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第89話:「自信」について考える(2014/09/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆自信か、謙虚さか

錦織圭選手がアジア人として初めてテニスのグランドスラム大会で決勝に進み、日本中が盛り上がりました。

その錦織選手は準決勝を前にして

「勝てない相手も、もういないと思う」

といったインタビューでいったといいます。

日本人は謙虚さを大切にします。そして、このような発言をすると、「謙虚さが足らない」とか、「自信過剰だ」と叩かれます。そして、「フェデラーと決勝で対戦するのはワクワクする。彼は偉大な選手で、昔から憧れだった」といったコメントが好まれる傾向があります。

実際に準決勝に勝つまではこの発言を批判していた評論家もいました。しかし、今回の錦織選手の活躍は、自信を持つことが如何に重要かよく物語っているように思います。

もちろん、日本人は本音を言わず、処世術として、フェデラー云々的なコメントをいうことがあります。その意味で、自信を持つことと、口に出すことは別だと考える人は少なくないと思いますが、その点は認識しつつも、あえて自信を持つことの重要性について語ってみたいと思います。


◆ゆとり世代と自信

話は変わりますが、今回の錦織選手の活躍を見て、一つ「ほ〜」と思ったことがあります。それは、錦織選手はいわゆる「ゆとり世代」です。そして、ゆとり世代のビジネスマンに対してよく言われるのが、「根拠のない自信を持つ人が多い」ということです。

果たしてこれが悪いことなのか。この辺から考えてみましょう。

この問題についてゆとり世代の部下を持つ人からよく聞くのは、大きなことをいうならやれということです。これは一見、まっとうな意見のようで、実は大きな間違いを犯しているのではないかと思います。

5年くらい前からポジティブ思考が注目されるようになりました。これに対しても、ポジティブであることに対して批判的に考える人が少なくありません。「何を根拠にしてそんなポジティブなことを言っているのだ、本当にできるのか」といった具合です。

しかし、ここで考えてみなくてはならないことは、失敗したらどうしようとネガティブに考えていると何もできないということです。そして、その積み重ねが失われた20年になっています。アベノミクスで景気は上向いていますが、この点はあまり変わっていないように思います。なので、第三の矢といわれるイノベーションは掛け声はかかってもなかなか活性化してきません。


◆クリエイティブな日本人がクリエイティブが実行できない

イノベーションもそうですし、創造的な活動もそうですが、誰もやっていないことをやろうとすると、勇気が必要です。勇気を持つには、自信が必要です。ここでいう自信は根拠ではありません。

デザイン思考を発明し、世界で最もクリエーティブでイノベーティブな企業だといわれるIDEOというデザインファームがあります。IDEOの代表のトム・ケリーが日本人を称して、

「日本人は世界でも有数の創造的である。しかし、それが実行されていない」

という指摘をしています。

彼らの考える創造性は2つの要素から成り立っています。一つはアイデアそのものの創造性です。確かに日本人は、現場の作業者から、クリエイターまでさまざまなアイデアを出すことができ、米国人と比べても創造的だと思います。

そして、もう一つは「自信」です。これをIDEOでは「クリエイティブ・コンフィデンス」(創造性に対する自信)といっています。

たとえば、日本人は自分では素晴らしいアイデアだと思っていても、他の人から同調されそうもないアイデアは言い出すことすらできない人がたくさんいます。言い換えると自分のアイデアで人を動かす自信がないわけです。

つまり、自信がないことが、日本人の創造的な活動を阻害しているというのがトム・ケリーの見立てなわけです。


◆そもそも、根拠のない自信とは何の根拠か

上に述べたゆとり世代の自信を「根拠のない自信」だと言っている人の多くは、その組織の常識や、従来のやり方に沿った進め方をする根拠のことを言っているにすぎません。その会社での経験が少ないのですから根拠がないのは当たり前です。

そして、途中で小さな問題がおこればここぞとばかりに常識的な方向に修正しますので、たいてい崩壊してしまいます。これをみて、できないくせに大きな口をきくなというわけです。

一方でこういうことも言っています。

「指示待ちで主体性がない」。

この2つを併せると、早く自分たちの仕事の仕方を覚えて、自力でやってくれと言っているわけですが、それは本当に正しいのでしょうか?

もし、今のやり方が向こう10年、20年続くならこれまでのやり方に合せろというのも一つの考え方です。ところが今のやり方だとあと5年も持たないとすればどうでしょうか?

さらにいえば、やったことのないような仕事を、従来のやり方でやろうとしている光景もよく見かけます。こうなってくると、根拠もなにもあったものではありません。

◆「自信」は最大の武器

このような場合、新しいやり方を歓迎すべきで、「自信」はそのための武器になります。錦織選手は名選手にして名コーチであるマイケル・チャンの指導で自信を持っていったといいますが、自信を持つことは容易なことではありません。であれば、最初から自信を持っているというのは、大いに活用すべきことだと言えます。

よくイノベーションを起こすのは、よそ者、若者、バカ者だといいます。事情はそれぞれにしろ、常識にとらわれず、自信を持っている人です。

実は、PMstyleのPMコンピテンシーモデルには「自信」という項目があります。マネジメントというのは基本的には経験でできる要素はあまりありません。マネジメントの主要な活動は問題解決と意思決定だとすれば、そこで起こった問題はこれまでに考えていなかった問題だからです。それに対して、プロジェクトマネジメントの手法を適用していくわけですが、自信がなければ新しい状況を目の前にして、何とか経験したことを使ってしのごうとするのが精いっぱいです。

ここでなんとかなるという自信があれば、新しい状況に新しい手法を持って立ち向かうことができます。もちろん、失敗することもありますが、それでも自信があれば、なんとかするところまで冷静に対処することができるでしょう。

錦織選手が数々の苦境を乗り越えてきたように。

プロジェクトマネジャーやマネジャーの立場にある人は、メンバーや部下が自信を持って自分の意見を述べる場を作ることに全力を尽くさなければなりません。そのためには、まず、自身が自信を持つことです。

【参考文献】
デイヴィッド・ケリー、トム・ケリー(千葉 敏生訳)
クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法
日経BP社(2014)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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