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第61話:イノベーション・イニシャティブ(2013/01/07)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆イニシャティブ=幸福

「イニシャティブ」という言葉があります。戦略イニシャティブ、システムイニシャティブといった使われ方をする言葉です。日本語でいえば取り組みという意味だと思いますが、そこには、主体性が絡んできます。

セス・ゴーディンは、これからの組織のあり方を描いた著書「トライブ」の中で、トライブ(単語は部族と言う意味だが、コミュニティに相当する)を推進するものとして、

イニシャティブ=幸福

という方程式を示しています。どういう意味かといいますと、斬新でスタイリッシュ、常識破りで現代的な魅力のある製品やサービスを作りだすにはイニシャティブが大切で、そのような製品やサービスを生み出すことは「最高に面白い」という副作用をもたらす。そして、面白い仕事は人を夢中にさせ、人生を素晴らしいものにする。だから、「イニシャティブ=幸福」なのだそうです。

ゴーディンらしいロジックですが、斬新さに対して市場が高く評価するものを生み出すにはイニシャティブが重要だということは真実でしょう。

ポイントは主体性にあります。イニシャティブは単なる取り組みではなく、主体的な取り組みなのです。主体的だからこそ、常識を超えた斬新なものが生まれる。そして、ゴーディンのいうようにイニシャティブは人を夢中にさせ、幸福をもたらすのでしょう。


◆イノベーション・イニシャティブ

さて、最近「イノベーション・イニシャティブ」という言葉をよく耳にするようになりました。2010年くらいから2000年前後のITイノベーションの時代以来のイノベーションブームが始まっているそうです。イノベーション・イニシャティブはイノベーションに対する取り組みのことですが、この言葉が意味するところは、新しく、結果が不確実なすべてのプロジェクトです。

イノベーションは誰かに指示されて取り組むものではありません。もちろん、会社としてイノベーションに取り組むといった方針表明のようなものはありますが、実践としての取り組みは主体性を以って行うものです。

イノベーションの議論をするときにこの点が軽く見られ過ぎているように思うのですが、よく考えてみると当たり前のことで、上司が部下に指示するときに上司は自分がやったことのないことは方向性は示せても具体的な指示できませんし、結果が見通せないこともおそらく指示できないでしょう。できることは、部下がイノベーションに主体的に取り組める場をつくることです。

つまり、イノベーションというのは本質的にトップダウンではなく、上からの指示ではなく、誰かが主体的に行うことでしか、実現されないものです。それゆえに、イノベーション・イニシャティブなのです。


◆イノベーション・イニシャティブとプロジェクト

つぎに、イノベーションとプロジェクトの関係を考えてみたいと思います。イノベーション・イニシャティブはプロジェクトだと言いましたが、イノベーションの源泉になるのはアイデアです。イノベーションを起こそうとすると、まず、イノベーションの名に値するアイデアを生み出そうとします。

しかし、アイデアだけではイノベーションにはなりません。アイデアの実行が必要になってきます。アイデアを生み出すまではどんなイノベーションでも同じような方法でできますが、実行のところはそうはいきません。

ちょっとした業務改善も製品開発も上に述べた条件を満たせばイノベーション・イニシャティブですが、実行の方法はイノベーションの種類によって異なります。業務改善であれば改善の動機づけを行うことで実行できます。動機付けをすることによって、特別なリソースを確保することなく、継続的に改善を行うことができるでしょう。

ところが、新しい製品を作りだそうとするとこのような方法ではできません。イノベーションを推進するプロセスが必要になってきます。ここでプロセスとしてよく使われるのがプロジェクトです。プロジェクトマネジメントにより、公式にリソースを確保し、アイデアを実現していきます。


◆イノベーション・イニシャティブはプログラムで

ところが、ここには一つの前提がありましす。それは一つのアイデアでイノベーションの目的が実現できるという前提です。イノベーションには、競争に勝つなどの目的がありますが、その目的が一つのアイデアで実現できるという保証はありません。アイデア自体が実現できない場合もあるでしょうし、アイデアが思ったような効果を発揮しない場合もあるでしょう。

現実的に考えると、イノベーションには複数のアイデアが必要になります。そして、一つ一つのアイデアを実現するプロジェクトを立上げ、実行していきます。

ここがイノベーションと、そうでない業務(ルーティン)のマネジメントの本質的な違いで、イノベーションは失敗することを前提にして、最終的に成功を勝ち取ることを目標にします。ここにイニシャティブが必要になります。一度や二度、失敗しても、なんとかして商品やサービスを市場に出したいと思い、夢中になって取り組むことによって初めて、イノベーションの目的が実現できます。

ただし、イノベーションだからといって無制限のリソースがあるわけではありません。その中で、どのアイデアを実行すればイノベーションの目的を達成できる確率が高くなるかを考えながらアイデアを実行していく必要があります。

そのためには、プログラムとしてアイデアを実行し、プログラムマネジメントをしていくことが効果的です。プログラムマネジメントの要点は

(1)イノベーションの目的に対するアイデアの優先順位を明確にする
(2)一つのアイデアを実行した結果を評価し、目的実現の視点から未実行のアイデアを見直す

の2つです。

今年は、イノベーションの中で実行部分にこだわっていきたいと思っています。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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