってきたのは、スマートフォンのようにデザインを通じて、問題解決に有効な製品や行動を生み出すことだけではなく、さらにその先に「何か」を創り出すからです。
◆デザインは変化をもたらすもの
米国で体験デザインの会社を経営するマリア・ジュディースとデザインリサーチの会社を経営するクリストファー・アイアランドは、「Rise of DEO
: Leadership by design」(邦訳「CEOからDEOへ - 「デザインするリーダー」になる方法」)という本の中で、「何か」はそれらの製品や行動が作り出す「変化」だと言っています。
確かに、デザインが変化を生み出しているだというのは納得ができる話です。かつて、デザインは商品の差別化のための手段でした。デザインによって、商品は姿・形を変えていきました。
さらに、デザインの対象は目に見えない機能になり、デザインが機能を変えていくようになりました。また、同じく目に見えない組織もデザインの対象になり、デザインが組織を変えていきました。
さらに、デザインの対象は人間の行為にまで及ぶようになってきています。インストラクションのデザイン、サービスのデザインなどがそうです。また、コミュニケーションのデザインが組織コミュニケーションを変え、組織を変えるにようになってきました。
このようなデザインによる変化の総体が経営であるというのは非常に説得力のある指摘だといえます。
◆デザインがリーダーの必須スキルになってきた
このようにデザインの概念が広がってくると同時に、リーダーはデザインが必須スキルになってきます。PMstyleでは5年くらい前からプロジェクトリーダーのデザインスキルに注目し、デザインスキルを向上する支援する活動をしています。
プロジェクトに限れば、プロジェクトマネジメントがデザインのフレームワークにもなっていますので、デザインスキルがプロジェクトマネジメントスキルを向上させるという関係にありました。
しかし、今、起こっていることは、経営スキルそのものにデザインスキルが必要だという現象です。上で紹介したマリア・ジュディースたちはデザインに基づくリーダーシップを提唱しています。そして、そのようなリーダーシップを身につけ、経営に関わる問題をデザインの問題だと捉え、イマジネーションと科学的手法で解決できると考えるリーダー、DEO(デザイン・エグゼクティブ・オフィサー)を社会が求めていると指摘しています。
◆ナレッジからデザインへ
50年前に、ピーター・ドラッカーはこれからはナレッジワーカーの時代だとし、マネジャーの役割は部下の一人一人が自立して考えるようにしていくことだとしました。
そして、ナレッジワーカーの時代は終わったと指摘したのが、ダニエル・ピンクです。ダニエル・ピンクはこれからの時代は、ハイコンセプト・ハイタッチの時代だと言っています。
この時代のワーカーは「デザインワーカー」だといえるのかもしれません。そして、リーダーはデザイン思考で組織やプロジェクトを動かすリーダーでなくてはならない。そのような人材になる方法をマリア・ジュディースたちは教えてくれているのです。
デザイン思考を身につけましょう!
【参考文献】
マリア・ジュディース、クリストファー・アイアランド(坂東智子訳)
「CEOからDEOへ - 「デザインするリーダー」になる方法」、ビー・エヌ・エヌ新社(2014)
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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