◆不確実な環境下における計画の役割
アジャイルプロジェクトマネジメントやアジャイル開発という言葉がどこの企業に行っても聞こえてくるようになってきました。顧客価値創造によるイノベーションが実現できるというのが理由のようです。
なぜ、アジャイルが顧客の価値創造につながるのかと聞いてみると、割と多くの人がいう理由が2つあります。一つは、顧客と一緒にものを創り上げていくこと。もう一つはその点に深く関係するのですが、全体の計画ができないという理由です。
今回は不確実な環境下で計画をどのように行うのかという問題を考えてみたいと思います。もちろん、状況を見ながら次の計画を繰り返していくアジャイルはその一つの方法であることは間違いありません。そこにも関係してくる話です。
◆なぜ、計画がうまく行かないのか
まず、計画がなぜ、うまく行かないのかという問題を考えてみましょう。
まず、もっとも大きな問題は
(1)目的・目標が不明確である
ことです。いまさら、説明は不要だと思います。どんな組織でも計画書のフォーマットには目的を書く欄がありますが、目的をきちんと書けている組織も少ないのが現状で、根深い問題であることが分かります。
そして、このような問題を抱える組織にありがちなのが、
(2)計画が目先の問題解決の積み重ねでしかない
ケースです。つまり、当面の問題にひとつづつ対応し、それを積み重ねていくことがよいと考えるケースが多いようです。
話が前後しますが、目標を明確にしているにも関わらず、状況判断を間違えているというケースが意外とよくあります。たとえば、技術レベルの認識が高すぎた(思ったよりも技術力がなかった)というようなケースです。これが三番目です。
(3)状況判断を誤っている
次の問題は、
(4)一つの計画しか考えていない
という問題です。これはほとんの計画が該当するのではないかと思いますが、計画は一つにしてその計画通りにならないことはリスクというパターンの計画です。ITのようなリピート性の高いプロジェクトでもこれでは失敗してしまうことがあります。
ITの大規模なプロジェクトで大失敗をするケースはほとんどこれです。リスクコンティジェンシーというのはシナリオを変えないという前提ですので、それで収まらないケースには代替の計画が必要になりますが、準備していないわけです。
それから、二番目に大きな問題だと思っているのが、「机上の計画」になっているということです。形だけでは作っているのですが、現場の調整をしないままで計画を作っているケースです。このやり方では日本の現場は動きません。
(5)机上で組み立てた計画である
以上は計画策定の段階で起こりがちな問題ですが、実行段階の問題もあります。一つだけ大きな問題を挙げておきますと
(6)計画にコミットしていない
ことです。これは計画段階の(5)や(1)の問題とも関係しますが、計画があるにも関わらず、計画を無視しているケースです。ここで無視というのは、意図的に計画に従わないという意味ではありません(そういう人もいるでしょうが)。
計画はストレッチ要素が入っていることが多く、計画通りにやるという意志がなければ計画通りに行きません。つまり、自分の100%以上の力を出して、計画通りにやろうとすることがコミットです。
◆問題を引き起こすのは計画を確定的だと思う認識
こういった問題は、実は計画に対する前提に起因しているようです。もっとも大きな誤解は、計画は、事前にやり方を完璧に決めておき、それに基づき、論理的に、あるいは客観的につくるものだということです。
以前、やったことをそのまま繰り返すのであればそのような計画が可能ですが、そうだとすれば、マニュアルを作ってやるべきで、計画は必要ありません。計画と言うからには、何か固有の要素があり、そこについてはやり方を決めることができません。
つまり、見積もりが常に正確にできるとは言えません。
そこで、仮説を作って、仮説を検証しながら進めていきます。途中で仮説が間違っていたと分かれば変更します。
この仮説こそ、計画です。
ここで、仮説を立てなくてもいいように、情報収集を徹底的にやろうとするタイプの人がいますが、これは無駄です。ひょっとすると何か有力な情報をくれる人が登場するかもしれませんが、本質的にはその人も全く同じことをしたわけではなく、未経験の未来のことですから、いくら頑張っても仮説の域を出ません。
計画が仮説だとすると、論理性や客観性に頼りすぎることは賢い選択だとは言えません。たとえば、はっきりしないときにみんなで決めるとロクなことがありません。むしろ、どのような仮説にするかは責任を持つ人が経験に基づく勘や主観で決めた方がいい結果がでます。
実はこの構造はアジャイルにもそのまま当てはまります。
◆計画の問題を引き起こす10の認識
このような計画に対する問題を引き起こす前提(思い込み)で影響が大きいものを10個上げるとすれば、次の10個だと思われます。
・計画は客観的なものである
・計画は論理的なものである
・見積もりはできる(できるようにすべきだ)
・計画は積み上げで行うものだ
・正しい計画は唯一である
・計画は一つ準備すればよい
・実行が保証できない計画は意味がない
・計画はデスクワークである
・計画は管理するために作る
・計画においては計画対象期間だけのことを考えればよい
◆問題を解決するには
こういった思い込みを払拭し、正しい態度で計画をするにはどうすればよいのでしょうか?
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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