◆スター主義経営
スター主義経営という言葉があります。おそらく、造語だと思いますが、ハーバードビジネススクールのジェイ・ロッシュ教授と、ベイン・アンド・カンパニーのコンサルタント トーマス・ティアニー氏がプロフェッショナルファームの経営形態として使った言葉です。もともとの英語は、「Aligning
the star」ですので、スターを並べて、事業を行うといったイメージです。
ジェイ・ロッシュ、トーマス・ティアニー(山本 真司 , 大原 聡訳)「スター主義経営―プロフェッショナルサービス・ファームの戦略・組織・文化」、東洋経済新報社 (2007)
スターという言葉は死語化しているように思いますが、ジェイ・ロッシュ教授たちのいうスターとは、
「優秀かつ長期的に組織に価値をもたらす従業員」であり、「卓越した個人の能力を持ちながら、チームワークを重視し、企業の利益を最優先で考えるという行動特性を持つ存在」
のことです。まさにビジネスの世界できらめく人材で、ビジネススターとでもいうような人です。
◆スターとは
この定義から分かるように、いわゆるカリスマリーダーで、会社に入ってからずっと業績を上げ続けているが、その人の通ったあとはぺんぺん草も生えないといった狩猟型の人ではありません。キーワードは
・長期的に組織に価値をもたらす
・チームワークの重視
・企業の利益最優先
の3つですので、チームを動かしながら、人も育てつつ、成果を上げていくというイメージの人材です。
昔から、日本人のリーダー像の中にはスター嫌悪のような感覚があります。それを象徴している言葉が、出る杭は打たれるという言葉です。また、サーバントリーダーシップが好まれるのもその一つの表れだと言えます。
要するに、「リーダーとは汗をかいて手柄はとらない」ことが「美しい」という道徳観のようなものがあるのです。
◆シュリンクする成果
組織として考えるとこれは、合理的な考え方です。年金制度の話ではないですが、現行の世代を次の世代が支えるという考え方です。現行の世代とは、業績責任を持つ世代、つまり、マネジャー以上です。
年金制度と比較してみるとよく分かりますが、このような考え方は、年次序列がないと成立しません。たとえば、ずっと平社員のままの人が出てくると崩壊します。その人たちにとって、汗をかくモチベーションがないからです。
今、日本は年功序列が崩れ始めています。もう、崩壊しているといっても過言ではありません。そのような環境の中で、リーダーに汗をかいて手柄を取らないことを求めると、何が起こるのでしょうか?
成果のシュリンク(縮小)です。現に多くの会社で起こり始めています。事業計画で成長をうたっても、実現できなくなっている事業がたくさんあります。
◆スターで日本再生
これからもう一度、成長するには、成果を出し続ける人を作る、スター主義に切り替える必要があるのではないかと思います。ただし、そのスターは、人を蹴落として自分だけが目立つ存在、つまり、ゼロサムの世界のスターでは意味がありません。ジェイ・ロッシュ博士のいう
卓越した個人の能力を持ちながら、チームワークを重視し、企業の利益を最優先で考えるという行動特性を持つ存在
でなくてはなりません。プラスサム、つまり、チームを育てながら、結果として自分の成果(アカウンタビリティ)を高いレベルで出し続ける人です。
◆長期にわたって成果を出すには、新しいものへのチャレンジが不可欠
ここにもう一つ重要な視点があります。それは長期にわたって成果を上げ続けることです。そのためには、何をすればよいのでしょうか?それが、いま、過去にないくらい関心が高まっているイノベーション、つまり、新しいことにチャレンジすることで
す。
スターであるかないかの分かれ目は、新しいことに自発的にチャレンジできるかどうかだと思います。目先の課題に取り組むときに、5年先に役立つ課題をもぐりこませておく。そんな発想がスターには必要です。
PMstyleの目指すプロジェクトリーダー像はこのようなスター性のあるプロジェクトリーダーです。そして、スタープロジェクトリーダーが綺羅星のごとくいる組織では、それに続くスターが育ちます。また、外部からも人材がどんどん入ってくるでしょう。
もちろん、顧客もスターに惹かれ、ファンになる。そんな企業になりたいものです。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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