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第137話:ベネフィットリアライゼーションマネジメント(2018/09/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロジェクトで目的を実現するためのマネジメント

日経ビジネスのオンラインの記事に

「勉強不足の経営者、プロジェクトの失敗を防げず」

というタイトルで、PMI(R)(プロジェクトマネジメントインスティチュート)のマーク・ラングレー プレジデント兼CEOのインタビュー記事が掲載されていた。全般的にはタイトルの通り、経営者向けにプロジェクトマネジメントの啓蒙を行う内容だったが、この中で、PMIの取り組みとして「ベネフィットリアライゼーションマネジメント(Benefit Realization Management)」というテーマを研究しているという言及があった。ベネフィットというのは目的のことで、ベネフィットリアライゼーションマネジメントは、プロジェクトで目的を実現するためのマネジメントということになる。

今回のPMサプリはこの議論をしてみたい。


◆プロジェクトの目的

プロジェクトには目的が必要であるという認識は日本でも普及してきたが、目的実現がマネジメントとしてあまり強く意識されることはない。やはり、目的は背景とし、QCDの目標、そして目標を達成するための計画がマネジメントの中心になっている。

極論すれば、目的はプロジェクトの枕詞みたいなのものだという認識のプロジェクトや組織が多い。少なくとも目的実現をマネジメントのターゲットにしているプロジェクトは少ないだろう。

ところが、このインタビュー記事の中でマーク・ラングレー氏は

「組織がプロジェクトを実施するのは目的を実現するためである」

と明言している。


◆組織の行うべきプロジェクトマネジメント

ここにポイントがあるように思う。PMstyleでは比較的早い時期から組織的プロジェクトマネジメントという名称で、組織はプロジェクトマネジメントとして何をすべきかという提言をしている。それは、プロジェクトを行う目的を明確にし、それを実現していくマネジメントである。

具体的に何をすればよいかは後で議論するが、組織がプロジェクトを実施する理由は、実現したい目的があるからに他ならない。そう考えると、プロジェクトマネジメントとしてすべきことも、目的を実現するためのマネジメントであることは自然だ。

ところが、プロジェクトの現場はそうは考えない。組織に現場のプロジェクトマネジメントの支援を臨む。支援の内容は、リソースを補充するといったことから、顧客をうまくコントロールする、技術的なサポートをするなど、さまざまだ。いずれにしても、プロジェクトがQCDの目標を達成することの支援であることが圧倒的に多い。

◆目的が達成できなかったプロジェクトの例

ここに落とし穴がある。

例えば、あるSIプロジェクトはプロジェクト憲章にその目的として、顧客満足を高め、メンバーも満足し、高い収益を確保することの3つを挙げていた。

そのプロジェクトでスケジュールが計画より遅れてきた。このままでいくと目標(納期)から2ヵ月くらい遅れてしまいそうだ。スケジュールが遅れている理由を調査すると、顧客とのコミュニケーションがうまく取れておらず、そのため仕様決定がちぐはぐになっていることが分かってきた。そこで、顧客に対応する要員としてコミュニケーションが得意なベテラン人材を新たに追加し、それまで顧客対応していたメンバーはメイキングに回り、メイキングの体制も強化した。

このように体制を変えたことによって顧客とのコミュニケーションはよくなり、仕様決定もスムーズに進んだ。そして、予定から1週間遅れで引き渡しが行われ、コストは目標(予算)をクリアし、メンバーの達成感もあり、プロジェクトとしてはうまくいったように思っていた。

しかし、半年後に行った振返りでは顧客の上層部から不満が漏れた。プロジェクトが1週間遅れたことにより、プロジェクトで開発したシステムを使う顧客のビジネスのスケジュールは結果的に1ヵ月遅れとなり、それにより機会損失があったことを上層部は問題視していたのだ。

顧客側からもう少し細かくみると、顧客の現場は自分たちの要望がうまく伝わらず、何度も要求のし直しをし、それにともないスケジュールも遅れてきたので困っていた。そこにベンダー側の体制変更があり、最悪2か月の遅れと思っていたものが1週間の遅れで済んで、喜んでいた。しかし、上層部の受け止め方は違い、遅れの原因は初期メンバーの人選ミスで、最初から変更後の体制ならば計画通りにできていたはずだと考えたのだ。

このため、顧客満足という目的は達成できず、目的が実現できたとはいいがたい状況だった。


◆なぜ、問題が起こったか

さて、なぜ、このような問題が起こったのかを考えてみよう。それは顧客の内部の問題でプロジェクト側の問題ではないと考える人も少なくないと思う。実際に事実だけをみれば、1週間の遅れが、ビジネスのスケジュールを1ヵ月遅らせるという認識は顧客側の担当者はしておくべきことだ。

しかし、プロジェクトマネジメントという観点から考えたときに何が問題かと考えてみると、設定した目的があまり気にされていないことにあると考えられる。

実際に、このプロジェクトに限らず、多くのプロジェクトで上の3つは目的として設定して行うことが多いが、収益率はプロジェクトの実行中にも気にするかもしれないが、顧客満足や従業員満足はほとんど気にかけない。終わってからの振返りで問題が指摘され、次のプロジェクトからは気をつけようということで終わる場合が多い。

しかし、これでは遅い。組織としてみれば、何のためにプロジェクトをやっているのかわからない。目的が実現できて初めて組織としてプロジェクトを実施する意味があるのだ。


◆目的を実現するには

では、プロジェクトの目的を実現するにはどうすればよいのだろうか。

プロジェクトのベネフィットという概念は古くからあるが、それを実現する方法はあまり明確になっておらず、PMIにおいても研究テーマという位置づけだ。PMI(R)の研究によると、ベネフィットを得ている組織とそうでない組織を比較してみると、得ている組織は以下のような3つのプロセスを実行しているという。

(1)プロジェクトの最初の段階で、目的、すなわちベネフィットを明確にしている。同時にステークホルダーに対する責任を明確にし、個人単位で背負わせている。
(2)プロジェクトのライフサイクルにおいて、目的が達成されつつあるかどうか、常時モニタリングする
(3)プロジェクトが終わり、オペレーションに入るときにベネフィットを測定し続ける体制を確立する

PMstyleでは、コンセプチュアルプロジェクトマネジメントという名称でベネフィット・リアライゼーション(目的実現)もマネジメントするプロジェクトマネジメントの方法を提唱している。

それは、

(1)プロジェクトの立上げの前(投資対効果の検討)の段階でプロジェクトで目的(何をしたいのか)を明確にする。
(2)プロジェクトの立上げにおいては、その目的を前提にし、目的実現のために達成すべき目標設定をする。
(3)計画においては、プロジェクトは目標達成の計画としてSQCD、組織は目的実現の目標の計画を明確にし、プロジェクトメンバーに責任を割り当てる。これにより、プロジェクトの目標達成の状況により、組織が目的を実現できているかをモニタリングする。
(4)半年、あるいは1年後の振返りまで目的の実現度を測定し続けて、必ず、目的の実現を確認する。

というものである。上に紹介した例は、このプロセスによって目的実現のマネジメントをしたプロジェクトにおける出来事を示したものである。


◆コンセプチュアルプロジェクトマネジメントの認識

以上のように、プロジェクトの目的は単に枕詞ではないということがお分かりいただけたと思う。そして、広い意味でのプロジェクトマネジメントの中で、組織の行うべきプロジェクトマネジメントとして行うべきものである。

最後になるが、ベネフィットリアライゼーションという言葉は、目的実現という言葉よりもう少し奥行きがあるように感じる。PMstyleでは目的の実現という言い方で、マネジメントだと読んでこなかったが、これを機にベネフィットリアライゼーションマネジメントという言葉を使うようにしたいと思う。つまり、今後は

コンセプチュアルプロジェクトマネジメント
 = PMBOK(R)プロジェクトマネジメント
    +ベネフィットリアライゼーションマネジメント

という認識で展開していきたいと思う。そしていずれは目的をベネフィットと呼ぶようにしたいと考えている。


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  8.本質的な目標を優先する計画
  9.プロジェクトマネジメント計画を活用した柔軟なプロジェクト運営
  10.本質的な問題解決
  11.経験を活かしてプロジェクトを成功させる
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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