◆野党とは
選挙も終わりました。3年半の民主党政権で強く印象に残っているのは、最後まで野党だったってことです。消費税アップの決定とか、原発の稼働とか、国民に受けが悪いことをやるときには与党であることを強調していましたが、言動を見ていると最後(選挙戦)まで野党だったように思います。そして、これが国民から評価されるような成果が出せなかった理由ではないかと思います。
辞書を引くと、「野党」とは
政党政治において、政権を担当していない政党
とあります。
政党政治において、政権を担当している政党
「与党」とは、
とあります。
最近、大和ハウスのCMで、深津絵里さん(妻)とリリーフランキーさん(夫)の扮する夫婦の関係が、野党だ、与党だというCMがありますが、政治だけではなくこの言葉はいろいろな意味で使われています。その一つが、企業です。
◆野党と与党の違い
最近のリーダー向けの啓蒙書を読んでいると、与党、野党という表現が使われているものが結構あります。そもそも、与党と野党はどう違うのでしょうか?いうまでもなく、与党は権力を持っています。大和ハウスのCMは外食とか、旅行で、自分の希望が通らない夫が自分は所詮野党だと嘆くというものです。
与党は権力を持っているので自分たちがよいと思うように決めることができるわけですが、決めるに当たっては二つの条件があります。
一つ目は「実現できる」ということです。できないことを決めてしまうと、結果としてできず、信頼を失い、与党を維持していけなくなります。野党は(自分たちにとっての)理想論を語ることができますが、与党は現実論を語る必要があるわけです。
二つ目は、世の中が100%与党ではないので、意志決定にバランスが必要だということです。つまり、野党の意見にある程度配慮しなくてはなりません。
◆企業の中の与党と野党
さて、企業の中で与党と野党というのはどういうものでしょうか。比喩ですので、派閥のような形で与党と野党があるわけではありません(それに近い派閥がある企業もなくはないようですが)。企業における「権力」を持つのは経営陣で、経営陣と利害関係が反する人たちが野党ということになります。一つ単純な構図をあげれば、経営陣が与党で、労働組合(現場)が野党と言うのが分かりやすいと思います。
日本の企業の多くは、過去には経営陣も現場も利害関係を超えて、Win-Winの関係を作ろうとしてきました。この背景には、責任と評価の曖昧性がありました。責任と評価という対立の源泉を曖昧にすることで対立をなくし、企業一体となって企業活動をしていこうとしたわけです。現実に、新卒で入社した時に役員の報酬というのを聞いたことがあるのですが、「ふ〜ん、そんなものか」という感じでした。
ところが、米国流のガバナンスが導入されるようになり、責任や評価は曖昧なままではすまなくなってきました。そのあたりから、与党と野党という関係が明確になってきたような気がします。
◆与党と野党では批判の方法が違う
そもそも、与党だからといって、経営陣の言い分をそのまま聞くわけではありません。むしろ、批判的な精神を持ち、経営を革新し続けることが与党には求められますし、それが企業を成長させる原動力になります。批判という点では与党も野党も同じなのですが、違いはその内容にあります。ここでは、与党の考え方を与党思考、野党の考え方を野党思考と呼ぶことにります。
よく何でもかんでも反対する野党という言い方をしますが、出された方針に対して、批判的に考えることはよいことです。鵜呑みにしてしまうと、外の世界が見えなくなり、企業は衰退していきます。
与党思考と野党思考の違いは、批判の方法にあります。野党の批判は批判するだけの場合が多く、提案をする場合も自分たちの立場から提案します。一つ例をあげて説明します。
◆与党思考と野党思考の違いの例
たとえば、収益の確保のために予算を一律10%コストダウンするという方針が出たとします。
野党思考だと、10%のコストダウンをすると顧客に今のレベルの品質の商品を届けることができなくなるという反対をします。そして、たとえば、10%のコストダウンではなく、10%売値を上げることを提案します。これだと自分たちは痛まないわけです。よく現場に権力を持たせると会社がつぶれるといいますが、まあ、そういうことです。
与党思考だとそうはいきません。10%売値を上げると、売れなくなり、収益が下がることは明らかです。これでは経営的に成り立ちません。だからといって、10%のコストダウンを受け入れ、品質が下がっては何にもなりません。そこで、10%には反対しつつ、品質を保ちながら、収益を上げる方法を考え、提案していきます。
つまり、自分たちの利益ではなく、会社の利益のために何をすべきかを考えるのが与党思考です。
◆与党思考は現場視点ではできない
ここで考えてほしいことは、品質を保ちつつ、収益を高めるというのは現場視点ではできないということです。現場視点で考えると、品質には一定のコストがかかるので、収益と両立しないということになります。生産コストだけでみればそういうことです。
ところが、視点を上げて生産ではなく事業として考えると、品質にコストをかけても出荷後のトラブルが少なくなり、トラブル対応のコストが下がれば、トータルで収益を高めることができます。
このように自分たちのため(視点)ではなく、会社の視点で考えると、異なる答えが得られることがよくあります。これが、与党的な発想です。
もう一度、話を整理しておきますと、野党は自分たちの立場でだけ考えます。これだと問題解決の選択肢は狭く、現実的な答えは出てきません。これに対して、経営的な視点で考えると現実的な異なる選択肢が見つかることがよくあります。
◆現場が与党思考をする方法としてのプロジェクト
ところが、与党思考をするのは簡単ではありません。情報がないからです。昔の日本企業のように、現場に好きなようにやらせて、それを経営陣に通していくようなマネジメントができれば話は別ですが、内部統制が厳しくなるなか、このようなやり方は現実的ではなくなってきています。かといって、いくら企業の情報共有が進んでも、経営の情報に無制限にアクセスできるわけではありません。
そこで注目すべきが、「プロジェクト」です。プロジェクトは既存の組織と独立した形で活動します。そこには、経営陣から現場まで人を巻き込むことができます。つまり、プロジェクトは、デザイン次第では現場が与党思考で活動し、健全なる対立を起こすことにより、経営陣の思惑を超えた成果を出すことのできる活動なのです。
このような発想を持ち、プロジェクトマネジャーは与党思考で現場をみることが不可欠です。
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好川哲人、MBA、技術士
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15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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