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第155話:プロジェクトリーダーの意思決定は総合的にしか評価できない(2019/08/09)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆メンバーのできないことやメンバーがやらないことをやること

今回のPMスタイル考は、古くて新しい問題である、プロジェクトリーダーの意思決定の問題を考えてみたい。なぜ、こういう記事を書こうと思ったかというと、あるプロジェクトリーダーと話をしていて、「2つの意見のどちらが正しいか判断できないときには、専門的な議論になるので、メンバーに話し合いをさせて決めてもらう」といったくだりがあり、違和感を感じたからだ。

この記事でもっとも言いたいことを最初に書いておくと、リーダーの役割は「メンバーのできないことやメンバーがやらないことをやること」だ。

ここで専門家であるメンバーが判断できないことをあまり詳しくない自分が判断できないと思うリーダーが少なからずいると思う。このように感じる理由は、どういう事情があるにせよ、メンバーの実務の詳細に口をはさんでいるからだ。


◆「正解がある」という前提が崩れている

専門家であるメンバーが考えて結論が出せないことをリーダーが決定できるはずがないと考えるのはある意味で正しい。だから、プロジェクトリーダーは専門家であるべきだという考え方もある。特にスピードを以って意思決定をする必要があるプロジェクトではリーダーに専門性がないと不十分だと考える人も少なくない。

こういう考え方をするのは、一つ、大きな前提がある。それは、「正解がある」ということだ。正解がある問題に対しては、専門知識は役立つし、経験があればあるほどより正しい答えに辿り着ける。従って、この前提があれば、リーダーには専門性があった方がいいし、専門性がないリーダーがメンバーより適切な判断ができないというのも分かる。

しかし、VUCAの時代のプロジェクトは正解がないプロジェクト、類似性のないプロジェクトの方が圧倒的に多い。本来の意味のプロジェクトだ。このようなプロジェクトでは、経験や専門知識はあまり役立たない。リーダーが相談される問題はすでにメンバーが散々議論をしていて、正解が見つからない問題だと考えた方がよい。

以前であれば、それはメンバーの専門性が低いとか、経験が少ないために正解が出せないのでリーダーに相談するという流れだったが、VUCA時代の今は正解がないので見つからない可能性が高い。つまり、どちらもあり得る、どちらを選べば正しいのか分からないというケースが多い。

このように、正解があるという前提が崩れているのだ。

ただし、まったく答えが見つからないというケースは珍しく、多くの場合は意見はいくつかあるのだが、どれがいいかで結論が出せないケースだ。

例えば、顧客や上位組織が無理を言ってきたときに対応するかといった判断や、新しいやり方がうまくいかないときに従来のやり方で一からやり直すかという判断、メンバーが疲れてきているときに少し休んでパフォーマンスを回復させるかという判断などはこういう状況になることが多い。


◆調整はリーダーの役割か

こういうケースでメンバーが答えを決めれない場合、リーダーの役割はなんだろうか。

この問いに対して、調整することだと考えているリーダーが多い。これは本当にリーダーの役割なのだろうかという疑問が残る。

調整を行うのは、結局、リーダー自身がその決定の責任を取りたくないという気持ちによることが多い。もちろん、調整が必要な局面もあるが、それはリーダーがやる仕事ではなく、別のメンバーに任せればいい仕事だ。結局、調整という立場に立とうとするのは、責任を逃れるためである。

少し脱線するが、チームで意見の対立が起こったときにリーダーがファシリテーションを行うのは、本来の新しい意見を生み出すためというより、リーダーが責任を回避するためだという指摘がある。この指摘は正しいと思う。ファシリテーション手法は誰もが自由に対立の調整をできるようにすることであり、プロジェクトではメンバー同士の意見の対立はメンバーがファシリテーションして解消することが望ましい。


◆メンバーが期待しているのは正解を示すことではない

話をもとに戻す。このように正解が得られずにリーダーに相談される場合、リーダーに求められているのは正解を示すことではないことだ。メンバーが期待しているのは判断してもらうことだ。

そもそも、メンバーが議論しても正解が見つからない、正解がない問題に対して、正解を示すというのは不可能である。

そのような問題に対してはとりあえず判断をすることが大切で、その判断に基づいてプロジェクトが動いていき、結果を見て、決定を変更しながら進めていくのが、VUCA時代のプロジェクトである。


◆リーダーの決定をどう評価するか

さて、こういう考え方をすると、プロジェクトで生じる一つ個別の問題への判断は適切なものもあれば、不適切なものもあるだろう。適切かどうかは結果でしかわからないが、個別の判断に対して評価ができるものではない。

一つ例をあげよう。ある受注生産のプロジェクトで、顧客から要件分析の担当者を変えてほしいという要望があり、メンバーの意見は、「顧客の不満を解消するためにそうすべきだ」という意見と、「対応すると作業担当も変更せざるをないので、効率が下がり、スケジュールが遅れる」という2つに分かれた。

ここでリーダーは顧客の担当を変更した。結果、一部のメンバーの心配していた通り、作業の効率が悪くなり、スケジュールが遅れた。ここまでで考えると、リーダーの判断は不適切だったことになる。

そして、2週間の納期遅れで納品したところ、顧客は遅れたことを問題にせず、むしろ、当初考えていたものより、より深く要求を引き出してもらい、満足だという評価をされた。つまり、担当者の変更をするという判断は適切だったと評価できる。

このように、プロジェクトリーダーの判断は個別の判断が正しかったかどうかではなく、総合的な結果・状況を見て初めて評価されることになる。極論すれば、局面局面でどういう判断をしても、プロジェクトが目標を達成でき、目的の実現度合が高ければプロジェクトリーダーの意思決定は正しかったことになる。これはメンバーが自分たちで行う判断についても同じである。


◆VUCA時代の意思決定の在り方

メンバーに対して、自分たちで考えて解決できない問題があればすぐにリーダーに相談するというコミュニケーションマネジメントをしているプロジェクトは多い。スピードが問題になるからだが、上にあげれば「経験」によって答えを見つけることができる、立場を使って解決策を見つけることができるからだと考えている人が多いからだろう。

しかし、今の時代、それはほとんど幻想である。リーダーに相談して正解が見つかる問題は、メンバーが正解を見つけることができることの方が圧倒的に多い。相談されて、問題解決をするためにもっと情報を要求して、ヒントになるようなことを投げ返して終わっているケースが少なくない。

これはよい対応だとは言えない。このような問題は部下の間でも意見が分かれる、まったくどうしてよいか分からないという問題であり、とりあえず、リーダーに求められることは判断することである。その判断が適切なものかどうかは、最終的に総合的に考えなくては分からないものだ。

ただし、このような態度で臨むためには一つ重要なポイントがある。それは、プロジェクトチームだけはなく、主要ステークホルダーも含めて関係者にリーダー自身の判断基準を明確にしておくことだ。

もちろん、それはリーダーによって変わってくる。あるリーダーはとにかくスピードを重視するという判断基準かもしれないし、また別のリーダーは顧客ファーストかもしれないし、あるリーダーは自分たちの利益を第一に考えるかもしれない。ここは組織の文アと個人の考え方の問題であるが、重要なことはいずれにしても明確にしておくことである。

できれば、その判断基準はプロジェクト憲章に明記しておきたい。


◆コンセプチュアルスキルが判断の成功確率を向上させる

さて最終的に総合的にとなると「なんだ、結果論か」という話になるし、実際問題として結果論なのだが、よりよい結果を導くスキルがある。それがコンセプチュアルスキルなのだ。

総合的にどうなるかをどれだけ読めるかは、コンセプチュアルスキルの高さに依存している。コンセプチュアルスキルが高ければ、全体が見え、総合的によい結果を得られる判断をできる可能性が高くなる。

もともと、コンセプチュアルスキルはトップリーダーに必要なスキルとして提唱されたものだ。その背景にあるのはさまざまな活動の結果が全体に何をもたらすかを洞察する能力の必要性だ。

コンセプチュアルスキルの定義の一つに

「組織の諸機能がいかに相互に依存しあっているか、また、その内のどれか1つが変化したとき、どのように全体に影響が及ぶかを認識するスキル」

という定義がある。これをプロジェクトに置き換えてみると

「プロジェクトのスコープがいかに相互に依存しあっているか、また、その内のどれか1つが変化したとき、どのように全体に影響が及ぶかを認識するスキル」

だということができる。このようなスキルが高いと、問題の解決に対する判断をするときに、その判断が全体にどういう影響を与えるかに対する洞察が鋭くなる。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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