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第156話:先の見えない時代の本質と生き抜き方(2019/09/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆はじめに

PMスタイル考の154話で

【PMスタイル考】第154話:VUCA化するビジネスやプロジェクトをマネジメントする

という記事を書いた。

この記事でも書いているように、VUCAは

「Volatility」(変動性:変化が激しく不安定)
「Uncertainty」(不確実性:問題や出来事の予測がつかない)
「Complexity」(複雑性:多数の原因や因子が絡み合っていること)
「Ambiguity」(曖昧性:出出来事の因果関係が不明瞭で前例もない)

の頭文字をとった言葉(概念)で、この5年くらい、ビジネスの世界でもこういう現象が目立つようになってきている。VUCAを一言でいえば、

「あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が困難な状態」

だといえる。

今回のPMスタイル考は、このような状況においてだんだん増えてきている「VUCA時代をいかに生き抜くか」という議論を調査し、少し整理してみたい。


◆VUCA時代を生き抜く

VUCA時代を生き抜く方法といった議論が、ウェブ記事や書籍で行われるようになってきている。特に今年になってから目立つようになってきている。ウェブ記事だけではなく、書籍でも言及したものが増えている。

注目したいのはこの記事の後半の書籍紹介のリストを見てもらうと分かるように、著者がビジネス書のベストセラー作家ばかりであることだ。まさに、これから重要なトピックスになっていくことを予感させる。

VUCA時代の生き抜け方を眺めていると、マネジメントやリーダシップの在り方に関するものと、働き方に関するものに分かれていることに気づく。そこで、この記事ではこの2つに分けて、まず、ウェブ記事を紹介し、整理してみよう。


◆マネジメントやリーダーシップに関する議論

まず、マネジメントやリーダーシップに関する議論である。

もともと、VUCAは、米国の陸軍で1990年代の冷戦終結後の国際情勢を意味する用語として使われ始めた言葉である。冷戦構造が長く続いていたが終結し、ソ連崩壊、ドイツの統一、中国の政策の変革などがあり、まさに、複雑性が増し、将来の予測が困難な情勢だったが、これをVUCAと呼んだ。ここでは、マネジメントやリーダーシップを喚起するための概念だった。

ビジネスの世界でもVUCAが注目され始めたのは、2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「VUCAワールド」という言葉が使われたことが契機だと言われているが、その前に、米国の軍人であったスタンリー・マクリスタル将軍が2014年のASTD基調講演でVUCAについて述べたことが一般化の大きな契機になっていると思われる。

マクリスタル将軍は

「VUCAの世界で生き残るために求められるポイント」

という演題で、3つのポイントを提示した。

・予測できるという傲慢さ(predictive hubris)を捨てる
・組織的な適合性(organic adaptability)を高める
・共有化された意識と権限委譲による実行(shared consciousness & empowered execution)

の3つである。陸軍のマネジメントというと出てくるのがOODAであるが、まさにOODAの前提になっている考え方だといってよいだろう(OODAについては、PMスタイル考154号を参照してください)。

また、2017年にはグロービス経営大学院学長の堀義人さんが、日本経済新聞に「「VUCA」時代、リーダーに重要な4つの言葉」というタイトルで

「Vision」:未来の青写真を描く
「Education」:日々アンテナを張って、データを自分なりに解釈し、知恵を持った人と議論を重ね、新しいテクノロジーや経営手法を学ぶ
「Dialogue」:意識的に自分と対極にある様々な職業や地域の人と対話を重ねる
「Action」:確実に行動する

の4つが重要だという記事を書いている。これらは、人材一般についても言えることだろうが、この記事ではリーダー向けの提言として述べられている。

3つ目に紹介するのは、2019年に日本IBMの部長である河野英太郎さんのTHE 21Onlineで、「先の見えない時代に成果を出すための「4つのスキル」という記事で、

1.限られた時間で成果を出す
2.答えのない問いに答えを出す
3.多様なメンバーをまとめる
4.働き方の持続可能性(サステナビリティ)を高める

が重要だと指摘されている。VUCAの捉え方として、先が見えないというところを重視しているのは、一つの見識だと考えられる。


◆VUCA時代の働き方

また、マネジャーやリーダーに限らず、人材像や働き方を示した議論もある。これには人材育成企業であるBerlitz、キャリア系のメディアであるEarth lab、KACHITSUKUVUCAの記事を紹介する。

最初は、Berlitz Global Blogの2015年に掲載された「VUCAとはなにか?打ち勝つ人材の3つの資質」という記事だ。この記事は、VUCA時代の人材に共通の、特有の資質は何かを考えた記事で、

1. 予測不能な事態や障害は当然起こり得るものと考えている(Accepts)
2. 目標へのシナリオを常に考え、必要に応じて随時書き換える(Thinks)
3. 未来の自分が最良の判断ができるように、現在できることを最大限する(Takes action)

の3つが必要だとしている。

次にEarth labは、「激動の時代を生き残るために必要な5つのアクション」という記事で、リーダーに限らず、こういう行動ができればVUCA時代に活躍できるかを示している。以下の5つだ。

・アンテナを広く張って情報収集をする
・アイデアがあれば即実行
・疑問を持ち続ける
・学び続ける
・明確なビジョンを持つ

さらに、KACHITSUKUも同様の視点で「VUCA時代で成功する人材の7つの特徴」という記事で、以下の7つだと指摘している。

・未知のものに対して怖いではなく興味を持てる人
・アウトプットを意識しながら学習し続けられる人
・仕事が楽しくて勤務時間外でも常に頭で考えている人
・明確なビジョンがあり行動に移せる人
・新しい枠組みを構創できる人
・主体性が強くやり抜く力が強い人
・他者の感情を動かすのがうまく周囲を巻き込んで成果をだせる人

なお、記事のURLは最後にまとめて掲載しておきますので、興味があるものがあればご参照頂きたい。


◆本質と対応の方向性

紹介した6つのウェブ記事を読んでみると、なんとなく、共通した点もみられるが、そもそも、VUCAで起こる変化の本質は何かというところが問題である。これに対してもさまざまな意見があるが、ここでは

1.最適化の意味がなくなる
2.経験自体の価値がなくなる
3.予測(計画)の価値がなくなる

の3つだという立場を取りたい。

これらを変化の本質として、さまざまな現象が起こっているのがVUCAワールドというわけだが、本質を考えるとVUCAへの対応方法の原理は非常に単純である。

(1)変化していく環境に早く、適切に対応できる柔軟性を持つ
(2)新しい環境から柔軟に学び続ける
(3)とりあえず試し、結果を見ながら修正を繰り返していく

という3つの方向性が考えられる。上で紹介したVUCAへの対処するマネジメントやリーダーシップ、働き方はいずれもこの3つの範疇に入っていると考えられる。

最後になるが、このような方向性に進んでいく際に一つのポイントになるのがコンセプチュアルスキルだということを指摘しておきたい。実際に、いろいろな人が指摘している対処の優劣を決めるのはコンセプチュアルスキルだと考えられる。

◆参考資料

上で紹介した議論をしているウェブ記事は以下のものである。

【Berlitz Global Blog】「VUCAとはなにか?打ち勝つ人材の3つの資質」(2015/2/12)

【堀義人】「「VUCA」時代、リーダーに重要な4つの言葉」(日本経済新聞、2017/1/11)

【河野英太郎】「先の見えない時代に成果を出すための「4つのスキル」(THE 21 Online、2019/03/04)

【KACHITSUKU】VUCA時代で成功する人材の7つの特徴(2019/3/14)

【Earth lab】激動の時代を生き残るために必要な5つのアクション(2018.09.07)


◆VUCAに触れている書籍の紹介

最後に、VUCAについて触れている書籍を紹介しておこう。紹介したいのは、

山口周「ニュータイプの時代」(ダイヤモンド社)

佐宗 邦威 「直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN 」(ダイヤモンド社)

岩下智「面白い! 」のつくり方(CCCメディアハウス)

の3冊だ。特に、山口周さんの「ニュータイプの時代」では、時代特性の一つとしてVUCAを取り上げ、特質と対応方法を述べている。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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